【Phase.1-3】初めてのバトル、相方は最強プレイヤー?

★バトルロイヤル(略称:バトロイ)とは?


《MateRe@LIZE Nexus》は、2vs2のチーム対戦型ゲーム。シリーズ前作同様にバトルロイヤル(生存者勝利)形式で勝利チームを決定する。

前作ではオリンピック種目にも上がり、プロゲーマーも多数参入する賞金額の高いビッグタイトルだ。今作βテストにも先々の期待と欲望を渦巻かせて世界が注目している。


勝つためには相方と密な連携が必須だが、ボッチプレイヤーには自動で相方を割り振ってくれるので、気軽にソロでも遊べるようにも設計されている。もし強い相方と組めれば、勝率はグーンとアップすることが期待できる。



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 ≫≫ 11時26分_ファンタズマ郭外 都市部 西エリア ≪≪



「うっぷ……。フルダイブって酔うのか……」


 足がたたらを踏む。よろけて数歩進み、足を入れ替えまたよろけ歩く。ここがVR世界でなければ昼間から酔っ払ったたちの悪い人物に見えただろうか。完全に『酔い』違いではあるが。


 原因はメイキング場所からファンタズマへの移動演出。

 街の何処ぞからヒョッコリと出てくるかと思いきや、上空から流星の様にアバターごと降り注ぐというサーバー接続演出だったのだ。

 しかも殆どリアルと変わらないフルダイブ型VR環境下では、最早紐無しバンジーに等しい。絶叫マシン好きなら兎も角、大半のプレイヤーはこんなの求めていない気がする。

 少なくとも超インドア派リーゼは圧倒的に後者。


 当然システム側が無事に着地をさせれくれるが、安全の代償としてリーゼのキャラ尊厳が失われた。

 先程まで一人称を「俺」と呼ぶキャラに成りきっていたのに、落下開始から僅か五秒程度で「キャー!」と叫び、キャラ崩壊台詞まで吐かされてしまった。あまつさえ今はガチ目に「吐きそう……」とまで言い出している。VRの吐瀉はどうなるのかなんて想像したくもない。


 ……こんな経緯で現在に至る、というワケだ。


「前作やらちょっと前に流行ったメタバースじゃ有り得ないレベルの衝撃だよ……はぁ……」


 未だにフラつく心許ない足取りを紛らわせるように、リーゼはVR内の各種操作用『コンソールパネル』を開く。眼前には半透明のディスプレイが空中に展開され、ナビゲーション機能がファンタズマ全域のマップを表示した。



 ――魔都ファンタズマには、大きく二つのエリアが存在する。



 一つは現在地点でもある『都市部』。


 ゲーム内通貨を使用して武器やアバター小物などを購入できるNPC商店や、公園等の公共設備等が存在する。また、先程のリーゼのように各プレイヤーが流星として落下してくるエリアでもある。


 実は商店に行かずともコンソールパネルを使えばアイテム購入は可能だが、商店に行けば現品の試着も出来るので、ウィンドウショッピングの雰囲気を味わうのには良いかも知れない。

 他にもプレイヤー同士が仲間を集って結成する『組織クラン』というシステムがあり、組織専用ハウスが都市部に建てられる……が、β版では未実装のため、乞うご期待というヤツだ。



 二つ目のエリアは『中央管理棟』。


 リーゼがメイキングの際に少し見えた天を衝く背の高い塔、というのがココ。名称のとおりファンタズマの中央に位置しているシンボルモニュメントだ。

 塔の体を成してはいるが、実際にはこの世界を形成する母体マザーが内部に格納され、ゲーム内情報の集約・処理を一手に担っている。


 プレイヤー同士にとってはメインコンテンツの『対戦』をするためのエリアで、塔の根本にはNPCがカウンターを設けて待機しており、対戦モード『バトルロイヤル』への受付処理をしてくれる。

