【Phase.2-1】セレスへの違和感、そして始まった戦闘

★《MateRe@LIZE Nexus》の武器って?


対戦で使用する武器は、最大で二つ所持可能。メイン武器とサブ武器として携行し、状況によって使い分け、時に同時使用もする。主に近接武器、射撃武器、特殊武器の三種があり、遠距離から攻撃できる射撃武器を最低一本は持つのが推奨スタイルだ。


一番人気はアサルトライフルで、攻撃力も高く射程もあり隙が少ないという万能武器。

因みに二本とも近接武器を持つ行為は、ビジュアルとしては人気があるが、接敵前に射殺され兼ねないので素人にはオススメできない。



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 初戦の相方がまさかの最高位ランカー。

 表示ランキングに、自分の空目を疑うリーゼだが勘違いでは無いらしい。ご丁寧にキャラクターネームの先頭に付された金色の王冠アイコンが、事実であることを証明してくれる。

 シリーズ前作 《MateriaLIZE》の世界ランキング1位プレイヤーにも、全く同じデザインアイコンが付されていたのを、リーゼは世界大会で実際に見かけたことがある。


 廃人プレイヤーであるほど憧れる象徴シンボルマーク。ランキングの乱高下が激しいβ初日とはいえ、前作の猛者が数人居ると思わしきβテストで唯一人に与えられる栄冠に輝くのは容易ではない筈だ。

 ……と、なると前作の上位ランクプレイヤーだろうか? 否、珍しくない名前ではあるが、少なくとも前作の世界ランキング1000位までの中に『セレス』なんて名前は


 リーゼは前作上位1000人のプレイヤー全てをしており、全員のスペルまでも一言一句と違える事無くそらんじている。

 コレはリーゼが生まれながらに保有している絶対記憶。正式名『直観像記憶』という能力だ。



 ――しかし、試合も始まる直前なので勘繰ってばかりもいられない。名前だって前作上位プレイヤーの誰かが、βテストでは『セレス』の名に変更しエントリーしているだけかも知れないため、現状では予想のみで特定はできない。

 ここは当人に直接、挨拶がてら探った方が早いと考えを切り替えることにした。


「どもー、初めまして! デビュー戦で階級はノービスのリーゼって言います。よろしくー!」


 挨拶とともに自分の階級がノービス初心者であることを明かすリーゼ。頭上の表示を見れば名前もランクも察しはつくだろうが、ネットマナーならぬ、対戦ゲームのチームマナーというヤツだ。


 2vs2というチーム対戦構造上、一人でも早く倒した方が『紛れ』が起きにくい戦況を維持できるので、直ぐに倒せるのプレイヤーから叩くのがセオリーとなる。階級やランキングがおよその強さ指針となるため、今回で言えばランキング一位のセレスよりも、ノービス最底辺ランクのリーゼが狙われる可能性が極めて高い。

 そこで基本的にリーゼが敢えてターゲットを担い、セレスが攻撃役となって敵を仕留めてもらったり、フォローしてもらうのが基本戦術となってくる。


 即ち、チームマナーは自身の立ち回りを明示している意味にも直結する。


 セレスがこれ等の意図を直ぐに理解するのであれば、チーム戦のセオリーに熟知した者――牽いては前作プレイヤーの可能性が高いだろうとリーゼは踏んだのだっ……が。



「……あれ、聞こえてない?」


 椅子の向こうに鎮座する筈のトップランカーより返事は無い。

 振り返ってくれる事も無くノーリアクション。背後から挨拶したから聞こえてないのだろうか?


 ならば……とリーゼは椅子の正面へグルリと回って再度声を掛けてみる事にした

 そして数歩進み、椅子の脇をすり抜けて行く刹那――風切りソニックエフェクト音の唸りが聞こえた。

 と同時に、リーゼの下方よりが高速で向かってきている。

 視界の端で鈍色に光る物が迫り来るのが見えた……が、リーゼは避ける事も無く、動くのも止めて完全にその場で停止。


 ――察知してから僅か十フレーム0.16秒程度。ボクサーのパンチ程もある殺人的な速度で襲い来るソレは、リーゼの鼻先を掠める直前でと止まった。

 遅れて風圧がリーゼの顔を撫ぜると髪を揺らめかし、眼前には細い円形の鉄が瞳に映り込む。

 その円鉄は武器だった。『チャクラム』と呼ばれるインドの投擲向け武器で、投げるだけでなく手に持って切る刃物としての役割も熟す珍しい武器。そんなレアなモノがリーゼの目の前で静止している。


 もしリーゼがもう一歩でも踏み込んでいたら、確実に直撃コースであっただろう……が、リーゼの視線はチャクラムではなく、それを握る向こう側の人物に目を奪われている。今回のパートナーであり、ゲーム内ランキング1位プレイヤーのセレスに、だ。


