同じ景色ばかり見ていた

騒がしい居酒屋に私たちは集まっていた。

楓が急かすように話をさせる。

「それで?いつ会うことになったの?」

「22日、バイトもないし予定もない。」

「授業は?」

「3限まで出てあと休む。あ、お願いしまーす!ビールと豆腐のサラダを...」

ニヤニヤし始める楓を無視してお代わりを頼んだ。

(未成年の飲酒は絶対にダメです。)

「私もバイトなかったら行けたのにな〜透香だけずるい、しかも二人っきりでしょ?もうそれデートじゃん!!」

不貞腐れるその姿はまるで駄々こねてる子供みたい。

「デートじゃないし、ご飯するだけ。」

「わざわざ?二時間かけて?いや、大学から行くなら三時間?へえ...」

痛いところ付いてくる。わざわざ、そうだよな。軽い旅行だもんね。でも。

「そもそも!楓が先生に連絡しちゃったからこうなってるんでしょ!」

「そうだったかな?」

とぼけた顔してコークハイを飲むこの子の顔にビールかけても怒られない気がする。

「でも良かったじゃん、本当は会いたかったんでしょ?」

「え?」

「透香、本当は先生のこと好きだったでしょ?高校生の頃、興味ないふりは皆に怪しまれない為だもんね〜。」


そうか、この子にはお見通しだったのか。


「まあ、もう私たちの先生ではないんだしあんまり気にしなくても良いんじゃない?ご飯楽しんでおいでよ。」

楓には敵わないな、本当に。敵わない。

「うん、有難う。」


もう先生じゃないか、でも先生は先生で私は一生徒、

きっと今回会ったらもう会えなくなるんだろうな。

今の私はまだ未成年で、7つ歳が離れていてまだまだ遠い気がする。

相手になんてされない。

期待と不安をビールと一緒に流し込んだ。



翌日は一日中バイトに出ており、

土曜日だという事もあって店内は込み合っていて、ランチの最後のお客さんが帰ったのは15:30を過ぎていた。

「まかないいただきます。」

そう声をかけてやっとありつけたお昼ご飯を持ちホールのソファに座った。

「おはようございまーす」

裏口の方から一臣が出勤してきた声が聞こえた。

そのままホールまで来た彼に声をかける。

「おはよう一臣。」

「おう!今日まかないビーフシチュー?美味そう、着替えてこよ」

しかしバックヤードに向かう一臣を阻む者が、

「おう!一臣、透香は通しで頑張ってるのに夜からとか弛んでんのか?」

店長が笑いながら来たばかりの一臣に絡む。

「店長おはようございます!朝から学校だったんですよ〜」


私達のバイト先は個人経営のビストロ

平日はディナーのみだが土日祝日はランチも営業している。

席数は少ないが常連さんも多く繁盛している方だと思う。

店内はアンティークの物で統一されており女性客にも人気だ。


「透香再来週ってどっか空いてる?」

着替えてまかないを持ってきた一臣が自然と隣に座った。

「再来週?バイトの後、もしくは学校帰りなら空いてるけど?」

大学のない日は基本的にここに入っているし、滅多にない授業が早く終わる日も大概バイトを入れている私は丸一日休みの日は無いに等しい。

「透香今月土日ずっとバイト入れてるよね、来月もこんな感じ?」

「そうだね、平日はあんまり入れてないからね。」

「まあそうだよね、あ、22日の学校終わりは?久しぶりにデートしたい。」

「あー、」

その日は...

「なんか予定入ってた?」

「その日はゴメン、同期との飲み会だ。」

「そっか、じゃあ当分はここで会うしかないか。残念。」

「今はまだ学校と両立大変だけどがんばろ!」


高校生の頃よりお互いに嘘が上手くなった。

彼には最近学校で気になる子がいるらしい。

SNSが発達した今、そんなのは嫌でも見つけてしまう。

どうやら両思いらしく、私と別れるのを待っているみたいだが別れ話をされる気配はない

きっとここでの関係が悪くなるのを危惧しているのだろう。


〈なんで私達付き合ってるんだろうな〉

このままじゃダメだと思いつつ放っておいている私も悪い。

でも今の私にはちょっとした逃げ場が必要だから、

なんて考えるとふと先生の顔が浮かんだ。


邪な思いを断ち切るかのように食べ終わったお皿をキッチンに片し、

ディナーの準備に入るため私は立ち上がった。



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