【Phase.4-6】加速する閃き、剣士と舞姫の輪舞

★ランキングの扱いと、効率的な『Rank』の上げ方


本ゲームのステータスであり、カタルシスでもあるランキング制度。上位ランカーは各プレイヤー達から一目を置かれ、嫉妬も羨望も集め易い。


基本的には勝利を重ねる事で、チーム二人ともにポイントが加算されてランクが上がる。

このほか、自分より上のランカーを倒せばボーナスポイントも入手できるので、ジャイアントキリング(上位ランカー撃破)が一番の近道……詰まりエンドゥーを倒すとかなり美味しい!

逆に初心者を倒しても非常に低ポイントで非効率(初心者狩りが横行しないための調整)だ。


追々はランキング次第で参加可能なイベントも企画されているらしい。

参考として前作の上位ランカー達は、eスポーツのオリンピック候補やプロゲーマー雇用の打診も来る程であった。


※ちなみに前作では国内ランキング三位とかなりの上位に居たリーゼだが、プレイングの特殊性とネット内評価が悪すぎてオファーは無し。仮に来られても本人としてはリアルコミュ障すぎて断るつもりだった。



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 ――征野せいやに連なり合う幾重もの熱波・粉塵たち。

 それ等の薄衣を一向に介さず、狙い撃つべき者さえも存分に捉え切らぬ……まさにと呼ぶに相応しい一射は暗闇を、そして彼らの描いた計図さえも引き裂いてゆく。



 まず手前弾道上。

 エンドゥーより吹き飛ばされて今も空を舞うアルマへの強襲だった。


 アルマの舞い揺れる髪を摺り抜けては頬を掠めると、その整った顔より一筋の赤き流血エフェクトが生じた……これがもし、着地に備えて体勢を変えてなければ直撃コースであっただろう。

 彼女は味方である筈の狙撃手へ顔をしかめるも、今も視界不十分なカムイからはその表情を明らかにして見えず。



 だがしかし彼の凶弾は、この後すぐに真なる悪魔の顔を見せる。


 アルマより更に向こう側……爆弾をしたのだ。

 当然、其れはアオイの握っていた爆弾を……伴って彼を中心点とした全方位五メートルを巻き込むを意味し、彼の右拳からは最後の通告代わりにスパークが奔る。



 ――直後、光を中心とした気体の熱膨張が飛躍的に増大し解放。共に生まれ出でた衝撃は容易に音速の壁を突破した。

 同時に周辺へと衝撃波ソニックブームを発生させ、断熱圧縮とともに爆発エクスプロージョン……爆弾がアオイの右腕ごと盛大にぜた瞬間であった。



 アオイにとっては不幸中の幸いにも、発生した衝撃波は解放空間 (屋外)であるため、直撃を受けた彼も生存自体はしていた。

 ……とはいえ、百パーセントフルに残存していたHPは一気に残り三割程となり、利き腕である右腕はロスト。全身にも細かく被弾を示す流血エフェクトが見受けられる。爆弾の残弾数こそ余裕はあれど、実質の戦闘継続は不可能に等しいだろう。


 連れ立って他の二人も爆風の煽りを小なりながら受けていた。

 エンドゥーは僅かに被弾し、残HPは四割。

 アルマは残り二割のHPに変化は無いものの、衝撃波の生みだした風圧で更に遠くへと吹き飛ばされている。



 ……現在の戦局を見るや、アオイは無き腕を抱えつつも、更なる狙撃を食らうまいと賢明な移動を開始。

 ココで偶然にも、その隻腕のアオイが一瞬だけ遠距離より視認できたカムイは――



《良ーし良ぉーし! 間違いなくヒットHITひっとォーっ! 奴らの片方に当てたぞぅ! 流石は俺様だ!》


 またしても口やかましい《チームチャット》がアルマの脳へ直接攻撃ダイレクトアタックを開始。まるで爆発と連鎖した感情の吹き出し様だ。

 逃れられぬ不快な声は、僥倖さえも偉烈いれつとして彼自身を饒舌なまでに讃える。


《おいノービス、俺様の腕を見たか!? しかもグレネード(爆弾)に当ててやったぞ! 貴様はせめてそいつらを釘付けにしておけ! 俺様がココから仕留めてやろう! 感謝しろよぉー!?》



