【Phase.10-2】スターゲイトに立ちはだかる古強者、眼下の地上ではその頃

 星々の瞬きに囲まれた宇宙ステーションには男女二人の足音が響いた。

 再び互いの距離は約8メートルまで離れると、リーゼはつい答えの解っている質問をしてしまう。



「……ホントにその武器、初めて使った?」

「リーゼさんが作った物じゃないですか。しかもこんなに攻めている服、着た事もないですって」

「だよねぇ。まぁコスに関しては実際に見て、自分の悪魔的デザインの発想は間違っちゃいなかったと確信したよねー」

「悪魔的って……もうっ! こうなったら絶対に勝たせて貰いますよ」

「そいつぁ簡単にはさせないさ」


 アルマの着地点には、さきの立ち回りで弾かれた自身の一刀が落ちている。

 それを爪先に浮かぶ蒼の光子線フォトンライナーでなぞると、光刃は粒子と化してラインの内へと吸収された。


「本当に線の何処でも出し入れできる……この服、凄いですね」

「いやぁ、それよりも初見で≪フラベルム≫を使い熟なすアルマの方が凄いと驚かされているよ」

「それこそ服のお蔭ですよ。直感的にナイフが出るので、手足とナイフの境界が無くなった感じですね――格好は恥ずかしいですが!」

「似合っててカッコいいんだけどねぇ?」

「……」


 おどけた口調をしつつも、リーゼは今の一合で相方であるアルマのポテンシャルを測っていた。


 まず、ヒットしたと思われた首元までを≪フラベルム≫の応用でパリィしてくるあたり、リーゼが撃った瞬間の銃口角が見えているのだろうと判断。

 加えて、耐久値パラメータが(オルタナティブ武器で組み合わせない限り)存在しない銃では、現状の距離は自ずと不利になるだろう。

 けれども――



『それは一般論。

 手合わせして肌で解ったアルマの判断力と身体能力……個人的な正着なら距離は取らず、敢えてこの間合いだ。

 理由は(アタシ)がいま、この子に正面・・から勝ちたいと思っているから。


 並みの初心者とも違う。

 前作の古強者ふるつわものたちとも違う。

 この子が見せてくれてたのは、全く別種の強さだ。


 新しいこの世界で、(アタシ)が新たな高みへ羽ばたくためにも。

 喩え交流が一時だとしても。

 そして今、パートナーであるアルマが「頼れる相方」だと思ってくれるためにも……立ちはだかって、勝ちにいく!』



 ――刹那の思考より期待満ちる笑みを浮かべ、リーゼは『破棄』のイメージにて光子線フォトンライナーへ赤銃を格納。

 だが、この行為は彼女に対する降参サレンダーではない。彼の戦闘ギアを一段上乗せレイズアップするための準備だった。


「んじゃ、ボチボチと形振なりふり構わず行かせて貰うよ。

 ……あ、お願いが一つだけあるんだけど」

「はい?」

「ズルい、って恨まないでくれよ?」


 告げたリーゼは、アルマの返答を待たずに駆け出していた。




 ≫≫ 14時00分_ファンタズマ中心部 中央管理棟 ≪≪



 時はリーゼとアルマが仮想サーバーへ接続したのと等しい頃。

 場所は現在彼らが火花散らす宇宙ステーションより、眼下に広がるファンタズマ。


 その内で起こった出来事にスポットが移る……但し、実際は本家 《MateRe@LIZE Nexus》のβテストサーバー内に起こっており、リーゼたちの居る世界線とは異なる。



 ――14時ジャストを迎えると、接続中の全プレイヤー宛てに『運営からのお知らせ』なるアラートマークが、テスターたちの視界とコンソールパネルへ一斉表示された。


 その内容は、βテスト3日目に現れた仮面の男――運営サイドの有名人、ゲイザーが先触れで告知をしていた『新たな発表』なるもの、その詳細である。

 程なくして中央管理棟エリアを中心にして、ファンタズマ上空には巨大な空中ディスプレイが展開され、そこにはゲイザー当人が映し出された。



「――βテストにご参加いただいております皆さん、こんにちは。フルダイブ型VR開発部に携わっております『ゲイザー』と申します。

 いつも本作をお楽しみいただけ、開発一同、大変嬉しく存じます。


 さて……本日は事前に予告しておりました内容の続報をお知らせしたく、この場所・この時間をお借りさせていただきます」



 運営サイドの有名人にして、開発の中核に携わる者のライブ映像だ。「今後の有利・不利に係わるかも知れない」という思考がテスターたちは足を止めさせ、宙に浮かぶディスプレイへと視線は釘付けにしていた。



