雨と一緒に流れたものは
六月に入り、夏に行われる日舞の発表会の手伝いで何かと忙しく
楓と和樹に会えたのは梅雨真っ只中の六月下旬だった。
「なにも梅雨明けの暑い時期に発表会なんてやらなくても良いじゃんね。」
洋服でも蒸して暑いのにと続けながら冷たいビールを流し込むと身体が喜んだ。
「そんな事は置いておいてさ、春ちゃんとそんな事が。」
「本当本当、全然気が付かなかった。」
これまでの経緯をごく簡単に説明を終えると二人のお酒のペースが緩んだ。
「言ってなかったんだから気が付くわけないでしょうよ。」
対照的に普段1、2杯しか飲まないビールが4杯目に入ろうとしている私を楓が少し心配そうに見てくる。
「透香はそれで良いの?」
和樹ももっと聞きたい事や言いたい事があるのだろう。楓の言葉にグラスから口を離しこちらを向いた。
「付き合うとか最近よく分からないんだよね、誰かと約束で一緒にいるってなんだか窮屈で
今までも好きだったはずで付き合ったのに結局存在が面倒になって別れるを繰り返しているし、今はこの関係がすごく落ち着いてるの。」
嘘じゃないよ、と付け足しまたビールに口を付けた。
「透香が良いなら良いんだよ。でももししんどくなったら話くらいは俺たち聞けるよ。」
「うん、有難う。それはそうとそろそろ報告してくれても良いんじゃない?ずっと待ってるんだけど。」
楓と和樹が顔を見合わせる。
「二人付き合ってるんでしょ?」
「なんで!!いつ気がついたの?」
雰囲気が全然違うんだもんな、何となく分かるでしょ。
「末永く仲良くね。」
これは本心だ。大好きな二人、ありふれた言葉だが幸せになってほしい。
「有難うね、でも気なんて使わないでね。透香はすぐ遠慮して誘って来なくなるから。」
「そうそう、こうやって変わらず飲もうな。」
飲み慣れていない物を飲み過ぎたせいか、あの後ワインに切り替えてチャンポンしてしまっったからなのか今夜は少し酔ったみたいだ。
二人と別れ、少し風に当たりたくなったので電車には乗らず歩いて帰ることに。
夜は少しまだ肌寒い、でもこの風が酔いを冷ましてくれそうだ。
手に握ったスマホが震えた。
確認すると先生からで
<飲み終わった? >
既読を付けるとすぐに電話がかかってきた。
「もしもし」
「もう帰り?明日休みなら今から来ない?」
「今歩いてるんですよ、ちょっと時間かかりますよ。」
「こんな時間にどこ歩いてんの。」
先生の声が少し低くなった気がした。
「なんで怒ってるんですか?」
「夜遅くに女一人じゃ危ないでしょ。今どこ?」
少し酔った頭ではここがどこだか即答は出来なくて、近くのコンビニに入り
その店名を伝えた。
「すぐ行くからコンビニの中で待ってて。」
何怒ってるんだろと不思議に思いつつ先生の家で飲みなおすためのお酒を選びながら待つ事にした。
先生は本当に5分もかからない位すぐ来て、私が会計を終え持っていた袋を受け取ってくれた。
「なにやってんの、本当。」
「少し風に当たりたかったんですよ。」
「珍しく酔っ払ってるでしょ、顔赤いよ。」
そう言って手を繋いできた。
「なんですかこの手、どうかしました?」
「どっか行っちゃいそうで危なっかしいから。」
どこか行っちゃうのはあなたでしょ。
本人には言えない言葉をいくつ飲み込んだだろう。
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