【Phase.4-2】No Gun's、Blading!

★『武器の仕様』と『戦闘のTipsマメ知識

《MateRe@LIZE Nexus》の武器には『攻撃力』・『耐久力』・『重量』が設定されている。


『攻撃力』は当然威力に直結。

『耐久力』は攻撃にどれだけ耐えられるか。

『重量』は近接武器では「攻撃速度」として、射撃武器では「精度 (命中力)」へ影響する。


基本的に大型な武器ほど『攻撃力』と『耐久力』は高く、そのぶん『重量』が重く設定されている。

但し例外として、射撃武器すべてと一部の特殊武器(爆弾など)には『耐久力』が設定されておらず、直撃≒即時破壊に繋がるので気を付けられたし。



また密かな仕様として、全く同系統の片手武器を左右同時に持つと『TAツインアームズ(通称、二刀流または二挺拳銃)』という恩恵が受けられ、硬直ディレイを大幅に低減してくれる。詰まりは高速で攻撃を仕掛ける事が可能となるうえ、使用後も隙が殆ど出来ないというかなり強力なメリットがある。


……が、同系統のものを二つ持つことは応用力に欠けてしまい、フィールドや戦局に因って詰み易い。そのうえ両手利用推奨の高火力武器 (アサルトライフルetc.)の旨味を放棄する羽目にもなるので、瞬間火力を取るか汎用性を取るかで好みが分かれるところだ。

因みに現状は左右で別武器(例:アサルトライフル+爆弾)を持つスタイルがβテスターの中では優勢。

近々パッチが当たってバランスが変わる……という、有力な筋からのネット情報も流れているとか。



──────────────────────────────



 ――空は薄霧の向こう、覗く月光を背にアルマは彼らへと駆け出す。


 伸びた逆光と霧雫でにじむ彼女の影。

 その揺らめく幻像と共に鋭くもしなやかに疾走する姿――それはなんとも優美でもあり現実味を帯びず。

 まるで天に掛かる十六夜月いざよいづきから生まれ出でたのだろうか。月の重力さながらの軽やかさには、人の持つ自重感覚を狂わされそうになる。


「やっぱりこのゲーム、相手を仕留めないと終われないのかな? ……なら、やるべき事は――」



 先程受けた歓迎弾ウェルカムバレットへの叛撃とばかりに呟きながら、残る一刀のくの字型ククリダガーを慣れた手付きでと手の内で踊らせ、逆手から順手へ持ち替える。

 このアクションを合図として身体は更なる加速をし、ここで完全に最高速へシフト。


「――叛逆、開始!」



 決意の吐露とともに重力に縛られぬ月の使者アルマが向かう先は、全くの無傷なエンドゥーだ。


「コッチかっ! ……色々と自由な姉さんだ」



 ――実のところエンドゥーは、アルマが取るであろう次なる一手を「今しがた武器をロストしたアオイへの追撃だろうな」と、予測立てていた。


 状況的にはメイン武器を失ったアオイを一気に畳み掛け、後にエンドゥーとのタイマン(1vs1)の状況へ持ち込むのが本作のゲームセオリーである。

 何故ならば『2vs1』という劣悪なる環境を早々に脱せ、そのうえアオイの近くに転がる自身の獲物たるダガーを回収するチャンスだってある。

 加えてアルマがアオイと絡めば、エンドゥーの射撃はアオイを巻き込むの可能性が付随する……なれば、この選択は実質エンドゥーのアサルトライフルを封じられているも同義。


 因ってこれ等の現状から『アルマ氏はすべからくも、アオイへ向かう目算……其処を横からカット(割り込み)して仕留める!』との彼予測だったのだが、結果は見事なまでのセオリー無視となった。



《……だが、オレ達には有難い誤算だ。アオイ、己が引きつけるから今のうちに距離を!》

《うん、下がるから前衛お願い!》

おうっ!》



 ……予測から目の前の現実へ、思考という視野サイトを切り替えてゆくエンドゥー。

 迫り来るアルマを迎え撃つべく、彼はアサルトライフルの銃口マズルを再度上げた。


 位置的にはこのまま正面への斉射せいしゃを実施しても、既にアオイを巻き込む位置ではない。距離も10メートル以上は離れているため、後退しながら射撃すれば恐らく数発は鉛弾を見舞う事だって可能だと思われる。

 何せ近接武器使い最大の弱点は「距離を取られる事」なのだ。撃たぬ理由は無い。



 堰を切るように「ダブルロック(2vs1)のままで良いなら遠慮なく行くぜっ!」と、後方へのステップを踏みつつ、トリガーを絞る指に力を込める……だが直前、照準エイム合わせの間も取れずに、がエンドゥーを襲った。