 詰まりは必然と、殆どのプレイヤーが塔周辺に集う事となるのだ。



「今が都市部の――西か。まー、マップ真ん中の方へ向かえば良いのよねー」


 キャラ崩壊が完全に抜けておらず、若干オネエっぽい口調になるリーゼの男アバター。

 と口調を自認してから周囲を見ると、同じく流星のように降り立つプレイヤー達が居り『アイツ、オネエキャラか?』という目で見られている気がした。

 リーゼは慌てて生まれたての小鹿みたいな足取りで立ち去る。まだVR酔いが抜けてないらしい。

 ……実際には被害妄想であったことは言わずもがな。誰も自分に必死で、リーゼ含め他のプレイヤーなんて見ちゃあいなかった。




 ≫≫ 11時41分_ファンタズマ中心部 中央管理棟 ≪≪



 小鹿リーゼはなんとか管理棟前に到着した。足取りも回復した様子。


 道すがら、βテスター達がバトルロイヤルで戦うライブモニタ映像が、街のアチコチに流れていた。

 映像では皆がまだまだ辿々しい動きが多い中、明らかに手練れのようなプレイヤーも数人程散見。戦闘は前作とかなり似通っていたので、若しかしたら前作のプレイヤー達が技術流用で暴れているのかもしれない。


 モニタ越しの戦闘シーンだけでも俄かに興奮の炎を灯されたリーゼは、勇む足でバトルロイヤルの受付カウンターへ向かう……が、これ以上は簡単に進ませてくれないらしい。

 何故って? 理由は受付NPCの居る塔の根本部分。


 ――端から端まで人、ヒト、ひとっ!


 数えるのもアホらしくなるくらいの人数が押し掛けていた。

 兎にも角にも視界いっぱいにワラワラと群がり、対戦受付をしてくれるNPCなんて見えやしない。

 リーゼはカウンターに大挙してたかるプレイヤー達が、光を求める夜の虫にも見えてしまったので、と僅かな寒気を覚える。

 この夜光虫どもの大渋滞の原因は、最前線に居るプレイヤー同士が「俺が受付先な?」、「いや、俺だって!」と、受付順を横取りし合う、あさましいまでのパイの取り合いになっている事だ。

 お蔭様で二列目以降の群衆は更に苛立ち、彼方此方あちらこちらから罵声を上げる。


「お前、邪魔だよ!」

「早くしろよ、前行けよっ!」

「行けるかよ! 見ればわかるだろ!?」

「痛って……何すんだよ!!」

「押さないでよ、変態!」

なじりのご褒美! アザース!」

「お前等は仕事にでも行ってろ!」

「仕事なんて昨日辞めた! このゲームは遊びじゃねぇんだ!」

「クソが! 今日に合わせて有給取ったんだ……譲るかよっ!」


 手前勝手な台詞を撒き散らし、騒音以外の何物でもない声々。その五月蠅うるささたるや、人がゴミのようにも思えてしまう程。とは良く言ったものだ。

 ……何かガチ変態が現れた気もしたが、聞かなかったことにしよう。


 フルダイブ型VR世界は人と人が触れ合える第二現実とも言われるが、ゲーム的に言うとプレイヤー同士にがあるという事なので、リアルよろしく順番待ちが必要というデメリットが生まれる。

 だが、ゲーム内だと急に外弁慶になるプレイヤーが多いようで、日本人特有の『譲り合い』や『袖振り合うも他生の縁』ともいかないようだ。一触即発の口汚い言葉が周囲を満たし、殺伐とした雰囲気がこの場を支配している。



 ――そんなとき、受付カウンター付近の一角でプレイヤー同士のトラブルが発生した。


「お前、押したよな!?」

「はあぁー? アナタが押したからでしょ!?」

「あー? やんのかオラァ!?」

「ぷぷー! ロリキャラでオラついてても怖くないって。しかもブッサいし!」


 発端のプレイヤー二人。どちらも幼女のようなロリキャラだ。

 互いに大声でなじり合いだすと、傍観するプレイヤー達は無責任にも――


「やれー!」

「ピンク髪の子可愛い!」

「コッチのキャラメ、失敗だよな?」

「ぶっ飛ばせー!」


 ――などの色々と酷い言葉が投げかけられている。特にキャラメイクについては触れないであげて欲しい。本人はガチで傷付く。

 これら周囲の言葉にもあおられ、当事者たちの泥仕合は遂に始まった。


「このブスっ!」

「コイツ! 許さねぇっ!」


 β初日で傍観者達も興奮と苛立ちが混ざり変なテンションになっているせいか、周囲の約七割ほどがロリキャラ達のキャットファイトに視線を注ぎ、エキサイトしている。集団ヒステリーや、興奮性素子の振動子集団状況に似ているかも知れない。


