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【Phase.7-Starting】束の間の二人、雫煌めく雨空の街へと

★戦闘ルールのおさらいコーナー!

二週間開催のβテストも折り返しの七日目。途中に様々なパッチも当たったので、改めて仕様含めたルールを確認しよう。



【戦闘ルール】

・2vs2のチームバトルロイヤル形式で対戦する。

・戦闘時間は30分。相手を全滅させたチームが勝利。

・タイムオーバーでどちらも生存しているとドロー。

・戦闘フィールドは一平方キロメートル内にランダム転送される。


【仕様】

・『ツインアームズ』……左右に同じ武器を持つと振りが早くなる(別名:二刀流or二挺拳銃)。

・『オルタナティヴ・アームズ』……3つの武器(オルタ武器、ベース武器、コモン武器)を携行でき、AとBは機能を組み合わせた一つの独自武器として使用可能。

・『オプションスロット』……5種類の強化ユニット(攻撃力UP、防御力UP、イグニス(射撃専用/炎属性化)、ケラウノス(打撃専用/20メートル先まで衝撃波発生)、テレポート(後方1メートルに瞬間移動))を、BとCの武器へ一つずつセット可。


【その他】

・肉体機能はアスリート並みに一律設定されているが、実際に鍛えているプレイヤーはカタログスペック以上に動ける。

・C武器は味方に譲渡可能(セットしたオプションスロットも移譲する)。

・『アドオンプログラム』と、MRスキャンした『アイテムデータ』はゲーム内に持ち込める。

・高ランカーを倒すとボーナスポイントが加算される。



個々の能力よりも、味方との連携・戦術が勝利の鍵となるだろう。

創意工夫を凝らして勝利を掴め!



──────────────────────────────



 ≫≫ 10時54分_ブリーフィングルーム ≪≪



 リーゼ達が転送されてきたのは、既に見慣れた作戦準備室ブリーフィングルーム内。


 ……否、アルマに関しては見慣れてない場所の筈だが、特段しげしげと室内を見回す様子は無い。その双眸に湛えた蒼差しの煌めきは、既に戦いの先……次なる未来を見据えていたからに他ならなかった。


「――さて、絶対に勝ちますよ!」

「お、いいねぇ。コッチもやる気が出るってモンよ!」


 絡み合う二人の視線は、同じ未来を思い描いていた。

 今のリーゼは、先程までの落ち込んでいた残滓ざんしさえ影も形もない。前を向き進む彼女のペースに巻き込まれたお陰様で、思考がプラスへと完全にシフトしていたのだ。


「ふふっ、その意気です。頭を抱えてても良い事ありませんし、解決方法が見えたら後は進むのみです」

「……ねぇ、悩むコトって無い?」

「それは失礼じゃありません? 人並みにはありますってば!」

「デスヨネー! メンゴメンゴ(ごめんごめん)!」

「……メンゴなんていう人、初めて会いましたよ」


 またも同じタイミングでと笑い合う二人。

 セレスやエンドゥーの時とはまた異なる合い口の良さであった。



「……あ!」

「い!」

「う? ――いや、何をやらせるんですか!? そういえば初回のときは良く解らないまま戦いが始ったのですけど……ゲーム慣れしているリーゼさんから見て「これは必要!」という準備はあります?」


 振ったステレオタイプの言葉遊びにも、存外にノリが良いアルマ。

 併せての問いには「んー……」と思案するも、マストならば先日実装された『オルタナティブ・アームズ』と『オプションスロット』、そして近接なら麻痺スタン対策であろうとシンプルにポイントのみを伝えたリーゼ。


 なにせ本当に子細を説明すると、情報量が多過ぎてブリーフィングに滞在できる三分間ではとても時間が足りない。

 そこで、フレンドであるミレイのが威力を発揮した、というワケであった。



「――なるほど。『メインの武器が三つ』に増えて『パワーアップするトッピングが二種類』選べる、ですか……思ったよりシンプルな変更だったのですね」


 思わず『ミレイちゃんスゲー、本当に伝わった!』と内心でミレイを讃え感心するリーゼ。先日、直に聞いてたリーゼも「スイーツビュッフェみたいだね」と呟き返していた。


 「あとコレを着ればいいんですよね……んー、デザインはこれにしました!」と、アルマは推奨された対スタン用『ぴっちりスーツ』をユニタードスタイルでアンダーに着つつ、《チームチャット》の仕様等、最低限を共有して戦いの準備を粛々と進める。



 ≫ ≫ ≫



 ……そんなこんなと一区切りをした頃には、準備時間は残り半分を切っていた。

 最後は『オプションスロット』の二種選択を残すのみだが、アルマは既にへご執心の様子だ。


「このってワープするの、楽しいですね!」

「そうそう、結構クセがあるけど面白いよね。たまに積んでる人を見掛けるよ」


 アルマがチョイスしたのは、独特な効果を持つオプション『』。



 ――『テレポート』の効果は、使用するイメージを思い描いた瞬間に一メートル後方へ身に付けた物ごと瞬間移動する。物質透過は不可能で再使用のクールタイムは三分必要 (ブリーフィングルーム内のみクールタイム無しで即再使用可)、という非常にクセの強いものだ。


 また仕様として慣性 (運動の第一法則)も伴ってテレポート……噛み砕いたイメージで云えば、一回転ジャンプ中の半回転でテレポートをすると、移動先で残る半回転から続いて始まるというモノである。