「……ッ!!」


 其れは今し方までアルマの握っていた筈の、エンドゥーの構える、という事態であった。



 ――エンドゥーが銃を構え直す瞬間、アルマは既に走りながらも減速する事無く回転ターンを開始していた。

 この時点で半回転までを実行した体勢から「フッ!」と聞こえぬほどに小さく息を吐き、ノールックのまま彼女の脇下より曲芸の如きダガー投げの一射が放たれた。


 彼女の回転力と遠心力の運動エネルギーを利用したダガー投擲キャスト

 その一投たるや、先程アオイが受けたモノよりも更に早く鋭く、伴ってエネルギーに比例した火力も内包する蒼き一閃が周囲に滞留する濃霧を切り裂いて夜を翔ける。



「ぐッ……コイツはマズい!」



 「まさか!」と、命綱でもある残り一刀を手放すとは思わなかったエンドゥー。

 向かい合う敵に対して、無手になるのを一切に躊躇ためらわぬアルマ再びのセオリー破りだった。


 瞬き程も掛からずの加速度に加え、近距離での投擲を敢行するなどという二重の奇襲に対して回避……は、もはや間に合わないであろう。

 意想外のアクションに対し、ある種の「称賛」とも云うべきエンドゥーのフレンチな舌打ち。同時に彼の持つアサルトライフルを放って盾にし、被弾の身代わりにする判断を下す。



 『努々ゆめゆめ油断するなかれ、って事だな』と、今は反省を心中の傍らに置きつつ、エンドゥーはひとつの策を実行に移す事とした。

 コンマ秒後にはアサルトライフルが粒子と化して消失するだろう……だが重要なのはその後。武器破壊の演出である粒子エフェクトの飛散に乗じ、腰に据えたセイヴァーで反撃に出る腹積もりだった。



「まだ終わらんさっ!」



 そして迎える武器消失の刻間。

 ダガーの切っ先が手放したアサルトライフルに触れる――この時を以て、エンドゥーの策は動き出す。



 ≫ ≫ ≫



 射撃武器は、近接武器や特殊武器と異なり『耐久力』という変数パラメータが設定されていない。

 威力・射程・レスポンスと、三拍子揃った優秀な射撃武器に於ける唯一のウィークポイントだ。そのため、攻撃が命中さえすれば一撃で武器のロストへと至るのである。


 当然、今戦がβテスト初プレイのアルマが知るべくもない……が、射撃武器を厭忌えんきしたことで自ずと「武器破壊」という最適解を導き出したのだった。


 此度も例外漏れず。

 双方の武器が交差した瞬間、アサルトライフル側のみが一方的に破壊された。

 続き、破壊証明とも云うべきエンドゥーの朱色ヴァーミリオンエフェクトが弾け散ると、アルマの蒼きダガーも生じた破壊の干渉力より弾かれ、廻々くるくると空高く舞い上がってゆく。

 月光を受けたその刀身は、見る者たちへあたかも二つ目の月ではないかと錯覚させてしまう。



「……また鉄砲(アサルトライフル)で防いだのね」



 銃の種別まで区別出来ずのアルマ。

 ともあれ、厄介な武器を破壊したというのに、当の彼女は不満気ふまんげだ。



 ――そんな浮かばぬ表情はさておき、無手状態を意に介さずな彼女の身体は、次なるアクションへと移行していた。

 大人びた彼女の容姿とは裏腹に、退く選択をしない気概からして随分と骨太な性格のようだ。


 加えて投擲・回転というアクションを実行をしたにも係わらず、彼女の体幹はブレる事なく「一気にっ!」という奮いの一声。


 未だトップスピードを維持したまま疾走体勢へ入ると、向かうは目の前に広がった粒子はさながらにあけ帷幕いばくだ。

 彼女は潜るに臆す事無く、幕裏で待ち構えているであろうエンドゥーへと疾走してゆく。



「己からサシ1vs1のお誘いへ行くつもりだったが……怯まず来るかよ!」


 傍目からは「武器持ちを相手に徒手空拳で向かう」、という一見の暴挙とも取れるだろう。

 だが其れさえも押して向かい来る彼女に対し、エンドゥーは対戦相手ながらに「称賛」を禁じ得ない。


「へへっ、流石は強者の姉さん――いや、アルマ氏!」

、エンドゥー!》

《ああ、さ。今からカウンターを仕掛けるから、アオイは追撃の準備を》

《聴こえ……? まぁフォローは任せてよっ!》

《頼りにしているぜ!》



 ――現在、アオイの位置からはアルマを視認する事が可能だ。

 だが、エンドゥーの目の前には大量の武器消失の演出エフェクトが舞い、ハレーションの向こう側を覗く事はあたわず。

 そのためエンドゥーが頼るのは、アルマの駆けてくる――これが現在の彼のだった。


 エンドゥーは当初に予定していた『先の先』ではなく『後の先(カウンター)』へと戦法を切り替えると、腰に下げたセイヴァーの柄に手を掛ける。所謂いわゆる『居合』の構えに拠る迎撃態勢だ。

 思いのほか彼に馴染んでおり、剣道ないし剣術を嗜んでいたのだろう事を連想する程に一朝一夕では無い、なかなか堂に入った構えであった。


 今一度「フーッ……」と強く息を吐いて耳を澄ませ、アルマの踏み込みを見()極める。研ぎ澄まされる集中……チャンスは刹那。



『残り、12メートル。

 ……11……10……むっ!?』



 ――が、今まで聞こえていた彼女の足音が、突如として10メートル以遠で途絶えた。

 エンドゥーの心中巡る迷いが、柄を握る手に冷たく伝う。



『止まったのか?

