【Phase.4-5】混迷する戦局、介入せし狂乱の射手

★『特殊武器』ってどんなのがあるの?


本作では、剣・槍などの『近接武器』、ハンドガン・アサルトライフルなどの『射撃武器』のほか、第三分類『特殊武器』が存在する。

主なラインナップはβテスト時点で下記のとおり。


►爆弾(別名:グレネード)

 半径五メートル範囲に大ダメージを与えるキャスト(投げ)専用武器。

 一定時間経過で爆発する『時限式』、当たったら爆発の『接触式』の2タイプ有。

 射程は使い手の投げる技術に依存するが、一戦闘に十発まで利用可能。


►パワードスーツ

 瞬時に着脱可能で全身に纏う防具だが、かなり硬いうえ腕力も飛躍的に上がる。

 またギミックで、パンチがパイルバンカーの様に撃ち出せるため近接攻撃も優秀。

 難点は重すぎて足が遅い事と、自慢のアバターが一切隠れてしまう事。


►チャクラム

 キャスト可能な近接武器の一種で、ダガーに酷似するものの特殊武器扱い。

 理由は異常に脆い事と、キャスト後に外れたら手元に戻る特殊性を有している。


►スタンガン

 近接武器の一種だが、当ててもダメージが一切発生しないため特殊武器扱い。

 その代わり相手は三秒間ほど痺れ、回復するまではまともに動けなくなるだろう。


►ネット(別名:網)

 捕らえたい対象に投げつけると、網が展開して対象を絡め捕る。

 捕まえた相手は動きが鈍くなるが、ダメージは発生せず、射程も僅か一メートル。


►ドローン

 攻撃手段を持たないラジコンで、戦闘フィールド全域を回れる飛行能力を持つ。

 カメラも搭載され、脳波またはコンソールパネル操作できる偵察・索敵向け武装。

 耐久値は銃と同じく、攻撃が掠ったらほぼ即破壊される。


※今後のパッチで追加・調整される可能性も有り得る。



──────────────────────────────



 熱波で揺らぐ影達は共に駆け出す。

 現在の双方間は既に十メートルを割る混戦の様相を再び見せ始めた。


《エンドゥー、アレ――》

《――解ってる。あれだけ身軽だと……》

《出来る?》

《なんとかするだけさ》

《お願い。その後は任せて》

(オッケー)!》


 彼らの意志疎通は、足らずの数言で交わされた。


 アオイが今、アルマへ爆弾を投げ付けても、エンドゥーごと巻き込む攻撃となってしまうだろう。

 そこで最初にエンドゥーがアルマを迎撃し、躱されても構わないので追い返して再度距離を作り、続きアオイは爆弾キャスト(投げ)の追撃で仕留める。

 策自体は先程同様にシンプルで、彼らの得手とする対近接パターンのひとつだ。加えて言葉少なでも子細が伝わるのは、日常でも積み重ねた交友関係が生み出すリレーションの賜物でもあった。



 ――爆弾の有効射程は、開球体状に着弾点から半径五メートル範囲。空間などの状況に因って範囲は多少前後するものの、凡その臨界点がその距離だ。

 アルマの身体能力を一考に含めると、投擲の瞬間に回避反応をされてしまう可能性が高い。そのためアオイは『成るべくなら彼女本体を着弾点にしたい』考えつつ、二人から少し距離を取っている。


 ……ともあれ、エンドゥーが先に仕事を熟なさねば絵に描いた餅。

『武器無しとはいえ、またあのラッシュを受けられるか――楽しみで堪らん!』と、若干ながらよこしまなる期待も含め、切っ先を下げつつ更なる加速。



 盛る焰を背負いエンドゥー。


 藍の夜を舞い踊るアルマ。


 二つの色が交叉の刻を迎えた――。




 ≫≫ 戦闘時間残_10分11秒 同エリア ≫≫



「――ィエッ!」


 ポーランド語で「イェドゥン」を意味する略式発声とともに、初撃はアルマサイド

 エンドゥーまで約二メートル手前の地点より、足をクロスさせて身を捻ると、背中を向けたまま右足の蹴りを水平に放つ。

 空手の後ろ蹴りを想起させるアクションだが、実際には『アティテュード』と呼ばれるバレエ技法のひとつだ。


 対して蹴りを受けるエンドゥー側は攻防一体、迫る足の切断を狙う。

 翔け上がるセイヴァーの軌跡――明らかに剣術経験者のそれに等しい彼の剣筋が『先ずは足を一本だ!』と狙う緋の閃きは弧を描くも、鋭き刃が斬って落とすは虚空のみ。


「ッッー! ……蹴りを、変化させたか!?」


 先程まで真っ直ぐとエンドゥーに伸びていたアルマの足は剣閃上には在らず。

「フッ!」と一呼吸の後に、脚部可動域を支配する腸腰筋ちょうようきん(別名:深腹筋)を可動させ、垂直にまで蹴り軌道を跳ね上げる――後ろ蹴りのアティテュードに酷似した形からの角度変化『アラベスク』へ移行する事で脚部切断を免れた。