 ……そのお蔭 (?)で、一瞬だけ受付NPCの空きが幾つか生まれた。


「おや? ――これ、チャンスじゃん?」


 当然この機会を逃す手は無く、リーゼは言うや否やと人混みをすり抜けて受付カウンターへと急ぎ、無事到着することに成功した。



「――次の方。リーゼ様、どうぞ」

「は、はいぃーっ!?」


 カウンター前に到着した直後、突然の名指しでリーゼは一瞬となり、上擦った返事をしつつも声の主を見やる。


 リーゼの瞳に映ったのは『カストル』という名の美しい女性NPCキャラクター。青いスーツを身に纏う彼女はアンドロイドだ。ショートボブの髪型から覗く目の虹彩にカメラが埋め込まれており、名乗っていない筈のリーゼの名も母体マザーシステムと連動したカメラを通して登録確認したに過ぎない。

 隣のNPCも似た容姿をしており、現在リーゼ同様に割り込んだ別のプレイヤーを受付している。


「えと、バトロイ(バトルロイヤル)対戦のマッチング申請をしたいんだけど、いいかな?」

かしこまりました。お連れ様はいらっしゃいますか?」

「んにゃ、一人だね」

「ではもう御一方、こちらでランダムペアを組まさせていただきます。少しお待ちを」

「了か――」

「――確認完了。リーゼ様含めまして四名揃っておりますので、すぐに始められます。場所は市街地フィールドですが、いかがでしょうか?」

「マッチはっや!」


 確認作業完了まで一秒と掛からなかったので、「了解」という返事に思いっきり食い気味で言葉を被せられたリーゼ。この辺りはシステマチックなNPCらしい点だ。

 だがレスポンスは極めて優秀。「それで頼むよ」と快諾の旨をカストルに告げた刹那――。

 リーゼの周囲に光の粒子エフェクトが発生。仄かに煌めきながら全身を覆い始める。


「おぉー、今作はこーいう転送演出なんだ!」

「ご武運をお祈りしてます」


 光は直ぐにリーゼを完全に包み込むと、次第にハラリハラリと粒子を撒き散らし、足元から消えてゆく。

 NPCの定型台詞だったであろうが、それでもカストルへ「アンガトね、行ってくる!」と礼を告げて手を振ると、リーゼはココで完全に消失――転送完了までの時間は僅か五秒。

 粒子が生まれた場所には既に何もない。


 カストルはリーゼが転送された空間を確認すると、直ぐにNPCとしての業務を再開する。


「――次の方。ムジョルニア様、どうぞ――」




 ≫≫ 11時55分_戦闘フィールド待機用 ブリーフィングルーム ≪≪



 リーゼの視界から粒子エフェクトが霧散してゆくと、そこは見慣れぬ部屋。

 だが、戦闘フィールドに出る前に今回使用する武器を選んだり、パートナーと作戦を決めたりする『ブリーフィングルーム作戦準備室』なる場所へ送られる……と公式HPでも公開されていたので、ココがその当該場所なのだろうと部屋を見渡す。


 部屋に入った瞬間、頭上にはプレイヤーネームと現在のゲーム内ランキングが表示された。

 前作も戦闘フィールド内は同仕様だったので、その延長でブリーフィング内もそうなのだろう。リーゼとしては特段に驚くポイントでは無かった。


「今は1890位……ログインプレイヤー中のって事だよねぇ」


 0戦0勝の状態ではまあこんなモノだろう。

 それよりもあと三千人近くも未だログインしていないという事の方に驚いた。折角のレアなβテスターになれたのだから、積極的にログインして欲しいものだ。……いや、カウンターもっと混むから、やっぱりバラけて来て欲しい。


 リーゼはそんな勝手な事を思うが、今日は平日。加えて月曜日というのを考えれば、かなりログイン人数は多い方だと思われる。

 だがNEET様は世俗に気を回してなんかおらず、前作には無かったブリーフィングルーム内を珍しさで彷徨うろつくのにご執心だ。



 ――すると端の方でコチラに背凭せもたれを向けた椅子が一つ。

 その向こうには女性アバターだろうか、ツインテールに纏められた金色の頭だけがと見えた。


 恐らくは今回の相方パートナー……腰を掛けてリーゼ待ちであったのだろう。

 挨拶しようと一歩踏み出したリーゼだったが、ふと目に映ったゲーム内表示に因って足を即止めてしまった。


 理由はパートナーと思しきプレイヤーの現在ランキング――


「……マジか」


 呟いたリーゼ。

 視界に映る椅子の向こう、覗く頭上には『Rank.1』という文字が黄金に輝き、キャラクターネームとともに表示されていた。


 ゲーム内ランキングの頂点、その名は『Celesセレス』という名の少女――いや、幼女であった。

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