【Phase.6-Last Curtain Call】キミの手を取り、歩き始めたNew Game+

 ≫≫ 10時41分_ファンタズマ中心部 中央管理棟 広場を覗ける裏路にて ≪≪



 リーゼたちの様子を見つめ、少し離れた裏路地の境界より一つの影が揺らめく。


「あの、仲良さそうなフレが出来たな。

 深いしがらみができちゃあ、自然には引退してくれないだろう……だったら――」



 ≫ ≫ ≫



 ――直後、アルマを伴うリーゼの元へ、一件の『対戦希望』申請が届く。


 リーゼは『こんな時にまたかっ!』と、最早ルーティーンになりつつあるBLブラックリスト登録を実行しようとする……が、ココで表示された名を見て動きが止まった。



「? どうかしました?」

「あー……えっと、見て貰った方が早いかも」


 急停止したリーゼにアルマが問う。

 咄嗟の説明に困窮したリーゼ。理由はフレンド登録をして見えたアルマの戦績、『1戦0勝 / Rank.4936』の表示だ。

 彼女のログインないし戦績状況からして、恐らくシステム仕様『対戦希望』の存在を知らぬであろう事は想像に易い。そのため、実際に見て貰うべくリーゼは対戦希望の画面をアルマに共有して見せる事にした。



 ** Struggle Request (対戦希望) **


 Applicant (申請者) : 千果チカ / Rank.5

 &Partner (同行者) : 神威カムイ / Rank.2911


 Accept? (受諾しますか?) ➤ Yes / No


 ** ** ** ** ** ** **



「……これは?」

「『対戦希望』……この表示の人たちから喧嘩を売られている、って言えばいいかな? 最近こんな変なのばっかなんでウンザリしててね。だからさっき「辞める」とか漏らしたのもあるんだよねぇ」


 実際には実害も出ているが、そこ迄は現状で言う必要が無いと断じたリーゼは、アルマに掻い摘んだ説明までに留める。


「そう、なんですね……あ! この人――」

「――この間、アルマちゃんに絡んだ俺様くん(カムイ)だね」



 話を続けるも『このタイミングで? こんな上位ランカーが? ……しかも俺様くんを連れて対戦の申し込み?』と、申請者『千果チカ』に対する疑問の方がリーゼの心中をグルグル渦巻いている。

 ……すると、見計らったかの様に件のチカ本人から [ウィスパーチャット] が直接届いた。



 千果 ≫ Li_ZE [おいニート女、この申し込みの意味は解るな? もしクリヴィス無しで勝てたらを収めてやるよ]



 ――チカは若い女性の声だった。

 少女のように可愛らしい声だが、その言葉の奥には黒い謀議ぼうぎを感じずに居られない。

 それに何処かで聞いたような気がする声……だがリーゼの『完全記憶』は映像として記録するもののため、声だけで誰かを特定するのは知人でなければ実質不可能に等しい。


『女!?

 中身バレしてるの?


 ……いや、コレは違う。

 元相方(クリヴィス)の事も言うって事は、前作の女キャラ時代を知っているんだ。

 しかも会った事が――いや、ハッキリを持っている奴。


 ――以前に遠藤君と戦ったアイツ……しかもあの時より更にランクが上がっている。

 アタシに倒せるんだろうか?


