【Phase.7-Ever Lasting】共に飛び立つ、二人の明日

 ≫≫ 11時39分_ファンタズマ中心部 中央管理棟 広場前 ≪≪



「あの人……リーゼさんのお知り合いだったのですか?」


 チカは去り、この場にはリーゼとアルマの二人のみ。

 今し方の会話後半は静かに聞いてたアルマが尋ねてきた。



「あー、んー……知り合いっつーか、三年前に一度だけ話したっきりで交流無いんだけど――このゲームのシリーズ前作で、世界ランキング8位の戦闘狂だね。名前が変わってたから最初は気付かなかったよ」

「8位って……あれ? リーゼさんも似た様な順位でしたよね?」

「お、大体合ってる! ケド、良く覚えてたねー」

「それはもう。最初会ったときのリーゼさんの啖呵が印象的で……」

「ひぃー、ヤメテ! 恥ずかしいっ!」



 ――アルマは本作からの参戦のため聞き及んでいなかったのだが、前作は世界的にも普及したビッグタイトルであり、ユーザー登録者数は四百万人超。


 そんな中での上位8位、日本国内ランキングなら2位という手練れ中も手練れのチカ。

 リーゼと同様、攻略wiki等のサイトに度々名前は上がる程で、彼女のスキル『ウロボロス』についても(通称は『ダブルSMCシュメキャン』で)存在が記載されている程だ。


