梅雨の思いを夏は知らない

先生と再び会うことになったのはそれからすぐの事だった。

「世良、週末暇ならこっち遊びにおいでよ。」

こんな唐突な連絡に驚きと喜びで胸を躍らせないで居られるほど、当時大人では無かった。

先生と連絡を取り合っていると言うだけで自分が特別な気がして、舞い上がっている自分が

今思うと情けない。

私はその連絡をもらってからすぐ、また再びの小旅行へ繰り出した。

先生の家に向かうまでの電車の中で大学のこと、一臣とのこと、先生の事と様々な事が頭を巡り私は目を閉じた。



前回は長く感じたこの道のりも今回はあっという間だった。

駅まで迎えに来てくれるのかと思っていたが住所が送られてきたところを見ると自分で来いと言うことか。

アプリで調べると徒歩約30分。思わず声が出そうになった。

なんてとこ住んでるの?これ一人で来いと?普通迎えとかあるよね。

私は見知らぬ土地の知らない道をただひたすら地図を頼りに歩き進めた。


住宅街や工場を進みようやく辿り着きそうな頃にはじんわり汗をかいてしまっていた。

そろそろ着きます。そう連絡をしたおかげだろうか、

この角を曲がって目的地というところでマンションよりも先に先生が見えた。

会えて嬉しい気持ちと歩きすぎて疲労感とでいっぱいな顔を隠しながら

少し小走りで先生の元へ向かった。

「長旅ご苦労さん!」

「駅から遠すぎて不便じゃないですか?ここ。」

「学校からはそんな遠くないから別に、しかも俺普段自転車だし。」

初めてくる客人を迎えにくるとかは無いんですね。

そんな文句は我慢した。

マンションの周りは家しかなくて、近くに小さい川があった。

静かな場所、普段過ごしている環境と違う事に殊の外安心感があった。

「なんも無いですけど、我が家へようこそ。」

そう言って彼の城に招き入れられた。


男の人の一人暮らしの家に行くのは初めてで、ましてそれが二人っきりと考えると

何かあってもおかしく無いとそこはきちんと頭にあった。

しかしまさか先生が自分に手を出すなんて、あり得ないと安易な考えもあった。

自分がどんなつもりで家まで行ったかなんて分からない。



ただきっとあの頃は、そうなる状況で、流れで

お互いそういう心境でこうなる運命だったんだと思いたい。


でも18歳の少女の頭と心はきちんと一致など出来なくて、

今思うとあそこまで必死に追いかけた人は彼が最初で最後だと思う。





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