 ≫ ≫ ≫ 



「――! 何処までっ!」


 感情が「何処まで自分勝手なの!」と、後に添えたい言葉を全て出し切れず。自チームにもたらした奏効よりも、侮蔑に等しき気持ちばかりが溢れるアルマ。

 しかしながら、そんな渦巻く心中に反し、身体は冷静なまでに空中より舞い降りるように着地し仰せる。


 久方ぶりにも思える大地を踏みしめた彼女の右頬から、冷たい紅が伝った。


 けれども自身の流血は捨て置き、直ぐに立ち上がって爆心地を見据える。

 その眼に捉えたのは、立ち込める霧と粉塵が漂う混沌とした領域……だが、その中より慌ただしい足音を添え、コチラ側へと駆けてくる人影が薄っすらひとつ。


 ――エンドゥーだ。



「――ってて……」

「……貴方は!」


 彼は少しばかり爆弾の煽りを受けているようで、赤いジャケットの端々は焦げて黒々としている。

 しかし当のエンドゥーは被弾などお構い無しにアルマの元へ参じ、その手には手放した筈のセイヴァーが何時の間にやら収まっていた。




 先の爆発――その煙霧の内で、エンドゥーとアオイが相談のうえに下した判断は『アルマ撃破』だった。


 エンドゥーがアオイの負傷を気に掛けるも、アオイの右腕は吹き飛んだため、当初の作戦は実質的な沙汰止み。《……それなら》とアオイから切り出す。


 《エンドゥー、あの人と思いっ切りやってきなよ》と、痛みを堪えながら口角を上げて彼の背中を押す。作戦が履行出来ぬなら、せめて納得の出来る選択をと彼のゲーマーとしての性分を汲み取ったのだ。


《直接やり合いたいんでしょ? それに――》


 続きは言葉として継がずのアオイ。

 現状ではアルマを撃破する事こそが、彼ら唯一のでもありでもある――その意味はエンドゥーにも伝わった。

 アオイの提案を受け悟り《おうっ! サンキューな》と、エンドゥー流の笑みで白い歯をと見せる。


 次の瞬間には足元に転がるセイヴァーを拾い上げ、舞い上がる粉塵・噴霧の渦中へと飛び込んだのであった。そんな彼の背中を見送るアオイは、無意識にエンドゥーの真名リアルネームを呟いていた。


