第33話
ーー事は今日の朝。いつも通り靴箱に入れられているたくさんの女子からの手紙…の中に珍しい人物から一封紛れ込んでいたのだ。
〝今日のお昼お話があります。生徒会室前にいます。猫谷儚日。〟
この前の出来事があって逃げられたばかりの俺にとって複雑な心境だった。彼女から連絡だなんて。でも行かないわけがない。これは俺にとって今までで一番大事な話だ。ほかの手紙を跳ね除け、その一封を俺は握りしめた。
そしてあっという間に時は昼休み。一、二限不振な動きをしていたのだろうか、周りの女子たちがやけにこちらを伺ってくるのがわかる。
「エルくんどうしたのぉ〜?朝からなんかソワソワしてない?」
「何かいいことでもあったの?」
「そんなことよりお昼一緒に食べようよ!!」
いつもの茗荷谷エルならば笑顔で承諾していただろう。だが今日は、
「ごめん、今日は遠慮させてもらうよ。ちょっと用事があるんだ。」
「また告白〜?こういう時のエルくんの用事って大体そうだよね?」
一人がそう言うと周りが頷き合う。さっきから腕にひっついてきて正直剥がしたい。
「どうせ断るんだから、もう行かなくてもいいんじゃない?」
「エルくんはみんなのエルくんだもんね。」
「「「「ね〜!!」」」」
誤解を招く言い方をされると本当に困る。ここで弁明させていただきたいのだが、俺は一度もそんな八方美人なたらしの態度をしたことはない。告白された子たちを緩やかに断り続けていった結果がこれだ。否定しても埒が明かないから困ったものだ。
「それにきっとその子私たちのこと知らないのよ。みんなのエルくんを独り占めなんて私たちが許さないっての。」
自分で言うのもなんだが好きな人の前でよくも平然と人の悪口というか、性格の悪いことを言えるもんだ。しかも相手は儚日ちゃんだぞ?
「てか何よその自意識過剰女。高嶺の花すぎるってこと早く気づけばいいのにね。」
ーー何かがプツンと、自分の中で切れた。
「ねえ、エルくん。だからそんなやつ放っといて私たちと…」
そう言いながら手を握ってきた女子の手を退ける。いつも俺がしない行動に女子たちはどよめく。
「ごめん、これは。…これだけは君たちにとやかく言われたくない。今日も、というかこれからもご飯は一緒にできない。」
手をはらわれた女子は大きい瞳をひんむかせて俺を見る。この子の中の俺は、〝こうじゃなかった〟のだろう。だんだんと目がうるうるしてきて、まるで俺が悪いみたいだ。ああ、やっぱり俺はこんな性格向いてなかったみたい。
「えっエルくん?何言ってるの?…嘘だよね?」
「ごめんね、今まで言えてなかったけど俺性格悪い子苦手なんだ。特に君みたいなね。」
笑顔で言うと〝かつて〟何度受けたかわからない平手打ちがきたので軽々と避ける。そうすると大体女ってのは怒るんだから困るなあ。だって痛いの嫌じゃん。
「エルくんっの!さいってい!!!」
「はーあ…はいはい、もう面倒臭いなあ。勝手に王子様キャラつけられても困るんだよ。俺は簡単に落ちない子の方が好きなの。性格の悪い女ほど醜いものってないよね。」
女子全員が顔面蒼白だ。もう隠す必要もない。これが俺だ。かつてあの子に散々怒られたがもう限界。よく頑張ったと思う。そのまま走り出して向かうのは手紙にあった通りの生徒会室前。もう既に彼女の姿はあった。
「はーなーびーちゃーん!!」
あーあ、これで今まで学校で築いてきた色んなものもなくなっちゃうかもな。でも、まあいっか、こんなもんか、だなんて…そう思えるくらいには俺にとっての世界は彼女で出来ている。ほらだって、俺に気づいて振り返る彼女はこんなにも可愛い。
ーーーーーーーー
何故か走ってきたエルは息をゼーゼーさせている。ここ数日で色々考えたものだ。前世からいつも優柔不断でグダグダな私は、周りのみんなを知らず知らずの内に傷つけていた。だから今度は私から行動をしてみようと思ったのだ。灯にこの事を話したら動揺してはいたが、最後には頷いてくれた。
「手紙、気づかないかと思いました。すみません、忙しいのに。あと…この前も逃げちゃって。」
「儚日ちゃんのだからね。気づかないわけないよ。それにあれは俺が急ぎすぎたんだ…怖い思いさせちゃったよね。ほんっとごめん!」
両手を合わせて今にも土下座しそうな勢いでエルは私に謝る。チャラいのか真面目なのかわからないな。幸いここは人が全然通らないからエルの声が響いても目立つこともない。遊里に教えてもらった好都合な場所だ。
「いえ私も避けようと思えば避けれたのでエル先輩が悪いわけじゃないです。それに、今日お話したかったのはそれじゃなくて。この前の、お返事なんですけど…。」
その言葉を発した瞬間にエルの表情がキュッと強ばるのを感じた。なんだか最近はすごく彼の意外な一面を見れている気がする。
「うん、わかった。…ちょ、目を閉じて聞いてもいい?集中したいんだ。」
「別にいいですけど。」
ぐぬぬ、と耳を研ぎ澄ませて私の次の発言を待っているのだろう。ゲームでこの様子の一枚絵を見たことがあるなぁなんて、客観的に思う。彼のこともなんだかんだ迷惑をこうむってると見せかけて私の方が散々振り回していたことは今だからわかることだ。前世を思い出してからというものろくなことがないのだ。私も、彼らも。
だからこそ一歩踏み出してみようと思った。これが甘えであるのは変わりない。だけれど、このままよくわからない糸で雁字搦めになるよりはマシだ。
「とりあえずなんですけど、エル先輩が言ってたように…お試しで付き合いませんか?」
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