同じ景色ばかり見ていた


まだ5月も序盤なのに暑いな。

半袖でも良いくらい。

私はカフェを出てすぐ側を流れる川縁にある公園で本を読んでいた。

あれ以降、楓から連絡は無いしもちろん先生からも。

何を期待してるんだろう、


でもここはとても居心地が良い、川の音も柔らかな風も荒んでいた心を穏やかにしてくれる。

学校の問題も恋人との問題も考えることを放棄したい。

何も考えたくない、逃げ場を探して探してこんなに遠くまで来てしまった。

「現実逃避にもほどがあるよね。」

それにしてもやっぱり暑いな、もうすぐ梅雨よね。

余計なことを考えていたら本も進まなくなった。

「…… …帰ろっかな。」

本を閉じ駅へと向かった。


16時か、思っていたより長居してしまった。

駅には学校帰りの高校生が沢山集まっていた。あの制服可愛いな、どこの学校だろう。

駅のホーム、夕焼け、制服、なんて似合う組み合わせ。

「また思い出しちゃうじゃない、」

最寄り駅への到着時刻を調べようとスマホを手に取るとメールが一件

その表示に思わずスマホを落としそうになった。

[三国 春:世良久しぶり!元気にしてる?井上から連絡来たんだけどこっちに来てるって本当?]

まさか連絡くるなんて、考えてなかった。

なんて返せば良いの、サボりで遊びに来ましたなんて恥ずかしくて言えない。


[おひさしぶりです。まさか先生が勤めている学校の近くだったなんて、先生もお元気でしたか?]

[もっと早く連絡くれたら今日早く仕事上がって会えたのに!次来る時は前以て連絡してね。]

[本当ですか?また月末辺り来る用事あるんですけど、もし都合が合えば]

自分でもなんでこんなことを言ったのか分からない。

次来る予定なんてないし、自分からこんな事言うなんてどうかしちゃったのかもしれない。

[月末か!!ちょっと予定調整してみる、ご飯でも行こう。]

[はい、楽しみにしてますね。]

心臓がうるさい。顔には出さないよう必死だがこんなにもドキドキする事が今まであっただろうか。

こんなに展開が早いとついていけない。

先生はみんなに優しかった。非常勤だったけど人当たりも良くて優しくて

だからみんなに好かれていた。私だけにじゃない、みんなに優しかった。

だから勘違いなんてしなかったし、今回もそう、昔の教え子から久しぶりに連絡が来て

連絡してあげなきゃって思っただけ、気を使ってくれただけ。

取り敢えず後で楓には連絡しておこう。

なんて伝えよう、先生から連絡来たよ?月末会うことになったよ?

楓も来たがるかな、先生のこと好きだもんね会いたいはずだ。


明日は大学へ行こう、夕方からはバイトもある。

でも楽しいができたから少しだけ頑張れそう。



うるさい心臓を見て見ぬ振りして家路へと急いだ。

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