消えてしまった夏


その日、先生から連絡が来たのは何杯目か忘れたビールに少しほろ酔いで

かき氷で酔いを醒まそうかなんて話している時だった。


お尻のポケットに入れていたスマホが震えているのに気づいたのは二回目の着信だった。

「あ、ごめん。電話だ。」

「良いよ、俺買っておくからさっきの所に居て。」

そう言ってくれる一臣に甘え屋台の列から出て少し離れたベンチに移動しながら応答をタップする。

「もしもし」

「もしもし、春くんが電話なんて珍しいね。」

「外?なんか騒がしい。」

「今友達とお祭り来てて、それよりなに?」

「明日休みって言ってたからこれから来ないかなと思って。」

「あー。」

即答できなかったのはお酒で頭が回らなかったからじゃなく、丁度一臣が帰ってくるのが見えたからだ。

「行けても遅くなるよ?それでも良いなら。」

「良いよ、着く時間分かったらまた連絡して。」

それだけ言われ電話を切られた。


かき氷とビールを持った一臣が近寄ってきて

「電話もう大丈夫なの?」と

迷わずビールを差し出してきた一臣に笑いながらお礼を言い、返答の前に一口飲む。

「ああ、うん。なんかこの後飲まない?みたいな誘いの電話だから。」

「ふーん。俺も実はさっき連絡きてさ!」

そう言って嬉しそうにスマホの画面を見せてくる。

そこには一臣の愛しの姫から今何してるの?家で飲み会してるんだけど来ない?

この文面からするとこのお祭りにはそもそも誘えていなかったんだな。

チキンめ。

「これ飲んだら解散しよっか、私も行ってくるし。」

「良いの?なんか悪いね。」

「あんまり思ってないでしょ。ご馳走様でした。」

「いえいえ、付き合ってくれてありがと、、ね」

急いで食べたかき氷に頭をやられ眉間にシワが寄っていた。


別れた後もこう良い関係を築けているのは二人にとっては良い。

でももし一臣がその子とうまく行ったら出かけたりも無くなるんだろうな。

そう思いながらもやっぱり誘えばよかったのにっとからかいつつ、

駅に向かい歩きながら飲み始めたばかりのビールを一気に流し込んだ。



駅で一臣と別れてから電車の時間を調べ到着時間を送ると、すぐに了解とだけきた。

今日もきっと駅まで迎えになんて来てくれないんだろうな。

でもお酒を抜くのに30分のお散歩は丁度良いかもしれない。

お酒も煙草もバレているかもしれないがあまり気付かれたくない。

先生は知っているんだろうか。

私が先生の真似をして同じ銘柄の煙草を吸っていること。

元々煙草は匂いも嫌いだったのに、


「我ながら単純。」


22時を過ぎた電車内には人はほとんど居らずこの車両には私一人

少し心細くなる。

電車で向かう最中はいつもドキドキしていた。

嬉しい反面いつ終わりを告げられるか分からない関係性。


このボックス席にはあと何回座れるのかな。







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