これはきっと慈雨
百貨店の化粧室でメイクを直した私達は、会場となる居酒屋に向かった。
私たちが着く頃には既に集まりつつあり再会の挨拶を交わしながら空いている席へ座った。
「結構集まってるね、これ企画誰だっけ?」
「2組の坂本でしょ、部活同じだったから誘われて透香も一緒ならって。」
「なるほどね、どうりで男性陣ばっかな訳だ。」
話に入ってきたのは同じクラスでそこそこ仲の良かった和樹だ。
「久しぶりだね、元気してた?どうりでってどう言う事よ。」
「透香目当てなんじゃない?男性陣は、最初こんなに参加者居なかったもん。」
「なんで私が来ると増えるのよ。」
「無自覚怖、楓ずっとこれと一緒って大変だね。」
なんだかいい話じゃなさそうなのでお酒のメニューに目を通し始めた。
程なくして乾杯のためのドリンク注文が取られ、人数も揃ったかと思われた。
誰かが幹事に
「あれ、一席空いてるよね?まだ誰か来てないの?」
確かに、一番手前の席がまだ空席だった。
「楓は誰が来るか知ってる?」
「ううん、全く。」
まあきっと誰かが遅れてるんだろう、あまり気に留めていなかったが次の一声で全身が凍った。
「春ちゃん!!!!」
どこかの女子から黄色い声がした。
「お待たせしました!スペシャルゲストが到着しました!」
坂本のひょうきんな声とともに現れた人に女性陣からの悲鳴とも取れる歓声が上がった。
「春先生だ〜久しぶり!」
「えー、なんでなんで!!」
あっという間にみんなが三国先生の周りの囲んだ。
「坂本、春ちゃんの連絡先知ってたんだね。仲良かったもんな。」
「でも春ちゃんって他県で教師やってるんじゃ無かったっけ。」
和樹と楓の会話に曖昧にしか返す事ができない。
「はいはーい。全員揃ったところで乾杯に移ります。席戻ってー!」
幹事の声で渋々みんな席に戻る。先生はあの空いている席に着いた。
目があったような気がした。
意識しないでいられるわけがなかった。来るんじゃなかった。
「透香?グラス持って、乾杯だよ。」
「あ、うん。ごめん。」
会は先生のサプライズもあって非常に盛り上がった。
だんだんみんなお酒も入ってるせいか大胆になってきていて、先生に迫る元女子生徒もいた。
その度男性陣や先生が引き剥がしたり大変そうだった。
私はあまりその中には入りたくないなと思い、端の方で楓とひたすら飲んでいた。
「透香さん、これじゃいつもの二人飲みと変わらなくない?」
「良いじゃない、てか楓は向こうで飲んできなよ。私一人で飲むの好きだし。」
「あんたが一人で呑兵衛なのは分かってるわよ。一人にしたら変なの寄ってきてたから私が追っ払ったんでしょうが。」
「別に自分で追い払えるわよ。大丈夫だから、ね?折角なんだから行ってきて。」
そう言うと楓は「すぐ戻ってくるから」と渋々盛り上がっている中へと入っていった。
あまり大人数や騒がしい場所が得意ではない私を知っているので楓は無理に一緒に行こうとは言わない。
今回も最初は来るつもりが無かった私を無理に誘わなかったが、恋人と別れて元気のない楓を見たらやっぱり一緒に行くと自分から答えていた。
「透香、楽しくない?」
「和樹…」
入れ替わりで来たのはきっと楓に何か言われたんだろう。
「自分からやっぱり行くって言ったのにちゃんと楽しめなくて、結局楓にも和樹にも気を遣わせて自己嫌悪中です。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます