消えてしまった夏

一時間ほど揺られ駅に着く頃には23時になろうとしていた。

ここからまたあの夜道歩くのかと思うと少し憂鬱になる。

蒸し暑いせいで汗で服が張り付き不快だ。

街灯の少ないこの道をもうすぐ会えるという希望だけで少し小走りする。

この信号を渡って、あの住宅街を抜ければアパートの裏手が見える。

この先の角を曲がれば「遅いよ」と言いつつも家の前の道路まで出て待ってくれている先生がいる。

顔が見えた瞬間嬉しいのに顔に出さないように必死になる。

「おまたせ。」

「蒸し暑すぎない?シャワー浴びるでしょ?」

「うん、30分歩いたら汗だく。」


私たちは会えばやることは同じだし特別何かあるわけじゃない。

ただお互い足りない物を埋めあっているそんな感じだった。

行為の後はやっぱり私は眠れなくて、先生の寝顔を見ながらキスしたり

小声で文句言ったり。

側に居られるならなんでも良かった。

そう思っていたのに。


その翌週、先生が研修で都内に出て来ていると連絡があり

珍しく自宅にいた私はすぐに支度をして会いに行った。

いつも先生の家だったからラブホテルに入るのは少し緊張して、

いつもはベランダで吸っていた煙草も目の前でなんかちょっとそれが嬉しくて

私が先生の眼鏡に手をかけて外した時優しい顔して笑ったの。

でも事後言われたのは

「もう会うのやめにしよう。」


受け入れるしかなかった。

ああもうこれでおしまいか。とその場では冷静になれた。

いつかくるとは思っていたから。

まさかこんなに早いとは思わなかったけれど。

帰り道の事なんて覚えていなくていつのまにかマンションの屋上でタバコを吸いながら泣いていた。

言いたい事沢山あったのに何も言えなかったな。

呆気なかった、ちゃんと笑えてたかな。



「朝、あなたが隣で目覚めるのが嬉しくて、おはようのキスが幸せだったの。」

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