【Phase.10-Trial】たった1枚のスカートを巡って、リーゼ vs アルマ

《うっし、ちゃーんと繋がったぞい!》



 何処までも伸びゆく宇宙に心捕らわれていたアルマだったが、ふと現実のリゼより《チームチャット》形式の通信が入ると覚醒。

 会話方法は昨日覚えたばかりのため、お浚いも含めて現状を問う。



《リゼさん。私はいま宇宙に居るみたいなのですが……》

《そうそう、なかなか新鮮でしょー? サーバーだけはアタシが建てヤツだけど、場所はゲーム内の『軌道エレベーター』ってトコだよん》

《軌道エレベーターって――あ、いま現実でも建設中の、ですか?》

《ソレよ、ソレ! 今朝ニュースで建設現場の生放送やってたから、気分的にココを選びたくなっちゃって……完成後はアルマが今いる場所みたいに仕上がるらしいよ》



 《そうなんですね》と聞きながらも、アルマは『エレベーターと言う割に、エレベーターっぽく無いこの場所は何だろう?』と通路の様な現在地より密かに散策を開始……する直前、その答えは間髪入れずにリゼより告げられた。



《――因みに、今いる場所は地上4万キロメートルに浮かぶオービタルリング(宇宙施設)内のドッキング区画……まぁ聞き馴染みで言えば『宇宙ステーション』ってトコだね》

《聞いても全然馴染みは無いのですが……》

《オッホン! ……コロニー計画然り、知的生命体然り。宇宙はロマンだよー、アルマ君》

《ぷっ! もう、何で急に太めの声で言うんですか?》



 そう言って笑う彼女は再び窓の外へ視線を送った。アルマと宇宙間を隔てるのは唯一、宇宙船にも利用される三層構造のシリカガラスのみだ。


 クリアで自然劣化の無い石英クォーツベースで構成された材質で、摂氏1000度の高温にも変質する事はない。

 勿論、デブリ(岩などの宇宙ゴミ)の衝突にも耐えるよう多層強化され、加えて与圧保持・赤外線遮断の効果も備わっている。

(実は小林建設公報の『小林有栖』も、本日の生放送で同内容を語っていた)


 これら恩恵のお陰で此処は地上と変わらぬ快適性を享受出来ているのだと、リゼは掻い摘んだ略説のみをアルマへ告げた。



《――んで、窓から見える地球クリソツな惑星が、ゲーム世界の『ファンタズマ』ってワケだけど……ま、本題はココからよん》

《MRスキャンしたアイテムの反映、ですね》

《そそ。アルマのアバターは一ヶ所だけ、昨日はが付いてるんだけど――気付いたかな?》

《あ! そう言えば私、なんて付けてませんでした》

《正解っ!》



 リゼの問い掛けより、シリカガラスで自身の反射像を見たアルマは直ぐの答えに辿り着いた。

 白のジャージにユニタードのみというシンプルな服装で統一する彼女だが、その首は確かに見慣れぬ黒色チョーカーを帯び、その表面を仄かな蒼色が揺らめいている。



《この色って、攻撃する時に光る色ですよね》

《そ。アルマへ割り振られたパーソナルカラーだね。……んで、今の状態で≪リアライズ≫ってコールすると、例の武器を使う準備が整うんだけど――》

《――ええと、≪リアライズ≫ですね?》

《あっ!》



 ――この直後、アルマのチョーカー部より蒼光が360度方向へと弾けた。


《っ……光が!》


 そのまま周囲に滞留を始めた粒子エフェクトは、各々が飽和拡大をしてゆき高濃度粒子化。

 それ等は次々と連なり、アルマを包み込む程の大いなる光になると、瞬く間に彼女の身体へフィットしたコスチュームとして蒸着したのである。



「……!? 何、この服!」



 収束する光を纏った刹那、自身の身体を見て思わずと漏れた「オープンチャット」の一驚いっきょう


 先程は確認のために聞いた言葉を復唱しただけなのだが、どうにも≪音声コマンド≫として認識されてしまったらしい。

 リゼが吐いた言葉どおり、正に《あっ》と言う間の出来事であった……が、乱れた感情の要因は≪リアライズ≫発動の光ではなく、付随して変化した専用コスチュームの方だった。



《……まぁ成功したし、いっかぁ! したら簡単に今回の仕様を伝えるねー》

《あの、この服って――》


 アルマは自身に起きた変化を疑義として尋ねようとするも、リゼの逸る気持ちは止まらず。言葉は雄弁と語られ始めた。



《――まずは今まで着ていた服データをまるっと入れ換えて、コス(コスチューム)一新っ!

