第2話二通目
拝啓
梅雨明けもいつになるのかわからないこの頃ですがいかがお過ごしでしょうか。顧問の先生よりお返事がきたとの連絡を受けました。まずは手紙を読んでくれてありがとうございます。返事もありがとうございます。
このカウンセリング部ですと基本的にはやはりスマートフォンのアプリケーションによるコミュニケーションをとるのが普通だということですが、今も僕は使いこなせていません。今書いている横でスマートフォンがメェーメェーと音を立てていましてそのアプリケーションをタップすると、あなたからのメッセージが次々と流れてきます。あなたのメッセージを僕がみると既読として相手もわかるということで、このアプリケーションの返事を催促されているのですが、僕はこうしてパソコンに文字を打っています。
相談を受けているのは僕なのに、僕の話をするのは恐縮なのですが、僕は人との会話も得意ではなく、こうしてじっくりと考えて手紙を書く方が合っています。こういうメッセージのやりとりもおしゃべりほどではないにしても脊髄反射的に返事をすることがどうも苦手なのです。休日も僕は読書をしながらじっくりと考えることが好きで、言葉ひとつひとつを大切にしたいと思っています。どうか理解をお願いします。
前置きがまた長くなりました。今もアプリケーションからのメッセージから、あなたは隣の席になりたい人をとにかく独占したいということですね。黒魔術も意味がわからないということで、もっと実践的に詳しく隣になるようにしたいとのこと。
このメッセージでは隣の席になりたい人とどれだけ親密なのかは書かれていません。手紙では再三書いたつもりだったのですが伝わっていなかったか、または言いたくない避けたいことだったのでしょうか。
親しいかそうではないを別にして隣の席を皮切りにその人を独占したいということですね。このメッセージでも特にそれを強調しています。
僕はふたつのことについてとても羨ましいと思いました。まずはあなたについて。
僕はまだ恋愛の気持ちがわからないのですが、好きな人のそばにいたいという気持ちが僕にはありません。中学生の頃から僕は人から話し方が気持ち悪いとか、鼻を指ですするようなクセが気になるとか、よく言われます。なので好きな人の前ではずっとそういうものを見られてしまうということですので、僕にはそれが耐えられません。あなたにはそういうクセはないのかもしれませんが、僕自身まだそういうクセがあるような気がして、とても好きな人のそばにずっといたいという気持ちが芽生えません。(だから好きな人ができないということになるかもしれませんが)
そしてあなたの隣にいたいと思われている人について。
人から好きになってくれるということは素晴らしいですね。ずっとそばにいたいと思われている。僕のように鼻を指ですすってしまうようなクセもないのでしょうね。なにかしらのクセがあってもそれを払拭してしまうほどの魅力を備えているのでしょう。勉強ができて教えてくれたり、話が面白かったり、ずっと横顔を見ていたかったり。きっと僕にはないものをすべて持っているのでしょう。
ただそれくらい魅力のある人であったなら、他の人からでも人気があるのではないでしょうか。なにしろ今は席替えで遠くの席になってしまって、休憩時間にでも会いに行けばいいのに、それも我慢できないほど隣を羨望するのには、今隣にいる人が楽しそうにしているからではないでしょうか。その人に奪われやしないかやきもきしているかでしょうか。
嫉妬心に耐えられないからでしょうか。
まず僕としては隣の席というよりは、その人の心をしっかり掴んで、例え隣の席にいなくても信頼と安心をもって平常に保つことがまずは先決ではないでしょうか。
先の手紙では黒魔術を推薦しましたが、おわかりの通りあれも絶対ではありません。なのであまり感情だけが先行してしまうと、ストーカー行為として如実にでてしまうかもしれません。今やストーカーは立派な犯罪になります。それだけは避けてもらうようにしてください。
隣の席になりたいという気持ちが理解できない僕が言うのもなんですけど、どうか犯罪にはならないようにお願いします。そして隣の席ばかりに固執せずともいい高校生活を送れるようにしたほうが精神的にも安定するかと思います。
暑い日が続きます。どうかお体には気をつけて。では。
敬具
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