【Phase.10-3】上位ランカーの勝ち筋、初心者らしからぬ抵抗
βテストサーバー内の運営告知が終わり、プレイヤーたちが慌ただしくなりだした頃。
再び場面はリゼ(現:リーゼ)の構築したテストサーバー内部へと移る。
──────────────────────────────
≫≫ 戦闘時間残_26分58秒 宇宙ステーション内_オービタルリング接続通路 ≪≪
会話から行動へ移したリーゼの向かう先は後方。
下がりながらも烏となったエクシアで弾幕のように、刻むリズムはバラバラな銃弾を放つ。伴って射線もランダムのように思われたが、その実は頭部・膝・胸部へ的確に。急所狙いと体勢崩しを兼ね備えたものだった。
「! ……もう、せっかちですね」
アルマも一瞬のみ驚きから出遅れたが、戦闘中である事自体は失念しておらずだ。
持ち前の反応速度を活かして銃弾を潜り、弾いてはリーゼへと迫ってゆく。
幾発かは肩口を掠めるも、彼女の視線は彼を捉えて離さない。
「良い度胸と判断だねぇ。んじゃ、次のコイツはどうかな?」
決して
それから試すように次撃を告げたリーゼは、自らの身体を盾として、再び赤銃アリステラを生成。今度は自身の黒いロングコートをブラインドにして、射角を読ませぬようアルマの死角からコート越しで抜き撃った。
アルマ側から見れば、追いかける彼のコート内側より突如の光弾が飛び出してきたため、予想だにしていない一瞬の惑いから腹部へと直撃を受けてしまう。
「……っ、んくッ」
まずは回避され辛いボディへのクリーンヒット一発が命中。短い
やはりコート向こうの死角より放たれたヘッドショット一射に、腕に生成した刃では防御が間に合わず。上体ごと首を後方に反らし、頬肉を抉られながらも直撃はギリギリで回避した。
「ヤルぅ! んでも、まだまだっ!」
「……っ」
これでアルマ側の蓄積ダメージは現在5割弱に至った……が、尚もリーゼの容赦なき攻撃は続く。
出処不明瞭である銃の断続攻撃に、アルマの意識が黒のコートへ向かった直後。飛翔中である烏型エクシアの口が開かれ、内部より放たれた弾丸が彼女に襲い迫っていた。
発射ポイントはアルマの頭上から下方へ撃ち下ろす2発目のヘッドショットだ。
本来ならほぼ死角攻撃ともなった射撃だったが、彼女は初撃のヘッドショット回避時に抜けなくエクシアの位置を把握していた。
そこから発射音のみで瞬時に射撃ポイントをアジャストし、射出ポイントを特定し対応する。
「……決め……させないっ!」
「ぬぉ!」
直後、ポニーテールに結わえていた翼型の髪飾りに
「うっはー! マジですかい……」
髪飾りにも仕込んだ
確かにリーゼがフラベルムの機構として組み込んでいたギミックではあるのだが、臨機応変なるこのタイミングで使う事までは(パートナーとして嬉しい)想定外であった。
「今度は私からっ!」
手痛いダメージを負いながらも、リターンを狙ってアルマがその身を深く・
ダガーのキャスト(投げ)も選択肢としてはあるものの、ハンドガンのエクシア・アリステラの二挺ともが健在な現状では、リーゼが得意とする
従って素直に追い掛ける事こそが正当だろうとアルマは判断した。
対するリーゼの選択……これは彼の戦闘スタイルを理解しつつあるアルマも、予想だにしない行動であった。
「ッシ、面白くなってきた! ソイツには応じようじゃないの」
「!? 向かってきた!」
先程まで「逃げ」と「追い」の関係であった二人。
けれどもリーゼは進行方向を180度変え、今度はアルマの方へ。双方がぶつかり合う展開へと変わるが、これこそ彼の本当の
「……セァッ!」
距離としては既に近接。アルマからすれば自身の間合いであり、「攻撃しない」という
瞬間の驚きはあれど、舞うように振られた彼女の肘より一筋の蒼が生まれ、リーゼを襲う。
『生成順からして、コイツが
このタイミングでアルマに武器を振らせる。
全てはこの瞬間に狙い定めたリーゼの目論見であり、一択しかない「不自由なる自由」をアルマへ強要したのが前進の目的だ。
意図して仕掛けさせた攻撃に対して、リーゼは空いている右手を平にして突き出すと、刃はすんなりと彼の手を刺し貫く。
「当たりに来たの!?」
「
リーゼの手を貫通した瞬間、赤と蒼の