 コチラを伺う顔はかなりの美少女。

 少し低めの身長に備わるツインテールの髪型が非常に良く似合ったヨーロッパ系の顔立ち――それをのある相貌だと感じたリーゼ。

 ……だが、不思議なことにリーゼの完全『記憶能力』を以てしても、ハッキリと思い出せない事にを覚えてしまう。



「……」


「――と、失礼!」



 攻撃を止めた瞬間、セレス側もリーゼの存在を認識したらしい。

 少し驚いた表情をしつつも、突如開かれたセレスの口。何処となく気怠げだが、不思議と惹き付けられる声も美少女キャラクターと相まって魅力的だ。


「本当に申し訳ないです。急に視界が暗くなったので、つい攻撃してしまいました」

「なるほど! あるあるあ……いや、んなこたぁぇヨネ?」

「いえ、ボクはいつも……いや、とにかく申し訳ないです。」

「んまぁ、いいっていいってー。当たらなかったしセーフっしょ? それより……だった事の方が気になるって」


 若干お笑い芸人の様に突っ込んでしまうリーゼ。可愛らしい少女の風貌から放たれる『ボク』の威力が存外デカくて、物理的な不意打ちをされたことは気にならない。

 仮に命中したとしても、このブリーフィングルーム内であればダメージと痛覚はOFFにされている仕様だ。事前に公式HPでチェック済みの情報だったので、リーゼは慌てる必要も倒される心配もしていなかった。



「ま、それはさておき―……俺はリーゼ。ノービスのデビュー戦だけどよろしく!」

「ボクはセレスといいます」


 非常にシンプルな自己紹介だ。リーゼとしてはもう少しばかり情報が欲しいところだが、さほど時間も残されていない。


 現在は既に対戦者四名が確定しており、転送までのカウントダウンが既に始まっている。ブリーフィングルームへ全員が揃ったら、三分後には戦闘フィールドへ転送されてしまうので、残時間は一分二十秒程。


「ヤッバい! 武器どーするか……選んでないや」

「ボクが前に立ちましょうか? それなら武器も悩みませんよね?」

「え……いや、だと直接戦闘は避けられて、結局コッチにタゲ(ターゲット)集まるんじゃ……?」

「……あ、ホントだ」


 自分のランクを見て驚くセレス。落ち着いた声で感嘆の振れ幅が少なく解り辛いが、表情から察するに本当に吃驚している様子だ。……まるで自分のランキングが1位であることを、かのように、しげしげと『Rank.1』の表示を見ていた。

 リーゼはココでも、セレスに対する違和感が生まれてしまうが、現時点で転送までの残時間は一分を切る。このままでは『素手』のままで戦場へ赴く事になってしまうだろう。尻を叩かれる気分で武器選択の即決を迫られていた。


「うーん、新しい武器を試すのは今度だな……じゃ、前作と同じでいいかー」


 云うや、ブリーフィングルームの壁面に掛かる武器を手に取りユーザー簡易登録。二つの武器は何れも『ハンドガン』で、前作でも使用していた二挺拳銃スタイルだ。

 武器の利用登録後、選択オプションで両脚部へサイホルスターを取り付けて仕舞う。抜き撃ちにも優れた樹脂製仕様のモノだ。


「へぇー……慣れてますね。前作をやってたんですか」

「まぁねー、流石にあんだけ流行ってるゲームだし。このβでも結構前作の経験者は多いっしょ?」


 自分の前作プレイ状況は特に話さないリーゼ。前作では世界ランキングにも上位に食い込んでいたが、それは相手の解釈次第で『自慢している』とも取られ兼ねないので、前作は軽く遊んだ体のみで続けた。


「そうなんですか?」

「ありゃ? セレスちゃんも前作プレイヤーじゃないん?」

「いえ、ボクはやってませんね」

「うそーん!?」


 しれっと未経験者だと言い放つセレス。当の本人は何やらコンソールパネルを開き、忙しく画面をタップして操作をしつつも会話は続く。


「本当です。ゲームそのものを殆どしたことないですし」

「マジっすか……」

「なかなかゲームをする時間が取れなくて」


 それで1位なんて成れるものなのか? 確かに現実にも近しいフルダイブ型VR環境なので、実際のフィジカル性能である程度は補える……が、ベースとなっているのはあくまでゲームだ。セオリー等を多少なりとも熟知していないと、上位ランキングに食い込むのも現実的じゃない。



 ――と、訝しみも終了。ココで戦闘準備三分のリミットを迎えてしまった。

 リーゼとセレスの周囲に光の粒子が集い始め、二人とも戦闘フィールド転送が開始された。

 いつの間にやらセレスのコンソール操作も終わっていたようだ。


「ま、改めてヨロシクー!」

「ええ、よろしくお願いしますよ」




 ≫≫ 戦闘フィールド_市街地 ≪≪



 転送とともに今回の戦闘フィールド情報が取得・表示された。

 居住区エリア、フィールド内時刻は二十三時、天気は晴れ。


 まるで実際に存在する何処かの街を一部だけ切り取り、そのままこの場所へと運んできたようなフィールドだ。

 人々が住まうビル群の中、背の高いタワーマンションが二棟。全体マップの中央付近にはショッピングモールなどを配した繁華街も存在するが、人の気配だけが一切合切何処にも無い。その違和感には独特の寒気すら感じる。

 見慣れた日常が、人類が一切存在しない非日常の世界へと変貌したのなら、こんな感じなのかも知れない。


「フルダイブって、こーいうのマジでっわいんだね……」


 リーゼが転送されてきた地点は居住区の端。

 人気の無さに気後れしていると、セレスより《チーム回線用の通信》が入ってくる。


《リーゼさん。今そちらに向かってます》

《お、合流だね? OK、こっちも向かうから、遮蔽多くて狙撃されにくい繁華街で落ち合おうよ》

《了解です》


 セレスの声を聞いて、少しだけ恐怖心が軽減されたリーゼ。

 次第に夜目にも慣れてくると、合流ポイントへ向かうべく、繁華街の入り口へと駆け出していった。

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