 この状態で初めて新武器が使えるから、≪音声コマンド≫の起動は忘れないよーにね。因みにもう一回≪リアライズ≫って言えば普段の服に戻るよん。


 んで、次に使い方!


 そのコス着用中に≪フラベルム≫って言うと、以降は思考するだけで出し入れ自在の武器が使えるよーになるんよ。

 所々で蒼いラインが走ってるコスデザ(コスチュームデザイン)の理由なんだけど、そのライン上なら何処からでも「生成」って意識した場所からレーザー型のダガーが飛び出す様になってるのさ。

 因みにこのラインの正式名称は「光子線フォトンライナー」って付けてるよん。


 武器は最大3本まで出せて――例えば左手甲・右肘・右脹ら脛から同時に、なーんて組み合わせとかもオッケー!

 ……ってか、ラインの配置を最適化するための専用コスなんだよね。


 もし武器を仕舞いたい時は「破棄」って意識すると、その部分のダガーが光子線フォトンライナーに格納されるの。演出は花びらみたいに粒子が散っていくんで綺麗だよー!


 小ネタとして……ゲームの定義で『ダガー』って認められてるのは、最短10センチ~最長59.9センチまで。その間なら好きな長さで生成できるから、使うときは長さもイメージしてね。特に長さは意識しなきゃ、30センチでにゅるーんと生えるから。


 この武器最大の利点は、なんと言っても武器を手持ちしなくて良いコト! こないだの水中でポロリみたいな事もまずないからね。

 モチ、キャスト(投げ)にもバッチリ対応してるよん。

 手放した武器を回収する時は、光子線フォトンライナーと武器が触れ合えば勝手に吸い込むからねー。

 地面に転がってたら踏むだけで回収できるので便利だと思うよ。


 その他、使い辛ければ調整もすぐやるから、違和感あれば教えてね。

 ……ってなワケで色々試してみてちょーっ!》



 ――突如、捲し立てられた(最早定番となりつつある)リゼの早口説明。

 アルマはその情報量から使い方を聞き漏らすまいと傾聴したため、自身の主張は一時失念してしまう。


 説明の最中で≪フラベルム≫を呟くと、光子線フォトンライナーは身体中を駆け抜けて光が活性化した。続き、手の甲に「生成」の意識を集中すると、認識ポイントより彼女色をした粒子エフェクトが放出を開始。

 直後には蒼き光たちは粒子結合を経て形を成し、「キンッ!」と鍔鳴りの様な金音と共に1本のダガーとして刹那の内に具現化リアライズされた。


「……綺麗な蒼」


 真っ直ぐと伸びた光の刃を見つめて独り呟いたアルマ。確かに自らが握り締めずとも、ダガーは手甲で固定されている。

 ……だが、この際に身体に纏うコスチュームが再び視界に入り、《いや、そうじゃなくて!》と思い返した要求 (不満?)をリゼへ訴えたのだ。



《リゼさん、武器は嬉しいのですが……この服のは一体何なのですか!?》

《お、コスデザ? いいでしょー! 絶対アルマに似合うと思ってね。ちょーっぴりアメコミヒロインのテイストを取り入れたんよー》



 そう説明したリゼだが、実際には大分とセクシーな専用コスチュームだ。先程まで着ていた元服の様なスポーティーさは欠片も印象に無い。


 まず蒼の光子線フォトンライナーが走る黒いロンググローブと、同デザイン系のサイハイブーツ……ここ迄は黒色を普段身に付けないアルマ(のプレイヤー)も『あ、ちょっと格好良いかも』と好感触。

