秋の匂いがより一層切なくさせる


「なんか、あの頃には考えられないよね。」

独り言のつもりだったが少し声が大きかったようで

「あの頃?」

バッチリ耳に入っていてしまった。

「いや、制服着てた頃?」

本当は18歳の頃。先生のことが好きで好きで仕方がなかった頃。

「ああ、もしやってたら犯罪だろ俺。」

そう笑いながら言うけど、18歳の頃もギリ犯罪だったんじゃないか?などと思って私まで笑ってしまった。


「おいで」

その一言に弱い私。

最近は素直に近寄ってしまう。

「昨日から素直だし敬語直ってる。」

私を膝の上に座らせて髪の毛を撫でながらそう言う先生は今どんな顔をしているの?

「なんかもう抵抗するの諦めた。春くんには何しても叶わないから。」

「よく分かってるじゃん。」

偉そうに言う彼は私の首筋に顔を埋め、力強く抱きしめる。

「どうしたの?」

前を向きながら彼の頭を撫でるとより一層強くなった。

「苦しいよ春くん。」

少し後ろを振り返ると優しく口づけをされ向かい合う形になる。

どうしてそんなに泣きそうな顔してるの?

「あの頃大事に出来なくてごめん。傷つけてごめん。」

この人のこんな顔初めて見る。

思わず頭から抱きしめた。

「どうして今そんな事言うの?またやめる?」

もしかしてまたサヨナラしなければいけないんだろうか。

7年前のことを嫌でも思い出してしまう。

春くんと会えなくなって、


あの時、一生分泣いた。なんて恋愛小説にありそうな台詞が出てきてしまうくらい

毎日泣いていたし、泣きたくなくて他のことに集中したくてバイトやあんなに行きたくなかった大学に通って必死に勉強した。

本当に悲しい別れはあの蒸し暑かった夏じゃない。

風が冬の匂いを運んで来そうな夕方の暗さが不安を誘っていた秋のことだ。

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