「これって5日前に告知してた内容だったな」

「また武器とかの仕様変更とかー?」

「弱体化とかかもよ? アサルトライフル強すぎだし」

「それは言うほどでも無いだろ!」

アサ銃(アサルトライフル)信者め……なら逆にもっと近接強化して欲しいぜ」

「出たよ、自称ソードマスターが」



 先程までとは別種の喧噪に包まれる中央管理棟。

 今は賑々しい彼らだが、ゲイザーが再び口を開いた途端……突如として仮想世界はしんと静まり返り、彼の次ぐ言葉に耳を傾けた。



「まず、本日の内容は仕様等の変更ではなく、イベントの告知ですのでご安心ください。

 詳細は現時刻で既に、βテスター用の公式HPホームページ告知や、お手元のコンソールの通知欄にもお送りしておりますので、口頭では手短にお伝えします。


 本作βテストの最終日では、運営主催による『NEXUS_CRESTネクサス・クレスト』と題しましたトーナメント大会を開催致します」



 一瞬のどよめき。

 聞いていたプレイヤーたちは一斉にコンソールパネルや、別ウィンドウで公式HPホームページを展開し、子細に目を走らせる。

 最中、ゲイザーの説明は続く。



「本大会の開催理由としまして、私たち開発陣は夏の製品ローンチへ向けて、現時点に於けるトッププレイヤーの実力を把握したい……という狙いがございます。

 『NEXUS_CRESTネクサス・クレスト(連なりの頂点)』の名を付したのは、この意図からですね。


 彼らの戦いを参考に、新たな調整・仕様追加や変更を経て、この夏は今よりも更にお楽しみいただける作品を皆様へ届けたく存じます。

 そのため大会参加に条件はありませんが、エントリー枠数の都合としまして、一定戦績を満たされている方に参加の優先権が発生しますのでご注意願います」



 ここで中級者プレイヤーの一人が「なんだよ、雑魚ザコは要りませんって大会かよ!」と漏らして不満は一部に広がるが、同時に別プレイヤーからも「いやいや。βでのトッププレイヤーたちを参考に調整……つまり今強いのは弱体化対象になるんじゃね?」や、「そーなったら製品版では下位ランカーでもワンチャン生まれるな!」なる声も上がり、結果的に自身等への利が生まれることを淡く期待を抱きはじめた。


 それからゲイザーの続く話も相まって、彼らは再び引き潮のように黙してゆく。



「トーナメントの対戦形式は2人1チームのシングルイリミネーション(勝ち残り)方式で行い、参加者総数は最大で32組・64名までです。


 そして参加希望者が予定人数を超過した場合、皆様の『ランキング』を優先権の数値として扱わせていただきます。

 例えばランク5位の方が希望されましたら参加確定しますが、ランク100位の方は漏れてしまう可能性がある、という事です。


 付随して抜け道……という訳ではありませんが、2人ペアのどちらかが優先権を持っていましたら、喩えパートナーがランク最下位であっても、そのペアでトーナメント参加が確定致します。

 この辺りはランキングに埋もれてしまった陰の実力者たちにも、是非優先権を保持した方と組み、出場の機会を得ていただきたいという思いからの仕様です。


 このほか、更なる詳細は端末よりご確認くださいませ」



 説明を聞きながらも、流しで大会概要を読み終えたプレイヤーらは、次に大会に出る事への「旨み」を考え出す……が、それに対しては間髪入れずゲイザーよりの告知が続いた。



「尚、今回のイベントには報酬もございます。

 当落係わらず大会へのエントリー、或いは当日の観戦をされました全プレイヤーには、製品版の無償アップグレードを付与させていただきます。

 加えて、大会の上位成績者・秀逸なプレイヤー方には副賞もご用意しておりますので、是非奮ってのご参加をお待ちしております。


 それでは皆さん、GoodGame良い試合を!」



 ライブ映像はここで終わり、再びファンタズマの世界では普段の姿を取り戻す。


 ……否。

 直後にはプレイヤー同士の喧騒に包まれ、賑々しい世界へと姿を変えていった。


「マジで人数絞った上位ランカーたちが対象かよ」

「それでも、取り敢えずエントリーだけしとけば得っつー事か!」

「もっと言えば当日にログインするだけでもいいんだよね」

「副賞ってトーナメント一回戦で負けてもβ限定アバターコスチュームとかだな。製品版でマニアに売り捌くだけでも、かなりボロい儲けになりそうだ」

「βで作った資金を元手にすりゃ、製品版でスタートダッシュが決められる……こりゃ大会の出場だけでも狙いたいところだ」

「上位の相方確保、急げーっ!」


 無料で製品版を得られると解釈し、それから各々は動き出した。

 大半は大会の副賞を狙って上位ランカーのフレンドへ声掛けないしメッセージを送り、より甘い汁にありつこうとする。



 多くのプレイヤーがこれ等の行動を取る中、真なる強さを示すためにエントリーを決めるプレイヤーも当然居た。


「優勝・準優勝チームは希望すればリアライズ本社で専属雇用の公式プレイヤーに……って、年棒たっけぇ!」

「他にも目立つ強プレイヤーには、個別に声を掛ける場合があるってさ」

「公式プレイヤーなんて事は初だし、出ればスカウトの可能性もあるかもな」

「前作にもプロゲーマーはいたが、今のβじゃまだ幅利かせてないし、もしかして狙い目じゃないか?」

「確かに。βに外れた奴らよりフルダイブ型のプレイ経験値は積めてるし、アドバンテージは俺らにあるな」

「そうなればまずは強プレイヤーの対策だ。クランメンバーに召集かけるぞ!」


 いずれのプレイヤーも原動力は等しく「欲」ではあるが、上位を目指す彼らこそが正に運営サイドが求める者の姿だろう。



 ――こうして各々が目標を持ち、交流・対戦等へと散り散りになってゆく。


 リーゼたちは当然、この出来事をリアルタイムで見ておらず。

 本告知は戦いの後、追々で確認する事となった。

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