【Phase.7-3】アルマ vs 千果、in アンダーグラウンド

 ≫≫ 戦闘時間残26分51秒 排水用予備パイプ内部 中央エリア ≪≪



 河川直下に走る巨大な排水用の円筒パイプ。

 現在この内部では幾重にも銃声が響き合い、その鳴り音は次第に中央部一ヶ所へ向かい集束しつつあった。



《――あれは『アサルト・フレーム』か! 予備のコモン武器は腰に『爆弾』みたいだけど……手渡されたが見当たらないな》


 烏型エクシアの開かれた嘴よりレーザー弾を射出しながら、器用にも冷静に相手を分析するリーゼ。

 少し下がった位置から追従するアルマも、次第にリーゼの戦闘スタイルにも馴染んできたらしい。過不及ない折りに聞き慣れぬ言葉を彼に問う。


《その『アサルト・なんとか』って何です?》

《えーと……視界悪くて小回り効かないけど、メチャ硬くてパワーがある鎧って言えばいいかな? あと腕に銃を仕込んでるから、銃も硬いんだよね》

《硬い鎧と銃、ですか》

《そ。大体は想定どおりだったけど、厄介な装備をチョイスしてきたなぁー》



 チカを視認できたリーゼは以前に一度手合わせした相手という事もあるため、過去のデータから現在のパッチにアップデートしたであろう武装まわりを解析してゆく。

 ……が、当然この間にも、「息など付かせぬ」と云わんばかりに放たれるチカの内蔵型アサルトライフル。


 止まぬ断続的な攻撃だが、リーゼの『ファントムブレイカー』はこれ等を漏らさずに撃ち落としてゆく。

 しかしながら次第に距離が詰まる程、リーゼ側の余裕が無くなりつつあった。

 その理由は――



《ファントム対策か。イヤらしい射撃してくるなぁ》



 ――チカの射撃は、海外サイトで広まってるリーゼの『無効化対策』をしっかりと踏襲したアクションを徹底していた。

 手法は極めてシンプル。

 弾丸発射の直前に『銃口を数ミリ振る』事で、射出角を僅かにランダム化。リーゼに迎撃射出角の再演算を強要するという力業ちからわざである。


 平素であれば命中率が下がるだけの行為だが、ことリーゼに関しての効果はてきめん。僅かずつだが『ファントムブレイカー』の反応が遅れ始めていたのだ。


《少しマズいな……アルマちゃん、そろそろ弾を取り零すかも》



 もしリーゼ本体がこの場に居て、ハンドガン二挺を構えられるのであればまだ問題無かったのだが、実情はエヴィエーション・シューターの一挺のみ。そのうえ相手が上位ランカーともなれば、どうしたって撃ち漏らしの懸念が拭えなくなってくる。

 エスコート役としては吐きたくなかった弱音だったが、告げずにパートナーを危機に晒す事こそ最も愚かしい行為だ。やむを得ないだろう。



《わかりました。この距離なら大丈夫です》


 そんなリーゼの心配は他所に、特段の淀みも無く「後は任せてください」とでも続きそうなアルマの台詞。

 きっと何らかの作戦が浮かんだのだろうと、リーゼは頼もしさを感じつつも、以降の攻撃連携のためにアルマの考えを尋ねた。


《悪いねぇ。んで、どーやって攻めるの?》

《えっと、正面から行くだけですけど?》



 サブモニタの向こうで一瞬だけ真顔になるリーゼ。

 「」という一呼吸ぶんの空気を飲み込んでから言葉を次いだ。



《…………よし、行ってみよう!》

《はいっ!》


 対面されていたら、一瞬固まった事を見抜かれてしまっただろう。表情を誰にも見られずに済んだ事を安堵した(後のリプレイ確認や、観戦者が居たら目撃される可能性はあるが)。



 しかし、よくよくと思えば元々アルマの武装はキャスト武器投げを除いて、完全な近接戦クロスレンジ構成である。

 加えて直径4メートルの直通パイプ内部という限られたスペースでもあるため、彼女の言うとおり正面突破こそが唯一にして真理の選択だとも言えた。



 ≫ ≫ ≫



 ――双方間の距離は50メートルを切っていた。

 この距離までリーゼは合計9発もの弾丸を打ち消しをしてきたが、阻止限界点は近い。


《……次あたりマズいわぁ》

《ふふ。素敵なエスコートでしたよ? では、この辺りで――》


 リーゼの放った最後の『ファントムブレイカー』タイミングに合わせ、遂にここでアルマからの「――行きますっ!」と言う台詞とともに、駆ける勢いをそのまま乗せたダガーが彼女の手より放たれた。


 エクシアの脇をすり抜け、煌めく蒼のエフェクトが尾を引く飛翔体は約30メートル先……チカの胸元へと向かいゆく。

 以降もチカの射撃は続いていたが、投げたダガーが弾丸を捕食するように打ち消して飛び続ける。


「ほう! 投げ(キャスト)パリィなんて魅せてくれるじゃないか……お代が必要かねぇ?」


 可愛らしい高音ボイスで呟いたチカの「オープンチャット」は、何故だか地の底よりり出された鳴動のように重くリーゼたちの耳へと微かに響いた。

 伴って彼女はアサルト・フレームの左腕を突き出し、ダガーを迎撃する姿勢を取る。


 チカは『この一撃は甘んじて受け、喰らうダメージ量から『攻撃力UP』のオプションを積んでいるかを推し量る。ついでに受けたダガーをそのまま破壊してしまおう』という腹積もりだった。



