【Phase.2-Extra】わたしだけが知らない一日、アタシしか知らない世界

現実へと帰還するリーゼ。

VRとの接続が切れた瞬間――漂う意識の中でプレイヤー『桐生リゼ』の脳内ニューロンが、今日まで眠っていたシナプスの一つと接合を果たし、『とある一日』を映し出した――



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「フワフワと漂う海のような中だけど……ココってどこだろう?

 VRって脳へのダイレクトリンクだから、もしかしたら脳内だったりね。

 ……まー、そんな事はないか。

 ハハッ。


 んでもココいらで、チョット脳を整理しますかね。

 どーせその内にアタシの目が覚めるだろうし、この海って脳が現実へ切り替わる途中の夢みたいなモンでしょ?

 


 ……ええとー、さっきは確かオラオラとグライロウ君に奇襲されて、マウント取られてぇ……気が付いたら上に乗っていたのがグライロウ君じゃなく、黒い影っぽいヤツで……うー、いつの間に変わったんだろ?


 ――目が合っちゃった時かな? ヤル気スイッチ入ってるグライロウ君と。

 でも、あの緑色に光る目……似た目を以前どっかで見たんだよね。

 ってか、肝心なときにアタシの記憶力はビミョーに使えないな。


 緑の光を見た瞬間、周囲が写真のネガポジ反転みたいに変わって、世界の時間がゆっくりになって……そこではアタシだけが等速で動ける……そんな世界だった。


 乗っかってた影がスローに動いて……絞められた影の腕を振り払うと玩具みたいに取れたから……ポイッと捨てたんだ。

 影がここで逃げ出したけど、逃げ足も遅かったから追っかけて頭を掴んだら簡単に潰れた。

 チョット手応えが土みたいでキモかった……思い出したら本当に気持ち悪いな。 


 新しく奥のほうから仲間みたいな影も来たから、今度はコッチから仕掛けた。

 ……そしたら影に名前を呼ばれて、私だけの変なアノ世界が終わった。


 んで、気が付けばセレスちゃんの首を絞めていた、と。……悪い事をしたなぁ。


 でも、セレスちゃんの顔、どーっかで見た気がするなと思ったら、の顔に似てるんだ。

 初めて見た時『美少女だなー』って思ったけど、おもっくそ自画自賛だし……恥ずかし。

 まー、こんな顔なんてヨーロッパいけばゴロゴロいるだろうし、タマタマってことだよね。


 そっから、視界が赤くなって……それで――」



 ――ここで『リーゼ』が『桐生リゼ』へと切り替わる瞬間を迎えた。

 同時に、リゼの中で眠っていた筈の記憶がひとつ、再生される。



 漂う意識の海は、徐々に黄金へと染まりゆく。

 その海の向こうで、一瞬だけ見えたビジョンが一つ。

 映し出された景色は母親の運転する車の中。

 まだ小学生だった頃のリゼが、ランドセルを脇に置いて後部座席に座っているのが見えた。


なついなぁ……コレ、いつだろ?」


 当時のリゼは退屈そうに「ママン、わたしテレビ見るねー?」と母親に声を掛け、カーナビへ目を向けていたところだ。

 そういえばこの頃の一人称は「わたし」だったなと、ノスタルジックな感情が湧き出てくるも、やはりセレスの面影と重なる過去の自分。


 幼き日の自身と共に、俯瞰視点からカーナビ画面を見たリゼ。そこに表示されている日付は『西暦2011年7月15日、金曜日』だった。

 ……この瞬間、現在のリゼの思考が停止する。


「!! この日……アタシが無くした、あの日だ……」



 ――絶対の記憶能力を持つリゼ。

 だが、彼女にはだけ、が存在する。


 そのがこの日、『西暦2011年7月15日、金曜日』だ。

 リゼの記憶にはない日の『記憶』が目の前で流れている。


 自身がNEETになった運命の日が、今更と――。



「これって妄想? 夢? いままで夢にも出てこなかった『この日』が、なんで今……」



 ――その答えは誰からも、何処からも無いまま瞬転。

 リゼは金色の海へと溶け、意識は現実へと還って行った。



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そうだ。


アタシはこの日から、


失くした記憶に怯えて、


全てから逃げて、


そして、




――NEETになったんだ。



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※次回、新章開幕です。

 新展開&メインキャラ(OPのアノ人)登場回ですのでご期待くださいませ!

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