 だが、実に驚くべきは不安定な姿勢を一切に崩す事もなく、彼女はエンドゥーの剣を目端でを実行した反射速度であろう。

 身体操作や反射速度は、脳の記憶に起因するアクション……アルマはゲームこそ初心者であるものの、VRという世界の理を人一倍に使い熟なしていた。



「ヤるなぁー。流石、弾を斬っただけある!」


 エンドゥーもこの一振りには多少の自信があったのだろう。

 太刀筋を見切られた事への僅かな口惜しさと共に、感嘆の声が彼より漏れる……が、よくよくと見れば、彼女の爪先には僅かな斬り込みが走っている。


「ギリギリでした――よっ!」


 アルマはコスチューム一枚でセイヴァーの衝撃波を受けるも臆さず、前のめりな攻勢は止まらない。

 跳ね上げた爪先が月へ真っ直ぐと伸びゆき、やがて垂直に懸かった……このタイミングに連動して、彼女の上半身がと大地に対して半円を描いては、地中から飛び出たかの如くエンドゥー足元より左手を伸ばし迫る。


「――今の私に出来る事、それだけをっ!」



 ――下方よりと、剣を握る彼の肘へアルマが手を添えた刹那。

 軸であった左足を浮かせ、そのままエンドゥーの右太腿を蹴る。続き、反動で浮いた身体まま上げていた右足を彼の肩口に打ち下ろした。

 ヒットした二連撃で「ぬぐっ……!」と漏れる声。体勢こそ維持するも、伝わる衝撃とともにエンドゥーのHPは遂に五割を下回った。


 アルマを払うべく掴まれた腕を振るも、彼女は柳の如く見事なまでにエンドゥーの力を往なしてしまう。

 互いに呼吸までも聞こえる程に絡み付く様な至近距離クロスレンジ……腕を抑えられたうえ、こうも密着をされては、取り回せない長物(セイヴァー)を持つ側に不利が付く。


「こりゃあ、マズいかっ!?」

「まだっ……セァアッ!」


 呼吸を置かずアルマのラッシュは続く。

 肩への打ち下ろしより腹筋のみで上体を起こすと、左足でそのまま彼の右側頭部を蹴る三連脚撃。

 ……だが、最後の手応え(何方かと云えば足応えだろうか)は自棄に硬い骨張った感触が伝わる。


「っ! 防がれ……!」


「へへっ……そう何回も――」


 アルマの足とエンドゥーの頭部……その間には彼の右腕が介入している。セイヴァーを持つ不利を悟り、武器を手放す選択を下したのだ。

 解っていても戦場で武器を捨てる行為は幾何いくばくかの躊躇いが生まれる筈。だが、一瞬の攻防で決断する彼もまた『強者』たる資格を有した上位プレイヤーの存在証明でもある。


「――アルマ氏だけの舞台にはさせなぃ……ぜぇッッと!!」


 武器を持たぬ無手状態のエンドゥーが選んだ選択肢は『体当たりチャージング』。

 右腕で頭部をカヴァーしながら、そのまま腕に体重を乗せて押し出す。至極単純にダメージ期待の出来ない行為ではあろうが、此れはにとって勝利を狙い描く一撃にも至る絵図だ。


「……ぐっ!」


 後方へと再び飛ばされて呻くアルマ。足ごと身体を押されたため圧迫感こそ有れど、案の定として実害ダメージは皆無だった。


 背丈の割に身軽な彼女は、エンドゥーのリアクションに因って約七メートル程を飛び行くコースに乗ってしまい、着地に備えて身を捻り始めた。

 ……だが、真に備えるべきはこの後の追撃、それこそが彼らの本命なのだ。


《――ッし! 今だ、アオイ!》

《OK、あとは僕が!》

《頼んだぜ》


 回避の隙を一切与えまいとアルマの着地に合わせ、爆弾を放つべく振り被るアオイ。

 存外と様になっている彼のピッチングモーションから、爆弾という名のボールがリリースをされる……その刹那だった――



 ≫ ≫ ≫ 



《――ん!? あのランクは……でも、もう残り十分もぇ》


 エンドゥーのリアクションで吹き飛ばされている最中のアルマ。彼女の耳へと届く、久方ぶりのフラストレーションボイス

 それは態度のみ上位ランカー級であり、今や陰薄きアルマの相方カムイであった。


 彼が覗くアサルトライフルに備わるスコープが映すはもやばかりで、視界不明瞭も甚だしい。

 重く垂れ込めたレティクルを睨み、吐き出したその言葉はアルマに向けたものか? それとも独白なのか?


《……こうなりゃ知るかよぉーっ!!》


 何方いずかたともつかぬ《チームチャット》で呟いた言葉とともに、彼は約五百メートル離れたビルより十分な狙いエイムも無しにトリガーを絞ってしまう……直後、彼の潜むビルよりマズルフラッシュが炊かれた。



 ――次の瞬間、弾速・威力・射程ともに射撃武器でもトップクラスのスナイパーライフル、その銃口より見切り発射の弾丸が飛翔を開始。


 銃口より連なる一筋のくすんだ茶色ブラウンエフェクトは、線条痕さながらの捻じれた弾道を描く。その内では彼の殺意を孕み、不確かに揺らぐ陽炎のエントロピーを貫こうと加速度を増してゆく……だが、一体を貫くための攻撃なのだろうか。


は俺様の獲物だぁっ!!》


 気が逸り、何を狙ったのかも今は定められぬままの絶叫。功を焦るその引鉄は在り得ない程に軽く弾かれていた。

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