消えてしまった夏


制服を脱いではじめての夏は酷く暑くて、ベタベタとドロドロが混ざり合った汗が身体を唾たい少し大人びたブラウスを汚していった。

大人になったふりだけは一丁前だったあの頃は、平気でお酒も飲んでいたしあの人の真似をして煙草も吸っていた。

少しでも距離を縮めたくて、私は子供じゃないんだって思って欲しくて。


「透香〜今日バイト終わり暇?」

休憩中に開いたメールの宛名は一臣で、少し離れた海街のお祭りに行こうとの誘い。

その日はこの後用もなく、明日も休みの予定だったので

「良いよ、行こうか!駅で待ち合わせでいい?」

先生との関係にも嫌気がさしていた時期、夏のせいにすれば良いと歌った尾崎世界観に感謝をしつつ元彼と出かけることとなった。

別れてからバイト帰りにたまにご飯に行ったり飲みに行ったりはしていたが、世間一般で言われるデートという物は初めてかもしれない。

そもそもデートが何なのかはいまだに理解できていないが。


地元からは少し離れた海沿いの駅で待ち合わせをした。

この駅は一臣が通っていた高校の最寄駅で毎年お祭りと海側で花火が行われる。

学生が多いがそこまで人混みは酷くない為、私も向かいやすかった。

別れてからの一臣との会話は、向こうの身の上話ばかりでそれでも他人の恋愛相談は聞いていて悪い気はしなかった。



駅に着くと既に一臣が改札前のガードレールに寄りかかる姿が見えた。

「お待たせ、」

少し離れたところからそう声をかけると、顔を上げ手を降ってきた。

「急に誘って大丈夫だった?」

「うん、この後用なかったし。むしろ私誘って良かったの?」

気になってた良い感じの子は誘わなかったの?という意味だ。

「まあ気楽に楽しみたいなと!」

笑って誤魔化したようだが断られたか、そもそも誘う勇気もなかったかの二択だろう。

一臣は行動力はあるがいざという時の勢いが足りない。

そのせいで苦労していると自分でも言っていた。

「誘って浴衣姿拝ませて貰えば良かったのに〜」

「うるさい、奢るって言ったら即答だったくせに。」

「だって今金欠だし。」

先生に会いに行く交通費のせいでね。

鈍行で行ってるとはいえしがない大学生には辛い出費

会いに行くのはいつも私で、仕事があるからこちらに来るなんてできないのは分かっているけど、付き合っているわけでもないし。

それでももう会わないといつか言われるのが怖くて、連絡が来れば会いに行ってしまう

絶賛都合のいいオンナ中。

「透香?怖い顔してるよ。」

そう眉間を指さされ自分の跡が付いたシワを伸ばす。

普段はあまり顔に出ないタイプなはずが、先生の事となるとそうはいかないらしい。


「さ、何奢ってくれるのかな?混んで来る前に何か買おう!」

私たちは駅から人の流れに乗り賑わう商店街へと歩き始めた。











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