第32話
なんだかんだゴタゴタがあったがその翌々日は休日で、一人で考える時間が与えられる…と思っていた。
「…儚日。」
いやいやまさか思わないじゃん。最近色々あって気まずくなっていた幼馴染とパタリと休日再会するなんて。しかも某アニメショップ乙女ゲームコーナーで。
「かっ楓くん!奇遇だねえ?」
しかもしかもとびきり性癖晒されるような作品を手に取った瞬間だなんて。
「ああ、〝ヴァンパイアとの恋~背徳のキス~〟発売日にこんなとこで出会うなんて奇遇だね儚日さん?」
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本店に来ていたため、出て目の前にある公園のベンチで二人並んで座った。近くのコンビニで楓がコーヒーを買ってくれた。秋風が少し寒いこの頃には助かる。
「この間、ごめんな。邪魔しちまって。」
こちらは見ずに楓は口を開いた。
「ううん、あれはタイミングが悪かった。」
そう、茗荷谷の時のこと。そもそもその前から色々あったのだけれど。
「あ、あとな。随分前のことなんだけど…あれ、忘れてくれていいから。」
「え?」
「あ、いや。お前が茗荷谷と付き合ってんなら、これ以上好き同士の中に入り込むのもなって。」
「いやいや、付き合ってないよ!あんなやつ…ただ女慣れしてるだけで。」
そう、きっとそれだけだ。だけれど脳裏に映るのはらしくない焦る表情の茗荷谷。あの表情が忘れられないのも茗荷谷の計算内だとするなら、とんでもないやつだと思う。でも、
「でもこの前の雰囲気だと、そんな感じだっただろ。お前だって満更でもなかっただろうし。」
「それは…。」
確かにあんな嫌なやつだったのに自然と今は関わってしまっている。楓が助けてくれたのを忘れたのか、私の方がとんでもないやつだ。
「ごめん。どうしても俺も…諦められなくってだらだら長引かせて。男として女々しすぎるよな。ほんっとごめん。」
コーヒーをガっと一気に飲み込む楓。かっこよくキメすぎていて誰かと思ったけど、あっつ!!!と吹き出すもんだから、ああそういえばこの子は楓だったと気づく。
「でもいいんだ。答えは求めてない。これは俺がただ吐き出して満足したかっただけだから。それをどうこうしようなんてこれっぽっちも考えてないんだ。ごめんな、俺のわがままに振り回して。」
「う、ううんいいの。びっくりはしたけど。…それと、色々ありがとう。今までお礼も言えなくて。」
「いやっ、それはその、全然!俺が好きで勝手にやったことだから。ほんと…お節介かってくらい。俺がやりたかっただけなんだ。」
「それが私にとってどれだけ大きかったか。とっても助かったんだよ。」
楓がエデンだった頃…私の婚約者だった時はこんなに私に構う人ではなかった。小さい頃に遊んでた程度でいつの間にか婚約が結ばれていて、今の私たちくらいになれば外交のためにしょっちゅう外へ出ていたし。私が死んだ時も、ちょうど海外にいたはずだ。
「…それにこの時代じゃお前を縛りつけることもできないからな。」
「ん?何か言った?」
「いや何でもねえよ。でもまあ茗荷谷から解放はされたから、また儚日と音ノ木とでつるめるな。さすがに一度入った役職だから生徒会は抜けれねえけど。」
荷が降りたような笑顔で楓は頷く。元々責任感の強い子だ。生徒会は上手く続けていくのだろう。
「よかった。これでまた、三人でいられるね。」
ーー我ながら残酷な言葉だと思った。
特別前世から彼のことが好きだったわけではない。エデンと婚約していた頃にユーリに恋していたくらいだ。今なんかもっとわからない。少女漫画なら絶対曖昧にしてはいけないであろう答えに、ほっとしている自分がいた。なんて情けないことだろう。
「…ああ、よかった。」
またこうして人の優しさにつけこんで。
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「珍しいですね。君が休日こんな所に来るなんて。」
ここはゲームセンター。休日は大抵そこのリズムゲームで暇つぶしをするのが自分の習慣になっていた。が、今日は先客がいた。
「忠野、湊。どうしてここに。」
「一応俺の方が先輩。ていうか質問してるのはこっちね、寺島冬子。」
「…振られたやけくそですよ。たまには私だってハメを外してもいいでしょう。」
百円玉でNormal選択、選曲が若干古い。
「ふうん、誰かは聞かないでおくけど。意外と一途なんだね、あいつも。」
「私はあの人以上に一途な人を、今まで見たことがありません。」
普通に下手、やりなれていないのだろう。それか普通に集中できていないか。あいつを思い浮かべてこんな柔らかい表情ができるやつもいるのか。感心する。
「ああ、ほら集中してないから。そこは、タタタン!…君楽器とかやったことある?まあこういうゲームは基本なんとなくのリズム感でやっていくもんなんだけど。」
終わる時には寺島は息をゼーゼーと切らしていた。そんな体使うもんでもないだろうに。
「忠野湊、あなたにこんな特技があったなんて。」
「君が特殊なんだと思うけどね。…まあお疲れ。」
買ってきた緑茶を渡す。弾かれると思ったが、素直に受け取ってくれた。
「ありがとうございます。こういう所に来るのは実は初めてで。怖いイメージだったのですが、あなたのおかげで払拭することができました。」
どんな箱入りお嬢様だろうか。まあ面白いからいいかな。まるで桜先輩の女バージョンみたいだ。
「正直やけなのもあったのですが、寂しかったんです。少しでも人がいて騒がしくて、あの人を忘れられるような場所にいたくて。」
こういう時、イケメンポジならいい感じの慰めでもして〝脇役〟でも落としていくのがお決まりの展開だ。だが例に漏れず〝脇役〟である俺はただただ平凡であることを望む。
「俺は週末なら大体ここにいる。気が向いた時にでもくれば?別にここは学校じゃないし生徒会も公安も関係ないだろ。」
当たり障りのないことを言ったつもりだったのだがどうしたのか、寺島は笑っていた。
「…おかしい人。あなたこんなにおしゃべりする人だったのね。」
やだな無口な野郎だと思われていたのか。こう見えても公安の参謀的立ち位置なんだけど。まあ、楽しそうだからいいか。
「今度は上達したとこ見せてよ〝島ちゃん〟。」
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