 厳密には――「量子テレポーテーションの概念をVR内で具現化したもので、プロセスとしてアバター情報体のプロトコルデータを臨時コンバートで介しフェルミオン化。粒子化した素体に対してエンタングルメントした『テレポート』メソッドを実行し、スピノル空間のインスタンス利用して観測点をスライドする」――などと云う、絵空事のような仕組みがVR世界で実現されているのだ。



 だが、多くのユーザー達からは「後ろにしか飛べないし、しかも一メートルだけ。いつ使うんだコレ?」等と言われ、狙われた時の緊急避難用途が最適と有志のwiki等で意見が固まっていた。


 リーゼも近い認識で「いざって時こそ常時ダメージカットしてくれる『防御力UP』が安定するし、近接使いが撹乱かくらん目的に使う程度で、半分ネタ扱いなんだよねぇ……」という評価。


 そんな下馬評げばひょう他所よそに、アルマは密やかに慣性の作用を実体験。以降は楽しそうにブリーフィングルーム内を縦横へ空間跳躍しまくっている。そこに加えて彼女の体幹・フィジカルを以てすれば、天井さえも地面と変わらぬ扱いにも思えてきた程だ。


 傍で眺めるリーゼは『重力よ、何処へいった?』と思わせてくれる彼女の身軽さに舌を巻く。

 全プレイヤーとも肉体性能こそゲーム的に同等だが、身体が覚える必要のある動き(格闘技など)は、個々人のユニークスキルとも云えよう。



「……、気に入りましたので使ってみます」

「オッケー! 最初は『ケラウノス』を選ぶかと思ってたよ」

「んと、それって遠くにのやつでしたっけ? って知らない方へ所に飛んでいきそうじゃないですか。それにナイフを投げれば遠くにも届きますし」



 ……しかしリーゼとこうして話していると、アルマはが代名詞の役割を果たす事が多いなという所感を覚える。

 確かにバレエダンサーであるリーゼの母も似たオノマトペ擬音会話が多いので、表現者には良くある会話法なのかも知れない。


 そう言うアルマが最終的にチョイスしたものは『ダガー』三本、『テレポート』二つという偏り過ぎた特化装備であった。


 一般的にはネタ枠に近い『テレポート』だが、それは飽くまで安定を求める多数派マジョリティー意見にしか過ぎない。

 ノービスのアルマが使ってこそ、新たな発見があるかも知れないという期待と……いちゲーマーとしては、そんな場面を見てみたいのだとリーゼの開拓フロンティア精神が彼女の選択を支持する。


「結構思い切った装備だねぇ」

「何でもシンプルがベストなんですって」

「うん、不思議と段々そー思えてきたよ」

「でしょう?」


 そんな話をしながらに、アルマはダガー背面方向へ投げ。直後にはテレポートをして、自らの手で空中キャッチにて回収する、といった使いこなしっぷりまで軽々やって見せる彼女に「……そんなん出来ちゃうんだ」と漏らした現状。



「――お待たせしました。準備、終わりましたよ」

「あいよーっ! ……そいやぁアルマちゃんって刃物慣れしてるみたいだけど、何かで使ってたの?」


 尋ねたリーゼの言葉でアルマの動きがピタリ止まる。そして物怖じとは無縁そうな彼女が、珍しく言い淀んでぎこちなく目線を逸らす。


「んー……それは、少し恥ずかしい経緯が……ありまして……」


 リーゼはその様子から『言いたくないのかな?』とも思ったが、アルマは一拍の溜息後に「……まぁ、そんな大した理由では無いので構いませんが」と言って、件の経緯を話してくれそうな様相だったが……。



 【――間も無く戦闘フィールドへの転送が開始されます。 ……10……9……】



 直後、システム側より転送前のカウントダウンが始まったことで、続きは打ち切られる形となったのだ。


「三分短っ! やっぱ対戦受諾の前にもっと話しときゃ良かったかなぁ」

「そんな悠長にしてたら相手の人達と戦えなくなるかもですよ?」

「あ、そうだよねぇ……」

「でしょう? なので、続きはにお教えします」

、ね」


 言葉を反芻し、今回の対戦は随分との条件が多いなと思うリーゼ……が、アルマなりの『敗けるつもりはありません!』という意思なのだと思えば身も引き締まるというものだ。


 確かに『リーゼ襲撃の終息』や『アルマの秘密 (?)』等々、何らかの目標がある事でモチベーションも比例して上がるのは、ゲーマーのサガだろうか。

 そのうえ強敵が相手だと云うのに、現在のリーゼは思いのほか自分を客観視して見れている自覚がある。前作の世界大会を戦い抜いた経験からか、はたまた鋼メンタルを持つ相方のお陰か……否、双方であろう。



「うっし! んじゃ参りましょうか、お姫様」

「ふふっ。案内はお願いしますね」


 リーゼが了解の意をウィンクで送ると、同時に再び二人を包む柔らかな光たちが集い始める。

 何処へと導いてくれるのかは、次に見る景色が教えてくれるだろう……が、彼らにはその先にある未来を見据え、戦地へ赴くのだ。



 【2……1……0……転送開始します。御武運を!】



──────────────────────────────



 ≫≫ 戦闘フィールド_河川エリア 倉庫区画 ≪≪



 転送完了直後。

 光は紐解かれ、開かれたリーゼの視界には街の景色が飛び込んできた。


 夜の街、ネオンが灯るビルと工場群、流れる川……と様々な視覚情報が飛び込んでくるも、一等の情報で云えば現在の空模様だろう。


 天を仰げば空がむせび嘆いている。

 その涙は大粒の雫として降り注ぎ、大地を、水面を、建造物たちを非難するように強く、なお強くと打ち付けていた。


「――雨、か」

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