全てのお話にはあの頃がつく

学級委員だった私はその日、担任から雑用を押し付けられ部活も休みで断る理由もなく放課後の教室で一人作業に追われた。

放課後の教室は嫌いではない。

ここから見える夕日が私は一等好き。

この時間になると誰もいないし独り占めできる、これも雑用をこなす学級委員の特権かもしれない。


作業も終盤に差し掛かり、もう一踏ん張りっと姿勢を正し直した時、

教室のドアが開いた。

急に現れた予想外の人物に驚いたが手を休める事はない。

「三国先生どうされました?」

「資料ここで閉じてるって聞いたんだけど、世良がやってくれてたんだ。」

「この時間までいるの珍しいですね、資料ってこれ?」

私が今まで閉じていた資料をよく見ると数学の内容。

「これって数学で使うやつだったんですね。」

内容なんて全く見ていなかったから気がつかなかった。

「ごめんなさい、もう少しで終わります。」

「小野塚先生が手伝ってくれるって言ってくれたからお願いしたんだけど、急に会議入ったから生徒に頼んだってさっき聞いて。手伝ってくれてありがとな。残り俺もやるよ。」


気まずい。

一人で作業していた方が楽なんだけどな。


「あの、終わったら下まで届けるので先生戻って大丈夫ですよ?」

正直先生が居るとやり辛いので戻ってて下さい。これが本音だ。


「いいよ、頼んでるのこっちだし非常勤室も息詰まっちゃって、少し休ませて?」


そんなこと言われてしまうとこれ以上は何も言えない。

「そんなに殺伐としてるんですか?テスト前って」


そう来週からテスト期間

今閉じている資料はテストに関係ないから問題ないんだけど、この期間の前は教師達が鬼の形相でテスト作りに追われている。


「先生方みんなパソコンと睨めっこだよ。」

笑いながら言う先生の目の下にもクマがうっすら出来ていた。


「大学院もあるのに大変ですね。」

「大変だけどこうやって手伝ってくれる生徒もいるし。そう言えば世良、数学のテスト勉強始めてる?」


痛いところをつかれた。


「一応....」

してはいるのだが、いるにはいるんだけど。


「数学だけだよな。いつも成績悪いのって。と言うか数学のせいで順位下げてるよな?俺の授業分かりづらい?つまんない?」



「いえ、そういうことじゃなくて。なんか、昔から苦手で、勉強するにはするけど分からないからつまらないって言うか。」


そう、分からないからつまらないんだ。

勉強の仕方が間違ってるんだろうな、そろそろ塾か家庭教師かとも考えているけどまだ部活もあるし、どうせ内部進学なのに数学の為だけにって考えると馬鹿らしいし。


「...世良?」

「はい?」

どうやら考え込みすぎて、話しかけてきている先生に気が付かなかったみたい。

「だからさ、今テスト前で部活休みだろ。明日から放課後特別補習しようか?」

「特別補習?前、小野塚先生から少し話は聞きましたけど…」

「そうそう、他にも希望する生徒が居たら一緒にだからつきっきりとはいかないけど。」

「はあ...まあ部活もないし、他にもいるなら。」

「良し!明日の放課後からな!良かった、世良が前向きになってくれて。」

嬉しそうに言う先生に

「え、私そんなにやる気なさげに見えました?」

そんな事ないんだけどな、

「少しだけ?まあでも世良は他の勉強は問題なく出来るし、数学だけなんでかな?ってずっと気になってたんだよ。他の先生からの評判も良いし。だからこそどうにかしてあげなきゃなって。」


「先生って意外と熱血?」

思わず笑ってしまった。

「おい、笑うなよ。こっちは真剣に考えて!」

「ごめんなさい、ちょっと熱がすごくて。

じゃあ、明日から放課後よろしくお願いします。」


笑いが治らないうちに私が返事をすると先生も嬉しそうに笑ってくれた。

「残り片付けちゃお!!」


それから先生が辞めてしまうまでの半年間

毎回テスト前には先生が補習を組んでくれた。






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