 そして当時、チカのキャラクター名は『アイコ』。

 相変わらず古風な日本人名のようであったが――



「――変えるにしても、何の関連性で『名前』を付けてるのやら?」

「……はい?」



 変更されていたチカの旧キャラクター名の所感だけを独白にて漏らしたリーゼ。

 それには当然「何の事だろうか?」という面持ちで見るアルマ。


 リーゼは誤魔化しの意を込めた話題転換をする……が、寧ろ彼にとっては「本題への移行」と言っても良いだろう。



「あ、ううん――それより、もしアルマがもし良かったらなんだけど……」

「何でしょう?」



 直後に「コホンッ」と改めの咳払いを小さくひとつ。

 少し改まった態度のリーゼに、この後に真面目な話が来るであろう事を悟ったアルマ。一つの戦いを乗り越えた戦友たちがはすには構えず、正面から向かい合う。


 それから彼は鼻頭を掻くという典型的オーソドックスな照れ方を僅かに示しつつ、少量の生唾を飲み下しながら彼女へ右の手を差し出した。



「暫く気分が落ちてたんだけど、今日はアルマと一緒に戦えて久しぶりにゲームが楽しいって思えたんだ」



 ――瞬間で息を継ぐ彼。この呼吸が次の言葉の存在を告げていた。

 ジッと見つめて続きを待つ彼女。



 一息で語りたくて、伝えたい気持ちは溢れて、でも言葉にし切れない今。

 ボッチプレイヤーのなけなしのコミュニケーション力では心許ない……だからいっそ、リーゼはシンプルに「アルマ」のままに語ろうと決めた。



「だからさ、また俺と組んで遊んでくれないかな? 残り短いβ期間だけ……その間だけでも」



 打算も飾る言葉も無い、単純な気持ちのカタチだった。

 それでも少しばかり心がいてしまったらしい。声を上擦らせ、早口気味に思いを伝えたリーゼは微かに狼狽える。


 ……けれども、間は一瞬のみ。

 直ぐにリーゼの差し出す手に添えられたのはアルマの右手。互いの手掌しゅしょうが合わさると同時に、彼女の指で優しく握られた。



「ふふっ……雰囲気、まるで告白みたいですね?」

「え!? 違っ! ……や、確かにそーっぽいけどさっ!」



 慌てるリーゼを見るや、アルマは空いてる左手を口元に添えて優美に笑う。

 それは彼女より仄かに香る「菖蒲アイリス」のフレグランスの所為だろうか? 彼女の笑顔は季節に咲き、世界に彩りを与えてくれる華のようにも見えた。



「冗談ですよ――ならは死ぬ様な選択の前に、ちゃんと私にも相談してくださいね? さっき聞いた時は吃驚びっくりしたんですから」

「ハイ……ん!? って、じゃあ……」



 リーゼの思いへ、肯定の意で頷いたアルマ。

 結ばれた彼女との手より伝わる熱には、確かに二人で手にした「ステラ」が感じられた。



「マジでいいのん?」

マジ、ですよ」



 彼女は「超」付きでリーゼ風に返事をすると即座に「……やっぱり普段言わないを使うとムズムズしますね」とクールに呟く。


 聞いた彼はようやく自身の真似をされた事に気が付き「使っておいてひどっ!」と彼の整った顔が情けなく崩れたが、表情は直ぐに照れ笑いへと変わった。



「よし、んじゃ気が変わんない内に……今後ともよろしく頼むよ、アルマ!」

「変わりませんって。こちらこそお願い致しますね、リーゼさん」



 ――暗雲晴れ渡った初夏の仮想世界『ファンタズマ』。

 心の雨は上がり、見上げた蒼穹には真昼の星たちが瞬いて覗けた。


 その煌めきはリーゼとアルマ。

 手を取り合った彼らの明日を照らす、未来の光でもあった。



 ≫ ≫ ≫



 リーゼはこの後、エンドゥーたちのログインを確認したので、彼らへ会うための移動を開始した。

 心配を掛けてしまった事、様々に助けられた事……それら全てを「申し訳ない」ではなく「ありがとう」と伝えるために。


 アルマからは「ご一緒します」の言葉もあり、リーゼが彼らに『ついでに自慢の相方が紹介出来ちゃうなー』と、勇んで中央エリアへと向かう途中――



「――そーいやぁアルマ、俺も名前は『リーゼ』って呼び捨てで良いよ?」

「うーん……それは後で考えておきますね」

「……考えないパターンだよね、ソレ」


 思考と同時に吐いた言葉が随分と馴れ馴れしいリーゼ。

 やはりバレエダンサー特有の『アン・ドゥオール踵を付けた爪先開き』状態で姿勢良い彼女の佇まいが自身の母親とも重なるため、殆ど身内感覚で話していたのだ。


 ソコへ「何か言いました?」と、彼女より牽制 (実際はリーゼの慌てる反応が楽しくてからかっている)の台詞がピシャリ一撃。


 お得意の『ファントムブレイカー』も、今の場面シーンでは無力。

 なんとか場を乗り切るために彼の言った一言が、明日のリーゼの予定を決めてしまうことになった。



「――いやー、勝利のお祝いにお願い聞いちゃおうかなーってね!」

「ん? って言いましたね? では――」

「……」


 リーゼの言葉を聞いたアルマは、極上のアルカイック・スマイルで彼を覗き込んで言う。

 彼女の楚々そそとした瞳の瑠璃色ラピスラズリが、悪戯めいた光を湛えて揺れた瞬間であった。



──────────────────────────────



 * * * 【β-TEST_DAY 8】 * * *



 ――日付は変わり翌日。

 時刻は間もなく13時を迎える頃。


 リゼは本日のログインをせずに現在、東京都千代田区の「飯田橋駅」に居た。

 目的はVR内で交わした約束を守るため――アルマとで会うために。



「アタシ……どうしてこうなった?」



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 ★あとがき★


 【Phase.1~Phase.7】までのお付き合い、ありがとうございます!

 また、今話からご覧いただきました方もご来訪に感謝です。



 本作は【Phase.8】より中盤へ突入致します。

 ストーリーとして、対戦型VRのβテストは14日間開催のところ、現在8日目を迎えました。

 作中の残日程も折り返し、中盤では新キャラ・新展開・そして主人公リゼに眠る謎の力も次第に解明されてゆきます。


 近未来ジャンルらしい仕掛けも待ち受けておりますので、次話より始まる【Phase.8】も是非ご期待くださいませ!


 勿論、筆力もストーリーもマシマシで励ませていただきます!

 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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