 ……いや、あれだけ速度が乗っていたんだ。止まるにしても距離マージンが必要だ。

 何より歩幅からして減速の兆候は無かった……ならば何故? 飛んだのか?』



 当然、アルマが跳躍してくる事もエンドゥーの予測視野には入っており、現在進行形でその疑念が彼の内に渦を巻いていた。

 しかしながら、仮に飛ぶにしても『もう少し近寄ってから飛ぶだろうな』と見立てていた。

 理由は走り幅跳びの世界最高記録――「人類は9メートル程しか飛べない」という事を既知としていたからに他ならない。



いや、迷うな……信じて抜かなければ、己はきっと後悔する!』



 どんな手段で彼女が迫っているのか……現時点では特定が出来ずにいたエンドゥー。

 しかし、彼のからだろうか? 自身の言霊として自らの剣に誓いを託す。


 そこからは仮想アルマの姿を試想イメージ立て、先程の歩幅から続きのカウントを再開。

 抜刀タイミングをアジャストするために『7……6メートル……5メートル……』とカウントを再開した――が……



 ――



 瞬間、エンドゥーの思考に割り込む一撃が飛来した。

 それは茶色ブラウンエフェクトを帯びたまま、エンドゥーの足元数センチ横の石畳をと鈍く抉る音だけが耳に届く。


 紛れて同時にアルマのステップ音が一回だけ、その向こう側で確証無く跳ねたような気がした……この不協和音に連動し、と緊張に弾けたエンドゥーの手には惑いと焦りの熱が伝った。


《エンドゥー、居住区のほう! 500メートルくらい向こうのビルの……4階から狙撃してるっ!》

《……来てほしく無い時に、ってヤツか!》


 エンドゥーへ狙撃手の存在を告げたアオイ。

 彼の言葉で彼らが失念しつつあった姿なき『ニート』……そう、濃霧の向こうで引きこもったまま、今のいままで一切の攻撃も仕掛けて来なかったアルマの相方スナイパー、カムイの存在をリマインドしたのだ。



 そしてカムイがようやっと動いた理由は戦場の変化にあった。


 墓標の様なビル達に囲まれ、戦場と化した濃霧の中央公園エリア。

 だが気付けば、ビルの谷間風が濃霧を夜風とともに吹き散らし、公園の一帯を一時的な薄霧状態へと変えていたのである。

 「霧」というバリアが剥がれ始めたのであれば、当然カムイには「歓迎すべき最適な環境」に近づきつつあったため、彼のスナイパーライフルより「試しの一射」が今回放たれた、という訳であった。


 対するエンドゥー達の眼前は、来襲せしアルマに対抗中という逼迫した状況。

 エンドゥーに至ってはにばかり集中をしていたため、視覚情報には気付けず。正に狙撃はとなってしまった形だ。



「――せやぁあっ!!」



 ――彼らが懐疑に惑う中、エンドゥーの前に舞い散る朱の粒子。

 その間隙より現れたのは、裂帛れっぱくと共に瀑布を切り裂く白き線条であった。



「……不味いっ!!」



 さながら刃の如く、エンドゥーの頭上より鋭く振り下ろされたのはアルマ「右脚」だ。


 空中で飛翔しながら打ち下ろす彼女の蹴撃。それを視界で捉え『やはり跳んでいたのか!』と了得に至るエンドゥーだが、カムイの狙撃で意識を散らされた事も手伝って「くッッ――」と、出遅れ気味の迎撃へと即時移行する。


 彼は攻撃速度重視の居合にて、僅かでも巻き返すべく鞘走る刀身を抜き打ちを開始した。



 先んずるアルマ。

 繰り延べながらに反応したエンドゥー。



「私は……私を信じるっ!」



 言葉に秘した意志固き『Faith信念』の声が響く夜。

 想いの強さ分なのだろうか……否、この場には実力で手繰り寄せる結果しか無い。

 いち迅く届いたのは、彼女のその長い脚先だった。



「己じゃなく……セイヴァー、の方だと!?」



 鋭くもその爪先が、エンドゥーの抜き放とうとするセイヴァーの「柄」に重なると、半ば抜刀していたセイヴァーは再度、鞘の中へ「キンッ!」という金属音とともに、強制的にされた。


 更には直後、アルマは彼の握るそのへと、軽やかに登り立ったのであった。

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