 しかしチカの狙い知らずも、対抗するように「……まだっ!」という凛然りんぜんとして良く通り映えるアルマの声が続いた。


 直後に彼女はもう一刀のダガーを追加でキャストする。

 初撃で半回転ほど捻った姿勢からの背面投擲は、最初に投げたダガーと全く同じ軌跡を辿る……これがチカから見た場合の死角攻撃となったのだ。


 これにはリーゼも心胸で『上手い!』と手放しの称賛を送る。



 ――放った最初のダガーは、チカが差し出した左腕へと命中。

 切っ先が滅り込むとHPを僅かに削る。


 その被害状況を確認したチカは『ダガーでこの威力なら『攻撃力UP』は無し。『ケラウノス』も使って来ないし、コイツは『防御力UP』か『テレポート』持ちだろうね』と、冷静な分析を瞬時に終えた。

 直後には刺さったダガーを破壊すべく手を伸ばしたが、予想外にも次なるダガーは直ぐ眼前に迫っていたのだ。


 現在の態勢のままだと、頭部への弱点直撃コースとなるであろうため「連投!? 見え辛いところに小癪なっ!」と、視界の悪さを毒づき忌々しく吐き捨てる。



 アサルト・フレームがあるとはいえ、流石にキャストしたダガーをまともに頭部へ食らえば手痛いダメージを被るだろう。少なくともHPは半分近く減少し、装備の耐久力だって一気に半壊状態となる見込みだった。

 それだけは避けるべく、武器破壊は一旦失念して既に最初のダガーが刺さる左腕で頭部をカバーリングするチカ。


 ガードが間に合うとチカの左腕には二本のダガーが揃いで刺さり、腕部にはローマ数字『Ⅱ』のような亀裂を走らせていた。



「チッ――ヤるじゃないか。あと一歩足らんがなぁ?」

「ええ。私もそう思ってましたので、その『もう一歩』を追加します!」

「……何ぃ?」



 嘲笑うように「仕掛けは徒労だった」として吐露したチカだが、耳へ届いたのは返答を求めていないアルマからの台詞だった。

 しかもその声は存外なほどに近く、気が付けばもう5メートルも無い距離へと詰め寄っていた。



「フン、足が早いのは認めてやる――が、気安く近寄るんじゃないよ!!」



 右掌を正面に掲げ、迫るアルマへ射撃を敢行せしめんとするチカ。

 この距離ではまず外す事もなく、そのうえリーゼの『ファントムブレイカー』も割り込めない混戦エンゲージ距離だ。


「――今っ!」


 命中を確信したチカ……だが弾を撃つよりも更に早く、アルマの姿は一瞬で残り1メートルの距離に迫っている。

 まるで彼女の居た場所より、存在だけをかのように、瞬きの速さで跳躍移動をしていた。



「ッ!? ――コイツ、『テレポート』を使いかっ!」



 ……ダガーを勢い良く投げて背を向けた『テレポート』に因る瞬間移動を、連続実行していたのだ。


 アルマの身体は加速度を維持したまま、回転しながら後方へ蹴り上げる『グラン・バットマン』なるバレエ技 (空手技で言えば上段後ろ蹴りに近いだろう)で彼女の長い足を伸ばすと、二刀並ぶダガーの刺さったチカの左腕へ命中。



「セアァァアッ!!」

「ぬぐっ――!」



 アルマの足はそのままダガーの柄たちを押し込む形で振り抜かれた。

 チカの腕へは刃が更に深々と突き刺さり、遂には切断せしめる一撃へと至る――二つのダガーと一つの蹴りが生み出した、まさに三位一体の攻撃であった。


 煌めく刃たちがチカの左腕を切り離して排水路の天井まで舞い上がれば、次第に腕のみが黒い粒子エフェクトと化して消滅していく。


 蹴りに押されたチカは3メートル程の後退を余儀なくされるも、ホバー圧の強制噴射でバランスを取って転倒だけは拒否をする。

 被害状況は片腕のロストからHPが約2割の減少。アサルト・フレームの耐久値も4割程削られており、予定外の痛手にチカは「コイツッ!!」と苛立ちを見せた。



 片や、残った二刀はそのまま空中より自由落下をしてくると、真下に立つアルマは蹴り足を整えつつも、上方を見ることもなく左右の腕で見事にキャッチ。

 落下の速度を受け継ぐ様にクルクルと手の中でダガー達を踊らせた後、切っ先をチカへ向けながら眼差し涼しくも言い立てる。



「さて、リーゼさんにしている詰まらない行為……貴女に勝てば止めて貰えるんでしたよね」

「……かすじゃないか、このノービス女ぁっ!」



 チカは憤りを露わに一歩を踏み込むと、連動してアサルト・フレームのアクチュエータが活性化。

 外骨格部のフェンダーより噴出されたエアと共に「そんな事はウチに勝ってから言いなっ!!」という怒気を言葉に乗せて吐き出す。



 ――攻守転換。

 直後にはホバーで地を吹き付け、高速で詰め寄るチカの猛攻が始まった。

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