これはきっと慈雨
和樹は笑いながらおかわりのドリンクを選んでいる。
「透香が昔からそうなのみんな知ってるし、楓なんて特に。」
いつのまにか楓がこちらのテーブルに帰ってきていた。
「春ちゃんも後でこっち来るって。向こうで狩られそうなの必死で逃げてる。」
楓がケラケラ面白おかしく笑っているのが悪意に満ちている気がするけど。
「そう言えば透香ってさ、大学入りたての頃に春ちゃんと会ったことなかったっけ?」
「え、そうなの?」
「一回ご飯行くとか話聞いたことあった気がするけど。」
こんな時ばかり楓の記憶力が発揮される、普段悪いくせに。
「そんなこともあったかな?」
笑って誤魔化し私もおかわりを頼むべく店員さんに声をかけた。
楓や和樹、もはや誰も知らないと思うが先生に会ったのは一度じゃない。
「あ、春ちゃん!やっときた!!」
楓の声に後ろを向くと女豹達から逃げきれたと思われる三国先生がこちらに向かってきていた。
「逃げきれました?」
和樹も先生をいじる。
「三人共久しぶり。小林は相変わらずだな。」
久しぶりの先生の声。
「春ちゃん今どこの学校にいるの?」
「今はこっち戻ってきてるんだ。前の姉妹校で働いてるよ。」
「え、じゃあ今度仕事終わり飲みましょうよ!ね!透香。」
え?私!?
「うん、そうだね。」
「和樹、ちょっと向こうのつまみ取ってこよ。先生たち待ってて。」
そう言って楓が和樹を連れて行ってしまった為、二人きりになってしまった。
「お元気そうで何よりです。」
「ああ、世良も。元気だった?」
「ぼちぼちですね。」
久しぶりの会話、顔も全然老けてない。
「なんかみんなあんまり変わってないな。相変わらずうるさい。」
そうは言いつつも嬉しそうだ。
「そうですね、変わってませんね。」
「世良は変わったな。」
「そうですか?まあ会うの七年ぶりですしね。」
「綺麗になったよ」
急なストレートな褒め言葉に戸惑う。
「先生はお世辞が上手になりましたね。」
皮肉たっぷりに言ってやってもこの人には効かない。
「本当だよ、惜しいことしたな。」
この言葉に七年前のことが走馬灯のように駆け巡り、悲しみと切なさで泣きそうになってしまった。
いつもだったらこんなに感情的にはならないだろう。
こんな言葉上手くかわして笑って流してこの場を悪くしないようにときちんと考える。
でも、この人にそんなこと言われたくなかった。
「私、帰りますね。」
自分の鞄を持つと二人のところへ行き
「ごめん。私ちょっと具合悪くなっちゃった。お先に失礼するね。お金立替ておいてもらっても良いかな?」
「大丈夫?駅まで送ってこうか?」
「有難う和樹、でも大丈夫だから」
これ以上話すと溢れてしまう。
「本当に大丈夫だから、ごめんね。」
強引に話を終わらせ店を飛び出した。
「ちょっと、透香?え、待って!」
楓が追いかけてこようとした時、誰かが後ろから楓の肩を掴んだ。
「井上ごめん、俺のせい。これ払っておいて。」
「え?先生までなに?これ多いし!」
そんな声も届かず、一部の見ていた元生徒達は少しざわついた。
「透香泣いてたぞ。俺初めて見たかも。」
先生が出たことに後から気がついた豹たちがざわついていたと聞いたのはそれから1週間後のことだった。
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