「……頑張って、ヒロくん」




 ――こうしてアルマの前に現れたエンドゥーは、黒く煤けた顔を腕でと拭い、再びセイヴァーを構え直す。

 今度は先程と異なり『八双はっそうの構え』。上方に切っ先を掲げ、例えるなら野球のバッティングフォームだろうか。


「――ふー。アルマ氏……ラスト一合、交えに来たぜ!」

「無事、でしたか」

に、命だけはな?」


 エンドゥーは剣を構えながらも、自身の右頬を軽くトントンと指で二度ノックした。

 このゼスチャーは頬を掠めた流血を指しており『アルマ氏も巻き込まれて大変だな』と、彼の瞳と態度が告げていたことに、つい苦笑を浮かべたアルマ。

 何せカムイとの連携不和は既に明らか、と云う意味にも直結しているのだから。


「……よく気付きましたね」

「チーム対戦系のゲーム経験がありゃ、セオリーくらいはな」

「私だけじゃなく、あの男の人も基本に準じて無いのですね」

「へぇ、相方は男性キャラだったか。ま、プレイングは人それぞれだよなぁ……」


 ……この会話直後、彼女の足元には再び狙い定めカムイの一射が地面へと刺さった。

 タイミング的に「貴様ら! 俺様の悪口を言ってるな!?」と代弁した様な弾痕を見つめ、アルマとエンドゥーは軽く吐息の吹き出しのみで笑ってしまう。



 一拍――。



「……さて、戦うんでしたね?」

「ああ。爆発に巻き込まれて寝ていた方が良かったかな?」

「それなら、私は楽だったのですけど」

「ハハッ……オレは生憎と悪運が強くてね」


 ここで再びカムイの狙撃が、エンドゥー後方三メートル地点に刺さる。

 連射の利かないスナイパーライフルとはいえ、こうも断続的に撃たれれば、何時被弾してもおかしくは無いだろう。


「……あんま時間も無いみたいだし、決めようか――」

「ええ、決めましょう――」



『――どちらが最後に立っていられるのかを!』


 そう続く筈の言葉は、再び的の外れたカムイの大地着弾とともに、彼らの衝突が代弁した。




 ≫≫ 戦闘時間残_8分17秒 同エリア ≫≫



 先に仕掛けたのはエンドゥーだった。


 気合いを乗せた「ヅァァアッ!!」の掛け声とともに、面打ちと見せるフェイントから変化。アルマに向け水平に鋭く突きを放つと、彼の朱色クリムゾンエフェクトが烈火の如き直線を一本描く。


 これに反応し、その場で左爪先を軸に回転(ピルエット)して躱したアルマは遠心力を利用し、エンドゥーの空いている脇腹目掛けて爪先の蹴りを返す『グラン・フェッテ』への派生攻撃を実行。


 迫るブリューの蹴りに対して彼は、咄嗟に摺り足気味のバックステップを踏んで避ける。明らかに修練の末、血肉として沁みついた淀み無き足捌きだった。


「……武道か何かをやってましたか?」

「剣道を中学・高校とな。昨年、高二のときに引退したが……そう言うアルマ氏も、その動きは何かやってただろう?」

「私のは武道とかでは――」



 会話こそあたかも日常的な内容だが、攻撃の手は休まるどころか、苛烈なまでにエスカレートしてゆく。

 当人たちの間には触れたら一撃で決着してしまう程の鋭い斬撃を、紙一重で躱してはカウンターを狙う……そんな攻防が今も繰り広げられているのだ。


 そのせめぎ合いたるや、最初に剣を合わせた時とは比較にならない程に双方の技術・体捌きともが現在進行形で加速をしている。

 原因は先程までの『2vs1』という均衡が崩れ、疑似的な『1vs1』環境へとシフトした影響であろう。言い換えるなら、周囲への配慮に割いてたリソースを全て攻撃へ費やした状態だ。


 今もアルマの身に纏ったミドル丈トップスに鋭い横一閃が奔り、ショートジャケットのように裂かれた所だ。

 剣道経験者と惜しみなく吐露した武器(セイヴァー)持ちのエンドゥーに対し、無手であるアルマの不利が徐々に顕著になってくる。


「――なんだ。ナイフ投げも出来るから、てっきりマーシャルアーツとかかと思ってたぜ」


「違いま――っ!」



 ――言いかけた直後、アルマへ迫る超高速の突き。

 頭上から足元に打ち下ろす型となった仕掛けは、先程までの剣よりも遥かにはやい光芒一閃。この一撃のためにと、密かに狙いを澄ませたエンドゥーの策略であった。


 声にならぬ声のままでグッと息を飲み、身を横向きにして可能な限りの速さで翻ると、辛うじて紙一重での回避に成功するアルマ。

 過ぎ行くエンドゥーの突きは、そのまま足元の石畳へと激突する。


「……まだ、終わらんぞ!」


 発したと同時に地面からは『――ギィィィンッ!!』と不快レベルの高い共鳴レゾナンスが発せられ、内耳を一瞬だけ支配。

 件の音源地には粒子纏うひとつ花が赤く咲いた。


 直後、エンドゥー切っ先が地上より羽ばたくを描き、再度アルマへと牙を剥く。


「――ん……ッッ!!」


 予想だにしていなかった、視覚外から迫り寄る危機。

 彼女は持ち前の反応速度を見せ、体勢を崩す事も厭わず懸命に身体を地へと向けて倒した――が、遂にエンドゥーのセイヴァーはアルマを捉える。


 赤き一輪より跳ね上がり、天へと翔け昇る必殺の一太刀。

 その閃きは、彼女の腕を月へ捧げるように斬り飛ばしていた。

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