全てのお話にはあの頃がつく


「お尻痛ーい…」


乗り換えて目的地に着いた頃には

地元で電車に乗ってから2時間が経っていた。

ほとんど座っていたのだから背中もお尻もカチカチだ。

改札を出たと同時くらいに着信を知らせるバイブが震えた。


「もしもし?」

かけてきたのは高校からの同級生の楓だ。

「透香今日サボり?もうお昼なんだけど。」

「うん、行こうとは思ってたんだけど気付いたら逆方向の電車乗ってた。」

私の返答にケラケラ笑う声とその後ろから賑わっているであろう学食の雰囲気が伝わってきた。

「それでどこに居るの?」

「前に話ししてた隣の県の川沿いのカフェがある駅?」

駅名なんだっけ…

「駅?ってなんで疑問形? そこ彼氏と行くとか言ってなかったっけ?

いいの?一人で行っちゃって。」

「良いの良いの!次いつ会えるかもわかんないし。」

「じゃあ誘ってくれれば良かったのに〜」

少し拗ねたような声で言う楓の顔がすぐ思い浮かぶ。

「そう言えばその駅、」

拗ねていたかと思えばすぐに楓が何かを思い出したようで

何かを電話越しにスマートフォンで調べ始めた。


「やっぱり、その駅さ春ちゃんが今勤めてる学校がある駅じゃん!」

少し興奮した声で騒ぐ楓、

「春ちゃんって三国先生?」

「そうそう!えー懐かしい!学校まで行って挨拶してきたら?

出来たらテレビ電話して!!!」

楓はいつでも割とテンション高めだが、今日は一段と…

「急に行っても迷惑でしょ、それにもう1年以上会ってないんだから会って反応微妙だったら一人で恥ずかしいでしょ。」

「えー、折角近くにいるのに勿体無い。」

不満そうな声をもらされたが、知らんぷり。

「会いに行かないし私はあのカフェでお茶して少し散策したら帰る。

午後の授業代返よろしくね。じゃあ!」

「ちょっ、透香!」

まだ何か言いたげな楓を無視して電話を切った。


もう、長電話してたらカフェのランチ終わっちゃうじゃない。


メッセージでの追撃を察知してスマートフォンをカバンの奥に押し込み

私は駅からカフェへ向かった。



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