 ……いや、もう決めたんだ。

 諦めないし、止まらない!』



「――リーゼさん?」

「っと、ゴメンゴメン。今、チカって人からWisウィス ([ウィスパーチャット])されててー……」

「Wisって前回、私にだけ話し掛けた方法ですね?」

「ご名答。んで「ここ最近の喧嘩売っている元凶は自分だ。止めて欲しきゃ勝ってみろ!」、って言ってきたワケ――」


 ココでアルマは説明を受ける最中であるが、リーゼのコンソールパネル上に表示された『Yes』という受諾表示に自分の指先を重ねて言った。


「――受けましょう!」

「んえぇ!? いやー、あの、これからデート行くんじゃ?」

「何を言ってるんですか? そんなの後で幾らでも出来ますし、それに……」

「……それに?」


 アルマはコンソールからリーゼへ視線を戻し、言葉を続けた。


「それに、リーゼさんはあの時、私がこのゲームを辞めようとしてた事に気付いたから……だから私を助けてくれたし、私にまで言ってくれたんですよね?」



 ――この時、アルマは対戦希望等で思い悩んでいたリーゼに対し、自分にも責があると感じていた。


 だが、当のリーゼ本人はおくびにも出さないため、アルマからも言わない。リーゼの気遣いを無為にしないためにも。


 そこで悩むリーゼに、いまの自分が出来る事を探すその時……僥倖にも『対戦希望』が目の前に現れてくれた。

 解決の糸口が有るのならば邁進するのみ。それこそが最適解だとアルマは信じており、アルマに従って此れ迄も生きてきたのだ。



「――なので、今度は私がリーゼさんにチョッカイを出さないよう、言い聞かせてきます」

「……マジっすか!?」

「マジです!」


 そうハッキリ言ったアルマ。

 見つめるリーゼ。

 彼女の蒼差す瞳が、雲間に射す光を受けて煌めいていた。


 『自分のために無理しないで欲しい』等の言葉を続けようとしたリーゼだが、彼女が帯びる美しいまでの眼差しには、かたくななる信念を秘めている事を察し『こりゃ説き伏せるのは無理だ』とリーゼの方が先に折れてしまった。


 ――けれども、リーゼの本音は「逃げない」と決めた自分の気持ちと重なったようで、嬉しさから顔がニヤけそうになるのを必死で抑えていたのだが。



「……あーあ。初回のデートが色気も無い戦場デートとはなぁ」

「戦場を楽しくエスコートしてくださいね?」

「ハードル上がった!? ……ま、デートはしてくれるみたいだし」


 一層と吹っ切れたリーゼは「フフン!」と、さっきのアルマの言葉デートをリプレイする。


「もー、しっかり聞いてたんですね……なら絶対に勝ちますよ!」

「へいへーい! 勇ましいお姫様だこと」

「いま気が付いたんですか? 私は勇ましいですし、頑固なんです」

「そーみたいだねぇ」

「……ナンパした事、後悔しちゃいました?」

「なーに言ってんの。そーいう人の方がアガるクチさ!」

「ふふっ、やっぱり可笑おかしな人ですね」



 ……戦いの前だというのに、二人の間にはまるで日常のような空気が流れる。

 ある種でリラックス、ある種では緊張感皆無な二人の台詞。


 だが、互いの瞳に宿る闘争心は、決して揺るがぬ蒼紅の炎が立ち昇っていた。


「んじゃ、受諾するよー?」

「いつでもどうぞ」

「オーケイ、んじゃヨロシク頼むよ!」

「はいっ!」



 リーゼは自身のコンソールパネルに既に添えられたアルマの指へ、自分の指を重ねて『Yes』を押下。

 双方の指先が結ばれた直後、大量の光粒子エフェクトが羽根の様に彼らを優しく包むと、二人に翼を授けて戦場へと送り出す。



 ――この先で悪意のアギトが二人を待ち受けている事は覚悟の上。

 それでも……互いが望む未来を掴むために、彼らは戦う事を選んだ。



──────────────────────────────



 ≫≫ 戦闘フィールド待機用_ブリーフィングルーム ≪≪



 ――此処はリーゼたちがこれより戦う『対戦者側』チームのブリーフィング内。


 そこへプレイヤーが二人、各々色をした粒子を纏って転送されてきた。

 小柄な少女アバターのチカと、ノッポな男性アバターのカムイだ。


「狙いどおりでしたね。アイツら本当に対戦受諾しましたよ」

「あぁ、そうなる様に仕向けたからね」



 現れて早々、190センチ近くの長身を窮屈そうに折り曲げて床に座し話すカムイ。その彼の言葉に『さも当然だ』という面持ちで、ルーム内に備え付けられた椅子へと足組みして座ったチカ。


 大男が少女におもねる姿は、傍目からすれば何ともチグハグな光景である……が、これが彼女らのハッキリとした上下関係なのだ。



「確か……もう一人はノービスだったな。なら前衛はウチだけで出る。お前は引きこもっていろ」

「俺も頑張りますよ、『アイ――』」

「――その『名前』で呼んだら……分かってるな?」

「ッ……サーセン!!」


 震えて頭を垂れるカムイに溜息を吐きつつ「心配しなくても出番は作ってやる……そうだな――」と告げ、暫し思案するチカ。



「――よし、お前の武器はAにパワードスーツ、Bに大剣か斧、Cに時限式の爆弾をセット。オプションは防御力UPをオルタ(A&B)武器の方に入れるんだ。Cには攻撃力UPを付けて、戦闘が始まったらウチのところへ『C』を渡しに来い」

「はい……ですが、俺が近接武器ですか? 一体何に?」

「立ち回りは戦闘中に指示する」

「ハイッッ!」


 カムイの次なる質問には、先んじて釘を刺したチカ。そのまま椅子より立ち上がると、甘美なる勝利を想像しては垂涎の言葉を漏らす。



「クックック……相性のいいニートと、始めたばかりのノービスだ。カモでしかないねぇ」

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