同じ景色ばかり見ていた
10分という時間はあっという間で、
「なんかいつもより駅までの道のり早く感じた気がする。」
私も同じこと考えてた。
「もっと話したかったな。」
言うつもりなんてなかったのについ口から出てしまった。
「え?」
「なんでもないです!先生どっち方面ですか?」
聞こえてたかな、聞こえてたよな〜言わなきゃよかった。
後悔の念に駆られていると、
「俺こっちの電車だから。」
「あ、私こっちなので。それじゃまた明日!」
それ以上は聞かれなかった事への安堵と同時に逃げるようにその場から立ち去ろうとすると、先生に呼び止められた。
「世良!ちょっと。」
手招きされ素直に近くまで行くと、先生は少し考えてから鞄から手帳をだし何かを書いて破いた。
「これ、院で使ってるやつなんだけど。」
渡してきた紙にはメールアドレスが書かれていた。
「良いんですか?生徒にこんなの教えて。」
「プライベートのじゃないから良いだろ、家で勉強してたりなんかあったらいつでも連絡してくれて良いから。」
「...ありがとうございます。する事あるかな?」
冗談交じりに言うと、
「お、じゃあ返せ。」
取り返そうとしてくる先生は無邪気過ぎて年上に見えない。
「嘘です、取り敢えず後で一通送っておきますね!」
「おう!気をつけて帰れよ!」
私たちは別方向の電車に乗り込んだ。
先生と別れてからの私はと言うと、勉強そっちのけで最初のメールをなんて送るかを悩んでいた。
夕食後日課の踊りの稽古も上の空。
何度お祖母様に扇子を投げられただろう。
普通は年上の男性に少し優しくされたり特別扱いされたら女子高生なんてすぐコロッと好きになっちゃうんだろうな。
でもその優しさは私が生徒だからってこの時はちゃんと理解できていた。
だから勘違いなんてしなかったし、間違っても告白なんてしなかった。
きっと気の迷い、そう思う事で心を落ち着けた。
結局送ったメールは
[今晩は、世良です。]
それが自分の中での精一杯だった。
懐かしいな。
たった2年ほど前、ついこの間のこと。
制服を脱いで会うのは初めて。
ただご飯を一緒に食べるだけ、それだけ。
電車が乗り換えの駅に着きそうだ。
大して読み進んでもいない本を閉じ鞄にしまった。
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