Action2
「いやーーー、お前が子守りうまくてほんっと助かったわ」
祐賢はネクタイを緩めながら明仁の隣に腰かける。ビジネス鞄を隣に置き、やっと落ち着けるという具合に表情を緩めた。
「佳弥さんの教え方がうまかったんだよ」
明仁は照れた様子で謙遜する。すると、祐賢はかしこまった表情になる。
「こういうこと言うのは違うと思うんだけど、これからも俺や佳弥が大変な時は、頼らせてくれないか?」
明仁は真面目ぶる祐賢の様子がおかしくて笑ってしまう。
「なんだよいきなり。自分ちでそんなビジネス的な返しすんなよ。心配すんな。俺、子供大好きになったから。むしろ俺が関わらせてくれって感じだし」
祐賢は花が咲くような笑顔をして、白い歯を見せる。
「ありがとう! マジで心強いわ!」
祐賢と明仁は互いに長年の友人関係が固く結ばれていることを確認しあう。
「お茶入ったよ」
「ありがとう」
祐賢は佳弥から直接手渡されたコップを取り、お茶をすぐに口へ運んだ。疲れた体に冷たいお茶が沁み渡っていく。コップが口から離れ、爽快感が低音で零れた。祐賢は空になったコップをテーブルに置く。
「食事にする?」
佳弥は、先ほど明仁と話し込んでいた場所より少し離れて、祐賢に尋ねる。
「え、もうできてるの?」
「うん」
「いや、まだ俺腹減ってないわ」
「そっか」
「お前食ってくだろ?」
「いやいいって。さすがに図々しいだろ」
「食ってけってぇ。お前にここまでしてもらってなんもお礼もしないってのは、さすがに俺も心が痛むぜぇ」
「そうよ。食べていって。明仁君の分ももう作ってるし」
「なんなら、俺がお前を抱っこしてやろうか?」
明仁は思わず吹き出す。
「そこまではいい」
「遠慮するなって。俺は心が痛いんだよー。抱っこしてやるからぁ」
祐賢は真剣味を帯びる表情で言う。
「なんでお前一切抵抗ねえんだよ」
「ええ?」
「疑問に思えよ! なんで35のおじさんが同い年のおじさんを抱っこすんだよ。それ家でやるって相当だぞ!」
「んなこと言うなってぇー。抱かせてくれよ~」
「抱かせてくれ言うな! 生々しいわ!」
明仁はおかしなことを述べ連ねる祐賢に呆れた様子でツッコむ。
「もうわかった! 食べてくから抱っこは勘弁して」
「食べてく?」
明仁は渋々首肯した。
「おーし、けってぇい!」
祐賢は嬉しそうに声を張り上げる。
「どうする? もう食うか?」
「ああ、俺もまだ腹減ってないから後でいいよ」
「そっか。んじゃ佳弥、お前もお茶持ってこいよ。ゆっくりしようぜ」
「はいはい」
佳弥は上機嫌な祐賢を微笑ましく思いながら立ち上がろうとするが、思い出したように声を漏らすと、
「あ、でも
「すみません」
明仁は佳弥の背中に声をかける。
すると、祐賢は久しぶりの我が子を拝もうと、明仁の腕の中で眠気を感じていた赤ちゃんの顔を覗き込む。
「由香ちゃん、パパが帰ってきましたよー」
声質がベタに変わった。とても小さい子に使うトーンで、親近感を漂わせようとする。
赤ちゃんの目は祐賢の顔を捉えた。閉じかけていた目はぱっと開かれる。突然変わった愛くるしい表情は新鮮で、またこの子の可愛らしい一面を垣間見た気がして、明仁は嬉しくなる。
「な、俺に抱かせてくれよ」
祐賢は物欲しげに頼む。明仁は眉間に皺を寄せ、祐賢を不審げに見つめる。
「違う!! 由香! 赤ちゃん!」
祐賢は明仁の警戒を感じ取って誤解を解こうとする。
「ああああああ!」
明仁は勘違いを悟り、何度も頷くことで湧いた警戒心を解いていく。
「うん、由香の方な」
祐賢は明仁の顔を見つめながら、必死に明仁の納得の頷きを強化するように繰り返した。
「ん、はい」
「おう」
明仁はゆっくり祐賢の体の方へ受け渡そうとする。
祐賢は優しく包むように手を添え、しっかり育った重みを感じながら体へ引き寄せた。
「おお~~~由香あぁ、こんなに成長したのかぁー。パパが帰ってきたよ~」
祐賢はかわいい我が子の姿や表情をまじまじと見つめながら声をかけた。
明仁も赤ちゃんが親に抱っこされている光景を微笑ましく眺める。
「あっ、あっ、ああー!!!」
しかし、赤ちゃんは顔をゆがめて泣き出してしまう。
「ほらほらいい子だぁ。鳴かないでー。いないいない~~ばああ!」
祐賢は渾身の顔芸を披露する。赤ちゃんは更に泣き出す。
「そんなに泣かないでくれよぅ。由香が泣いているとパパも悲しいよ~~」
祐賢は必死に泣きやまそうとするが、赤ちゃんは悲鳴を上げ続ける。
「変わろうか?」
見かねた明仁は申し出る。
「おおう。頼むわ」
祐賢から明仁へ赤ちゃんが渡る。
「はいはい。おじちゃんですよー」
明仁は赤ちゃんに優しくゆっくりとした口調で語りかける。
すると、いとも簡単に赤ちゃんが泣きやんでしまった。
「すげえな」
祐賢は感嘆と称賛を口にする。
「まあな」
明仁は得意げに応える。
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