消えてしまった夏
「今日は有難う!産まれる前に鎌倉遊びに行くね。」
「うん、是非。自由が丘も遊び行かせてね。気をつけて帰って!」
案の定酔っ払った。
顔に出さないよう必死だったが、楓と和樹を見送った後急に来た。
なんでこんな時に二人になっちゃうかな。
「だから言ったじゃん、無理し過ぎ。」
「だって、お祝いだったから。」
「なんで二人の前で気使うのかな。仲良いんだからそんな必要ないじゃん。」
先生に手渡されたペットボトルの水を一気に流し込むと
「仲良いからこそ自分がしっかりしなきゃって思っちゃう。」
「透香の良いとこであり悪いとこだな。」
「お水有難う。」
「今日泊まる?」
「まだ電車あるから帰る。」
「じゃあ俺が家まで送る。」
「え??鎌倉だよ?正気?」
「明日休みでしょ?俺も休みだし。心配だし逆に俺泊まっていい?」
何言ってるのこの人。
「良いけど、本当に来るの?」
「うん。」
この人の行動を見ていると私のことどう思っているんだろう?好きなの?
なんて恋愛経験が浅かった頃の様な疑問が生まれてくる。
そんな可愛い関係じゃない癖に。
「ほら、帰るよ。」
でもそう言って繋がれた手がやっぱり居心地がよくて、離したくなくなる。
きっといつか泣きながらまた離さないといけない日が来るのは分かってる。
「先生いつからそんなに優しくなったの?昔はこんなんじゃなかった。」
「昔俺どんなだった?」
「そうだね、私に興味がなくて少し冷たくて、」
「おいおい、そんな印しょ....」
先生の口に指を置いてその先の言葉を封じる。
「でもちゃんと話を聞いて頑張れって言ってくれる人。」
その言葉に少し目を見開いてそれから手に力がこもった気がした。
電車に乗って座ってからはお酒と疲れのせいでいつのまにか眠ってしまった。
「泣く泣く手放したのにまた捕まえちゃったな。ごめんな。」
自分の肩にもたれている透香の頭を撫でながら出したその声は少し掠れていて
「好きだったのが自分ばっかだと思うなよ。」
世良 透香に初めて出会ったのは俺が大学院生の時で、
第一印象は漫画のヒロインになりそうな典型的な優等生。
周りとはやっぱり違う空気を纏っているのが目に付いて大人びた生徒だと同じ非常職
教員の中で話題になっていた。
そんな中たまになる伏し目からどこか危うい雰囲気と、呼び捨てや愛称で呼ぶ幼い生徒たちとは違う態度に少し違和感を感じながら一生徒と教員としての時間が過ぎていった。
そんな関係が徐々に壊れ始めたあの頃、透香も俺も心をすり減らしてしまっていったんだと思う。
誰かに寄りかかった、安らげる場所がほしかった。
そんな時再会してしまった透香に甘えて中途半端に傷付けてしまった自分を今でも悔いている。
俺たちはもしかしたら再び会ってはいけなかったのかもしれない。
「それでも俺はずっと会いたかったよ。」
透香のずっと求めていた言葉は意識を手放した彼女に届くことはなかった。
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