【Phase.2-3】激化する攻防、放つ奇跡の一条
★ゲーム内のチャットってどうやるの?
チャットには、不特定多数と会話するための「オープンチャット」、パートナーとのみ会話できる《チームチャット》、特定のプレイヤーを指定して会話する[ウィスパーチャット]の三種類がある。
脳波で指定してそれぞれのモードへ切り替えが可能だが、特に意識しない(または仕様が解らない)と「オープンチャット」で話す事になる。
ムフフなナイショ話の漏洩には気を付けたいところだ。
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接敵までの距離、現在約百メートル程。
ショッピングモール内の照明は無く、周囲の視界は劣悪なる闇の
だが、向かう対戦相手達の頭上だけは採光張りの硝子天井となっている。見えるは星々の瞬きが僅かな光明となり、リーゼ達が向かうべき先を仄かに照らしてくれていた。
――先程放たれた敵サイドからの牽制。
この開幕一射を皮切りに、次々とリーゼ達の潜むショッピングモールのテナント壁に弾丸が収束する。それ等はあたかも
βテストの開催されている現在は2029年5月。陰暦の五月雨と掛ければ何処と無く
とてもじゃないが、物陰から顔を覗かせようものなら被弾はまず免れ無いだろう……が、リーゼは一斉射撃が始まった約七秒後、セレスに告げた。
《……よし、今っ! 俺が盾役で先行するから付いて来て!》
《えっ! 撃たれちゃいますよ!?》
《たぶん三、四秒くらい大丈夫! ……それに、
言うより僅かに早く「よっ……と!」と、テナントの影より踏み出したリーゼの第一歩。
転がる一片の瓦礫を勢いよく蹴り飛ばしつつも、迷うことなく
対してセレスは驚きの声も上げられずに息を呑み、戸惑いながらも一歩出遅れてリーゼの後を追従。
それもその筈。傍から見ればリーゼの行動は、初心者が無理攻めをして捨て身の攻撃に出た様にしか見えない。余りの突飛な行動に対し、セレスは直ぐに賛同の声を上げられなかった……しかし攻撃の止んでいる現状が何よりの「大丈夫」という言葉の証明となった。
困惑の中で後追いを選択し、踏み出しつつも疑念をリーゼにぶつけてみた。
《……なんでこのタイミングで行けるって解ったんですか?》
《ん? だって
《そう、ですけど……暗い中でよくアサルトライフルって特定できましたね?》
駆けながらも『しまった!』という表情を浮かべたリーゼは、慌てて取り繕うような説明をする。
《あー……ホラ! さっき銃の種別でウチらで予測してたじゃん? だから、そうかなーって……》
《勘? ……だとしても、弾数を数えてたんですか? しかもあの集弾密度で二人分を?》
《うん、そうそう! 大体こんくらいかなーって感じー……いや、それよりも走って走って! 接敵距離稼ぐよっ!》
《……了解》
――セレスの方に顔が向いてなくて助かったと安堵するリーゼ。
実際の特定理由は、リーゼ自身の完全記憶能力に基づいた結果だ。
聴こえた銃弾の発射数を『記憶』していたからこそ出来た。しかも相手方二人共がアサルトライフル使いである事も、シリーズ前作と同じ
説明をするのにしてもリーゼとしては「
もしキチンとした根拠を述べるなら、自身の持つ能力を晒さねばならないが、まず大方は信じて貰えない。精々『いい歳して中二病を
そもそもリーゼの完全記憶能力を理解してくれる人物など、二十九年の人生でも片手で数える程しか居ないため、この能力が絡む質問へは茶を濁した回答しかしないと決めていたのだ。
……この説得力が薄いうえ、歯切れの悪いリーゼの言葉に対して
が、確かに今は戦闘中で、しかも接敵直前。セレスも現状に集中せざるを得ず、リーゼの背中を追いかけてゆく。
――一方、敵サイドでは暗闇より迫るリーゼ
今は接敵を報せる
現状、敵側の二名は闇中にて、アサルトライフルの予備弾倉のマガジンを交換中。リーゼが弾数を『記憶』していたとおり、二名ともが弾切れ状態であった。
彼等はリーゼ達が迫るプレッシャーに加え、中途半端に差し込む星光によって未だ夜目に慣れきっておらず、薄暗い手元でマガジンを床に取りこぼしてしまい、慌てて拾うような状況だ。
「おい! アイツら来てんぞ! 急げ急げ!」
「待ってくださ……弾が、暗くて……上手く嵌らなくて」
「チッ、使えねぇな!」
「そんな風に言わなくても……」
「いいから手、動かせ! 手!」
走り込むリーゼ達の耳には、敵チーム二人の声が「オープンチャット」で聞こえた。声からして男性と女性のペア。何故か彼等は《チーム専用チャット》で通信をしていない。チャット周りの操作に不慣れなのだろうか?