蒼色を示していた刃は、リーゼの掌を通り抜けた切っ先から順に、彼のパーソナルカラーである赤へと染まり、直後にはダガーの存在が砕け散るように消え失せてしまった。
「折られ……ううん、違う」
二人を一瞬のみ繋いだダガーは消え、後に残されたのはアルマの喪失感のみ。意図せぬ武器の『破棄』が発生して戸惑う刹那――
「――まだまだぁっ!」
「また鉄砲っ!」
生まれたアルマの逡巡を見逃さず。
リーゼは再びコートをブラインドとして赤銃アリステラの――ハンドガンのギミック機構たる三連射『トライバースト』を彼女に向けて零距離で放った。
アルマの右半身側から響く銃声たち。
肉薄状態より放たれたであろうその音は『避けられない』と、彼女へ報せてくれた。
『でも……この服なら防げるかも知れない!』
アルマはダガーの『生成』を意識すると、それに感応した右腕に沿って蒼光のラインが走る。
目論見は≪フラベルム≫を
しかし創られたのは
不足した刃に驚く間も挟めず、彼女の左腕には弾丸が集束。一発は弾いたものの、残る二発は肘と肩に着弾して更にHPは減少してゆく。
「くぅっ……」
痛みに因って、味わった≪フラベルム≫喪失感は錯覚でないことを思い知らされたアルマ。『なぜナイフは二本しかでなかったの……?』の疑念が過るも、その答えはいま正に眼前で示されていた。
「さぁて、
「!! ……それは私のナイフ!?」
「正解。んではお
リーゼの右手には赤色に輝く≪フラベルム≫の刃が握られていたのを目撃する。
さきの喪失感から連想したアルマは、彼が何等かの手段を用いて自身の武器を奪ったのだと悟った。
『多分、手を刺したときだと思うけど……一体どうやって?』とアルマの胸中は渦巻くも、刃はもう胸の高さで横振り一閃に放たれている。
トライバーストの被弾で痛みは続いているが、このまま受けてしまえば敗北が確定してしまうだろうだろう。
『状況は解らないけど……まずは避けるっ!』
紙一重でのスウェー回避。バレエでは「カンブレ」と呼ばれる技術で、胸椎・腰椎部を背面に反らせて上半身と下半身を片仮名の「コ」の字のように折り曲げる行為だ。
この動きの存在自体は既知としていたものの、リーゼ側からはまるで彼女の上半身が消え失せたように見えた程のキレだった。
「良いカンブレだ。でもソレじゃ一手不足かな?」
「その攻撃、あの人の!」
上体は弓なりのまま。視線は切らずのアルマが見たものは、リーゼの振るった
それは極々最近に自身の身体で味わった、上位ランカーのチカが使う『ウロボロス』なる攻撃に酷似していた。
「イエース。シュメキャン(SMCの略称)ってヤツさ」
「……んっ!!」
息を飲み、地面を蹴って後方への宙返り。
上体は逆さまのまま身を捻り、接触ポイントを極小まで絞るアルマ。だが直撃自体は不可避だ。
『だったら!』と、次第に本作で慣れ始めつつあるダメージを「割り切って受ける」覚悟へとシフトした。
彼女は自らの腕――それらを構成する筋肉部に意識を集中。
まずは右腕の上腕部に刃が食い込むと、外側の二頭筋を締めて抵抗し、切断までの衝撃力を回転の運動エネルギーへと変換。
続く内側の三頭筋では逆に脱力をして、運動エネルギーで弾かれるように刃を受け入れた。
「っ……くぁあっ!」
吼える程の抵抗。
それは痛覚に対してではなく、仕留めにきたリーゼの思惑に対する抵抗だ。
一意専心の甲斐はあり、回転力を得たアルマは右腕の切断に至ると同時に身体は勢い良く半回転。
残る左腕をリーゼに向けて、トライバースト防御時に展開していた≪フラベルム≫の刃二本を以て彼の攻撃をブロックし、そのまま宇宙ステーションの通路へと吹き飛んでいった。
「――うっわー!? やってくれるじゃないの、アルマ!」
斬り飛んだ彼女の右腕が、蒼の粒子エフェクトを散らして消えてゆく。
その最中にリーゼが驚愕したのは、アルマが銃・剣の連撃を凌いだ動きだけに
剣に不馴れなリーゼが
その刹那の隙に≪フラベルム≫の一刀を
……腕を斬られながら、吹き飛ばされている最中に、だ。
「あの状況から当ててくるなんて……ホント畏れ入るよ」
零す感嘆の言葉とともにリーゼの左手ではいま、赤の粒子エフェクトが弾けている。この演出は彼の所有していた武器がひとつ失われた事を告げていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます