雨と一緒に流れたものは


でもそんな事よりも初めて繋いだ手が暖かくて少し泣きそうになる。

人と手を繋いだのなんていつぶりだろう、こんなに心地良いものだったっけ。

「帰ってまだ飲む気?」

「ダメですか?まだ飲み足らないですよ。たまには付き合ってください。」

「俺が弱いの知ってるでしょ。」

先生はお酒がそんなに強くない。

だから食事に行っても私ばかり飲んでいて、なのに私がお酒に強いからなのか

全然酔えなくてこんな状態で会うのは初めてだ。


先生の家には割とすぐ着いて、もう手を離さなきゃいけないのかと思うと少し残念だった。

「着きましたよ、お姫様。」

「くるしゅうない」

普段とは違う返しに少し驚くも

「今日は素直だな。」

「先生はいつもやさしいよね。」

そう、あの頃も優しかったけどどこか突き放すような感覚があった。

こんなに変わるものなのか、

「ねえ」

冷蔵庫に買ってきた飲み物を仕舞ってくれている先生に声をかけこちらを向かせる

目が合う前に唇に触れるとまた少し驚いた表情をしたがすんなり受け入れられた。

「どうしたの?なんかあった?」

あんまり優しくされると泣きたくなる。酔ってるからなのか涙腺が緩む。

「なんでもないよ。したくなっただけ。」

そう言って初めて自分から誘ってベッドに押し倒した。

目尻に溜まった涙を見ないふりして羽織っていたジャケットを脱いだ。

先生の着ているパーカーに手を入る身体を触るとビクッと反応する、それに欲情し

再び口づけをした。

先生は優しく受け入れてくれてそれに更に泣きそうになる。

絶対に好きなんて言わない。言って離れられるくらいなら言わないで一緒に居たい。

「透香、こっち見て。」

そう言われキスするのをやめ先生を見る。

「お酒飲むんじゃなかったの?」

「お酒より春くんが良い。」

「やっぱり今日は素直だね。」

「酔ってるからだよ。」

そういう事にしておいてよ。と付け足すと

またキスをし甘く深い海に溺れて行った。




いつのまにか寝てしまっていたようで、外からは雨の音がした。

ベランダから煙草の匂いがする

近付いてきた私に気が付くと

「起きた?」

と少し掠れた声した。

「うん、ずっと起きてたの?」

「さっきだよ、顔洗っておいで。」

その言葉でメイクをしたままだという事に気付き

急いで洗面所で手持ちのクレンジングでメイクを落とす。

昨日はコンタクトの調子が悪くたまたま眼鏡も持っていたので

少し悩んだ末、眼鏡姿になりベランダに戻った。

私の顔を見るなり

「なんかその状態久しぶりに見た。懐かしいな。」

「眼鏡は変わりましたよ。」

少し笑いながら言うと頭を撫でられた。

「可愛い可愛い。」


ああ、この人の何気ない一言でこんなに一喜一憂できるのか。

何か言い返したい気もしたが、今日はこのまま素直なままでいようか。

「おいで、もう一眠りしよう。」

差し出された手を取り再びベッドに入った。



絶対に泊まらないと決めていたくせにあっさりその誓いを破ったその日は

少しだけ若さを感じる先生とまだまだ子供で制服を着た私が夢に出てきた。

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