彼等の声が聞こえたと同時に、姿までも視認できたリーゼ達。ココで敵チーム二名の情報を得る事が出来た。
一人は『グライ†ロウ』という、ランキング581位プレイヤー。名前に謎の
もう一人は『キルリア』。黒髪のおっとりとした雰囲気だが、印象に反したお堅めの軍服と眼鏡が特徴的な女性。ランキングは1155位。
彼らが今回の対戦相手。二人とも先程リーゼが射撃音で特定したとおり、ともにアサルトライフルを携行してる事も確認した。
逆もまた然り。当然ながら、敵から見えるリーゼの情報も開示されている。
グライロウはマガジンのリロードを終えつつ、リーゼの頭上に表示された情報を見て小馬鹿に嗤った。
「……なーんだ、ノービス野郎じゃねぇか。脅かすんじゃねぇ!」
相方の手間取るマガジン交換を叱責した割に、たった今リロードを終えたばかり。なんという近年稀に見る、清々しいまでの棚上げっぷりだろうか。
そしてリーゼのランキングを見るや、急に強気な態度に出たグライロウは、アサルトライフルを片手で構えてセミオートモードでトリガーを絞り、
狂喜を孕んだその顔は、今にも「ヒャッハー!」とでも言いだしそうだ。
「ヒャッハー!! 喰らいなっ!」
マジで言ってるし。
だが、伊達に581位という中堅ランカーでは無いようで、両手で持たないと
ノーモラル・ノーマナーという態度には頷けないが。
……彼の弾丸は真っ直ぐ、約五十メートル先を走るリーゼの胸元へ飛翔してゆく。
《リーゼさん! 避けて!》
《――大丈夫。さっきも言ったじゃん?》
迫る弾丸に対してリーゼは足を止める事も無く、かと言って回避行動をするわけでもない。
走りながらも両手を伸ばし、足に携行する二挺のハンドガンをホルスターより抜き放つと、正面へと構えた瞬間には迷う事無く「ソコだっ!」と、左右のトリガーを弾いた。
《!? ……相打ち狙い?》
《いや。
セレスは既に回避行動済み。リーゼの背中から飛び出して催事スペースに並べられた椅子の影へと退避しつつ、弾丸を放ったリーゼの姿を斜め後方より見る。
――眼前に映るのは俄かに信じられない現実だった。
リーゼの
《……まさか!?》
驚愕の表情に変わりゆくセレスの顔。その瞳に映ったのは赤色と山吹色、バイカラー光の衝突。
金属同士が弾き合うような
残るは
「!? 何で俺の弾が消えた? ……バグか!?」
混乱した様子で叫ぶグライロウ。
確かにリーゼと直線上に居るグライロウからは、今の経緯を直ぐに察するのは難しいだろう。
……だが、少し斜めの位置から見ていたセレスは、見えた状況そのままをリーゼに問う。
《――当てて消したんですか? 弾丸に……弾丸を?》
《イグザクトリー! 『ファントムブレイカー』って技さ》
――もっとも『ファントムブレイカー』という名称はリーゼだけの自称であり、誰も呼んじゃいない。他の世界ランカー達は英語圏のプレイヤーが多いため『
《もう一度言おう。『ファントムブレイカー』であると!》
《いや、それ聞きましたって……》
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