消えてしまった夏


「久しぶり。」

少し驚いた顔を見せたと言うことは先生も知らされてなかったのだろう。

二人が少し申し訳なさそうな顔をしたので

「驚かせたかったのならもう少し堂々としてなさい。

今日は二人のお祝いなんだから、そんな顔しないの。」

本当に、

それから仕切り直して4人で食事をした。

楓たちの新居が自由が丘の少し良いとこなこと、和樹と先生はたまに二人で飲みに行っていること、そして先生の元奥様も教師をしていて和樹が同じ職場なこと。

「春ちゃんと飲みに行き始めて話してたら知ってビックリしたよ。まさかな。」

「世間は狭いね、どこで繋がるか分からん。」

なんで離婚したか聞いてなかったけど、話してる感じからすると険悪な雰囲気では無さそうだな。なんて頭の中には余計なことばかり浮かんでくる。


「そう言えば透香この前話した件、いつ頃から引き受けてもらえそう?」

「この前話したことって?」

「あれ、楓にもこの前話したじゃん。うちの学校の茶道部の着付けの外部講師を透香にお願いしたって。」

ああ、と話を理解した楓をよそに私は少し考え込んでしまった。

「透香?」

「ああ、ごめん。うん、10月後半からなら大丈夫だよ。隔週で良いんだよね?」

「うん、大変な時に有難う。」

「全然、だいぶ落ち着いたから。最近は日舞以外に着付け教室も自宅で始めたからそれの出張版って感じでやれるから。お仕事ありがとうございます。」


以前からもらっていた話だったので引き受ける気満々ではいた。

しかし先生の元奥様がいる学校か、と一瞬考え込んでしまった。

別になにも思い悩む必要はない所詮私たちはなんでもないのだ、今も昔も私たちの関係に名前はない。

「着物似合うな、初めて見た。」

唐突な先生の言葉にドキッとしたのを隠すようにお酒を喉に流し込む。

「透香本当に似合うよね、良い女が増す。」

「そんな持ち上げてもお酒しか飲めないよ〜」

と笑いながら流す。

先生の一言一言に未だに反応してしまう自分が嫌になる。

お世辞に過ぎないのに、もしかしたら愛してもらえるかもしれない

この人の目線を自分に向けられるかもしれかもしれない。

本当はこの人に愛されたい。

ダメだ、泣きそう。

涙を零さまいとグラスに入っていたハイボールを煽った。

するといつのまにかお冷やを頼んでいてくれた先生がそれを私の前に置いた。

「今日ピッチ早過ぎ、また酔っ払うよ。」

またとはこの前のことを言っているんだろうか、

「大丈夫ですよ、透香強いし。私達酔っ払ったとこ見たことないもんね。」

楓の言葉に和樹も頷く。

「それはお前らが先酔っ払うからだろ、」

「ああ、そっか。」

笑い合う二人が微笑ましかった。

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