 特にブーツはヒールこそ高いものの、ブーツデータをスキン(外見のみ)として被せただけのため、元々のシューズと同一感覚で歩行も可能だった。


 けれど、次に見た身体を包む服は「服」の体裁を成しておらず、白を基調としたホルターネック型のレオタードのみ。

 しかもカッティングはかなり高く、主にハイレグと呼ばれるデザインだ。

 背中はオープンタイプで、ポイントとしてスリット・編み上げ・ベルト等も備えたそれは、さながらボンデージを彷彿とさせる一着であった。



《レオタードなら普段から練習で身に付けてるだろうし、きっと馴染みあるだろうなーってね。そっからアタシ好みにデザインから頑張っちゃいました!》

《こんな際どいデザイン、バレエ用品で見たことないですってば!》



 『一体ナニを頑張ったのだろうか?』と理解に苦しむアルマ。何せ人に見られ馴れている彼女でも、このコスチュームは相当恥ずかしいと思えてしまう位だ。

 思わず「この場所に誰も居なくて良かった……」と、羞恥ながらの幸いと軽く頬を赤らめていた所だった……が、安堵は刹那のうちに瓦解した。



 ≫ ≫ ≫



「――やっほー! もう話してるだけじゃ辛坊堪らず見に来ちゃった……って、足っが! 何処のモデルじゃい!?」

さん!?」



 聞こえたのはリゼの少し高めの女声……ではなく、飄々ひょうひょうとしつつも色気のあるだった。

 つい今しがたまで、この世界にただ一人であったアルマの眼前に現れたのは、なんと男アバターのリーゼ。

 仮想サーバーの管理者権限でカメラから観戦の様にアルマを見る事もできたが「やっぱ直接仕上がりを見てみたい!」という気持ちから、現実のリゼが自らの仮想サーバーへとログインして来たのだ。


 そして現在。

 コスチュームのカッティングより露出する彼女の足は想像以上に長く感じられ、リーゼはそのまま美しい線を描いたアルマの脚部をマジマジと見つめている。もし此処が現実界なら相当危険な変態男に映る絵面だろう。



「んー、やっぱカッコいいねぇ――んでも、ちょびっとハイレグ角度がエグかったかな……」

「……今、何と?」

「イエ、ナンデモナイデス」



 何せリーゼは一見だけなら、アバターとは云えど男性である。

 此れにはアルマも一瞬慌てたが、プレイヤー自身は先程の少女 (の様なアラサー)である事をリマインドし、落ち着きを取り戻しつつも僅かに怪訝な面持ちを彼へ向けた。



「ええと……シルエット自体は素敵なので、素直に嬉しいです」

「そいつぁ良かった。んでも、喜んでるならジト目で見るのは止めて欲しいかなー?」

「私もそうしたいですよ……な・の・で! せめて何か下に履くものをいただけませんか? 流石にこの格好では……」



 強く訴えたくも恥じらいが邪魔をし、最後まではハッキリ言えずの姿。

 これにはリーゼも、些かの嗜虐心しぎゃくしんを『ムラムラッ』と掻き立てられたらしい。



「んー、ソレはいいんだケド……フツーに着けて貰うだけじゃ詰まんないなぁー」

「……えーと?」



 彼の言葉に要領を得ないアルマは、羞恥を覚えつつも意図を探る。

 しかし、向かい合うリーゼは何処となく楽しそうに、引っ張り気味の提案を彼女へ伝えた。



「元々の目的は武器を渡して試し振りのテストだったんよね。んなモンなんで、ここに要素をプラスしてみようかなーと」

「ゲーム要素、ですか?」

「そ。要はこーいう事さ――≪エクシア≫ッ!」



 リーゼは≪音声コマンド≫をコールした。

 直後、一瞬の光が覆った彼の黒色コートには赤色の光子線フォトンライナーが走り、その手には同色のハンドガンが一挺生成された。

 続いて空間を破る様に一羽の黒烏が宇宙ステーション内に生まれ出ると、眼部の内蔵カメラはアルマを捉える。



「この世界でゲームって言えば、やっぱ『対戦』でしょー!

 武器もただ振るより、実戦の方が馴染むだろうし……ね?


 んなワケでアルマ。

 アタシと――いや、オレと戦ってみようか。


 スカートを進呈させて貰おうじゃないの」


 悪戯めいた青年の顔は、楽しげに自らのパートナーへ「対戦希望」を告げた。

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