/Narrative.2【顕現せしリベリオン】編(中)
【Open-2nd】桐生リゼ、黒咲華音と出会う
≫≫ 13時39分_東京都新宿区神楽坂_神田川の水上レストラン前にて ≪≪
「このお店、ロケーションが素敵ですよね! 前から来てみたかったんですよ」
「ウン、喜んで貰えて何よりダヨ」
弾む女子二人の会話――の筈だったのだが、彼女たち以上に賑々しいのはこの街の人々だ。それも不自然に。
理由を求めて周りを見渡せば、衆目全てと目線が合う様な錯覚に陥っていたアラサーNEET女子『
……否、錯覚ではない。
リゼはその童顔さから、高校生程度にしか見えない若作りのハーフ女子のため、元々の物珍しさから目立つのは自覚していた。
だが、本日は何時もの奇異的な視線とは明らかに注目の質が異なる。
原因は自身にも多少あるだろうが、それでも隣に並ぶ『
彼女は一回り近く年下の高校生でありながら、社会人モデルと見紛うばかりに大人びたルックスに加え、身長179.6センチの九頭身という規格外のプロポーション――ファーストインプレッションからして目立たない訳が無い。
周囲の人々は「雑誌の撮影ではなかろうか?」と、カメラを探す通行人さえ複数散見される程だ。
けれども、当の彼女は彼らの視線なぞ「何処吹く風だろう?」とばかりに一切気にも留めず。それよりも本日ランチをいただくレストラン外観に些か興奮気味の様子であった。
「テラス席も良いですね……海とは違った雰囲気が素敵です」
「ソウカイ? 丁度良カッタヨ」
お陰様 (?)で浴びる事になった望まぬ衆目は、いちNEET喪女にとって厄介な
「……リゼさん、なんか目が泳いでません?」
「イヤだなぁ、ソンナコトナイヨ?」
「その変な
「……アタシの印象ってそんなんかーいっ!」
――此処はJR『飯田橋駅』より程近く、千代田区と新宿区の境目に走る神田川。
本日、初めて顔を合わせた女子二人が、その水上に浮かぶイタリアンレストランの前まで来ていた。
春には桜、秋には紅葉、今時分では初夏の新緑がテラス席より覗け、視覚的にもこの上ない料理のスパイスとなる人気の有名店だ。ランチ時には行列になるため予約が推奨されている。
「――桐生さま、お待ちしておりました。ご予約いただきましたとおり、テラス席へご案内させていただきます」
レストラン入り口に到着すると同時に、黒縁眼鏡を掛けたウェイタースタイルの女給より声掛けをされ、出迎えてくれたのだ。
伴って店舗の間仕切りに因って通行人からの視線も自ずと切れたため、ようやっとリゼは「フーッ」と息を吐いて平常運転へと戻る。
「予約していたのですか?」
「そりゃモチよーん! あ、お姉さん。成るべく目立たない席をお願いしまーす!」
女性はニコリ。まるで追加オーダーの様に無理を告げてきたリゼにも笑顔を向け「畏まりました」と一言を添えた。流石は人気店スタッフ、スマートなプロフェッショナルさで魅せてくれる。
顔にこそ出さないものの、女性もリゼと華音の外見は確かに目立つであろうと判断。幾つかの予約者用リザーブ席のうち、他客にも視線が通り難い一席をその場で確保した。
……昨今ではレストラン側が予約者を口頭ではなく、端末単位で精度の高い座標までもAR端末 (この場合は女給の眼鏡)でマッピング確認している。実際、彼女の視界に映るリゼの頭上には現在『13時半~14時、二名予約、桐生様』という表示が展開されていた。
来店確認後は当然とばかりに店内の空席マップも別ウィンドウにて展開され、女給は流麗な指運びからのタップ操作でリゼたちの座席をこの場で押さえた。
これは2029年現在、一般では使われる事もなくなったが、店内利用なら速度も充分で人体にも影響が無い旧テクノロジー……5G帯回線を有効利用した自動認証システムであった。
案内を受け、店内を抜けてテラスへ向かうリゼと華音。
程なく「こちらの席をどうぞ」と二人が通された席は、観葉植物がブラインドとして機能した河川を一望できる一角であった。
女性は一礼をして店内へ戻って行くと、その場は二人のみとなった。
「んじゃ華音ちゃん、上座をどうぞ」
第三者の視線も無くなると、一気に気を緩めたリゼ。
奥の座席前で
当人は華音をスマートにもてなしている積もりらしい。
しかしながら、その絵面は146センチの小柄な外国人少女が、180センチ近くの
何処と無く絵本の1ページにありそうな「小人と姫の戯れ」にも映るだろうか。そして何の因果か、虫除けに設置された屋外用オブジェは林檎の形をしてテーブル上に鎮座している始末。
「あの……見た目でのイメージで済みませんが、リードされている感ゼロです」
「うぉいっ!? せーっかく『例の
「その
そう華音より尋ねられるや「良くぞ聞いてくれた!」と告げて、その場でクルリと立ち上がり一旋回。恭しさは何処へやら、今度は大仰で不敵なまでの
「その名は
――今日が初対面とは思えぬノリで会話をするリゼと華音。
ここへ至る顛末には、昨日まで時を遡る必要があるだろう。
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※今話より物語中盤がスタートしました。
オープニングシーンも回収し、新キャラも続々……新たな展開をお楽しみくださいませ!
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