同じ景色ばかり見ていた

約束の日を迎えた。

お昼を食べた後、午後の授業を一つ受け終了の合図と共に急いで大学を後にした。

次の電車に乗らないと約束の時間には間に合わない、新しいヒールを気にしながら精一杯走る。

ギリギリ間に合った。

乱れた息を整えながらこれから長い時間続くこの旅路をどう過ごそうかと思いつつ座席のシートに腰掛けた。

普段から鞄に文庫本を入れている私は然程暇しないだろうと思い読み始めようとするが、中々内容が入ってこない。

頭に巡るのは高校生だった頃のいつだかの記憶。

先生の連絡先を教えてもらった日だ。



あれは夏休みも終わってこの可愛い夏服もあとちょっとで衣替えだな〜

なんてみんなで話していた時期

きっかけはひょんな事だった。


部活で帰りが遅くなってしまい、楓やいつも一緒に帰る子はみんな帰宅していてたまには一人で帰ろうと階段を降りると下駄箱の前で声をかけられた。

「世良、今帰り?」

「三国先生、先生も今ですか?遅いですね。」

非常勤講師がこの時間まで残ってる事なんてテスト前くらいなのに。

「1年生の補習してたんだよ、世良は来週からだな!」

そう不敵な笑みを浮かべられた。

「もうそんな時期ですか?大会近いから今回はパスしようと思ってたのに。」

そう、私が所属する弓道部は秋に大きな大会がある。

今はそれに向けて部活の後個人練習をしたり朝練したりでテスト前の部活は基本休みだが、今回は特別に練習場の使用許可を得ていた。

「前回少し点数上がってましたよね?だから顧問から許可降りたのに...」

「少しだけね、弓道部の先生に聞いたよ。優勝候補なんだって?それは応援しているけど、毎日じゃなくていいから今回も参加する事。文武両道な!」

「分かってますよ。ちゃんと出ます。」

少しふて腐れながら靴を履き替えていると、

「世良もJR?一緒に帰るか。」

「良いんですか?女子高生と二人きりで歩いて。」

からかうように少し距離を取る。

「あ、やばいかな。もしなんかあったら世良フォロー頼むな!」

先生もそれに乗っかって冗談交じりに答えた。


高校の最寄りの駅までは大通りの一本道なのだが10分程かかる。

「先生もJRだったんですね、朝とか会ったことありましたっけ?」

「そういえば無いよな、あ!一回あるぞ。俺二時間目からの授業で少しゆっくり通勤してたら、結構前を歩いてたんだよ。寝坊でもしたのか?って思ったんだけど、その日電車遅れてたの思い出して。めちゃくちゃ早歩きでさ声掛けようにも追いつかないんだよ、世良って女子の割に歩くの早いって言われない?」

あの時か、遅刻なんて滅多にしないから覚えている。

「はい、よく言われます。」

そんな後ろ姿見られていたなんて恥ずかしすぎる。

「後ろ姿でよく分かりましたね。」

みんな同じ制服を着ているのに、しかも後ろ姿。

「世良は姿勢が良いから。やっぱり弓道の影響?」

「ああ、親が結構厳しくて。所作とか言葉遣いとか。家は日本舞踊一家で祖母が家元なんです。」

「どうりで。他の生徒と少し違うわけだ。」

「どういう意味ですか、違うって。」

「ああ、良い意味でな。ちょっと大人びてるよな。」

「そうですかね?」


先生にそう言われ悪い気はしなかった。


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