全てのお話にはあの頃がつく

当時一六歳だった私達にとって三国先生はまだ大学院生で他の教師よりも年齢が近いこともあってすぐ親しみやすい存在になった。


「春ちゃんここ分かんないんだけど!」

「春!数学俺無理だ。できない。」

流石に他の先生には呼び捨てで呼んでいる場面がバレたら怒られたけど、

先生自身はあまり気にしていない様子で。


先生がそんな感じなのもあって、恋愛感情を抱く生徒も何人か居たようだ。

告白したけど丁重にお断りされたとクラスの子が泣いていた。

私はと言うとまあ好みの顔だなとは思っていたけれど、然程気にならず

それよりも何よりも数学は一番苦手な教科でどれだけ教えてもらっても理解できない

厄介な物としてレッテルを貼っていた。


「世良はどうして数学だけ出来ないわけ?他の教科はいつも学年上位なのに。

あんまり悪い成績が続くようだと補習も視野に入れるよ?」

試験後の担任との面談ではいつもこう言われる始末。


「教えてもらっても出来ないんですよ〜他と違って暗記じゃないし。」

私の成績を下げているのは間違いなく数学。

数学の中の種類の問題ではなく、数学全般苦手でなんなら小学生の算数後半くらいから怪しい。


「三国先生が気にされてて、世良さんは学年五番以内に入っていてもおかしくないのに数学が足を引っ張っていますよね。私の教え方に問題あるのでしょうか。って!」


うわぁ、

三国先生には申し訳ないけど違うんだよ、私の頭に数学を解く力が無いだけで。


「放課後補習やりましょうか?って言ってたぞ、三国先生。」

「それは大丈夫です!!赤点では無いし困ったら楓とかに聞くし、何より部活ありますし!」

放課後まで勉強したく無い!部活出られないなんて絶対無理!!


「そうは言ってもな…井上に聞くって、お前より成績悪いやつに聞いても。」

担任が呆れ顔で言った。

その日はそれで解放されたけど、これは本格的にまずい。

私が通っている高校は数学は二年生までで三年からは無い。

だからあと一年乗り切ればって思っていたのにな…


「どうしよっかなー」


本格的にピンチかも。

このまま次の試験も平均点以下だったらそれこそ補習確定だし、

最悪部活禁止とかになりかねない。

他の教科はいつもトップ3入ってるんだから少しは多めに見てくれたっていいのに。


溜息を吐きながら開始時刻が迫っている部活へと急いだ。




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