第2話
学校に着き、教室に入った俺は即座にその五月蝿さに頭痛が酷くなり、一時限目を抜けることを決め、教室を出た。向かう先は校舎の本館と東館を繋ぐ一階の通路から、校舎裏の方へ入っていった所にある。そこは観賞用の植木で校舎からは死角になっていて、バレずにサボるのにはもってこいの場所だ。一年の六月頃にここを見つけてから今までの一年ちょっとの間で誰かと鉢合わせた事は無いし、教師から何か言われたことも無い。……油断してたんだ。まさか先客がいるとは思っていなかった。そりゃあそうだろう。いつも使っている秘密の隠れ家に、女の子が一人で寝ているとは誰も思うまい。さて、これはどうしたものか…。とりあえずそっと引き返そうかとも思ったが、お互いサボっているわけだし、自分が退く必要もないと思い直し、とりあえず彼女から一番遠いであろう位置に腰を下ろした。
それにしても気持ちよさそうに寝る女の子だ。腰ほどまである黒髪はストレートに伸びていて、寝癖なんて見当たらない。顔立ちも整っていて、身長は平均より少し高いくらいだろうか。正直結構可愛い。そんな子が無防備に寝ているのを見ているのは多少背徳感はあるが、それはそれで悪くないかもしれない。それに、相手が寝ていれば心の声も聞こえては来ない。……平和だ。
そう思っていた矢先だった。
────。
酷い耳鳴りがしたと思ったら、ノイズが聞こえてきた。古いラジオのような、砂嵐のような、凄く耳障りな音。ノイズ自体の音はそんなに大きくない。が、今朝のこともあり、余計に頭に響く。そんなことを考えていると、寝ていた女の子が体を起こしていることに気がついた。そして。
「……おいお前。ここで何してる。」
その女の子らしい見た目や、女子用の制服などとは似合わない、なんとも男らしい話し方。寝ている時には分からなかったが、右目が少し赤く見えるのは気の所為だろうか。かけられた言葉の返事を考える前に、その口調や目に違和感を覚えた。ノイズもまだ聞こえている。
「お前と同じ、サボりだよ。ここは俺のお気 に入りだったんだ。誰が居ようと、何を言われようと、教師にバレない限り退く気は無いぞ。」
とりあえず何か答えなければ、と思い答えたが、少し言い方が強かったか、と少し後悔した。友達がいなくて普段喋らない奴はこういう時に困る。どう伝えたらいいのか分からない。
「そうか……ならいいや。ゴメンな!お前名前は?俺は、あーっと、松本。松本紗綾(まつもとさや)ってんだ。」
「俺は多田野晴彦だ。よろしくするつもりは無いぞ。」
これは本当だ。人と居ると心の声が五月蝿くてしょうがない。……ってあれ?そういえばコイツと話してる間はノイズが聞こえるだけで心の声が聞こえない。まぁ、五月蝿いことに変わりないが。
「そんな事言うなって。よろしくな。じゃあ俺はそろそろ戻るよ。」
そう言うと、彼女は俺の隣を通って去って行った。
あれはなんだったんだ。あの見た目であの話し方なのもそうだが、それよりもノイズだ。あの松本紗綾とかいう女が居なくなったらノイズも消えた。つまりノイズの原因は彼女だということだろう。今までノイズが聞こえるなんてことは無かった。それにあの目も……。気になる事は多いが、とりあえず分からないことを考えても無意味だ。今はこの頭痛をマシにすることを考えよう。
そうして俺は目を瞑り、このまま二時限目が終わるまで寝ることにした。
-ノイズ- 田中 堕郎 @tanaka_darou
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