第31話

逃れられない状況に私は当たり障りのない程度のことを輝也に今日あった出来事を話した(名前は伏せて、キスとか云々ももちろん話せてない)。少し固まっていたが、すぐに朗らかな笑顔に戻った。


「なんだあ。案外青春してるんだね、儚日ちゃんも。隅に置けないなあ。で?付き合うことにしたの?」


「冗談じゃないですよ。散々こっちは引っ掻き回されてるってのに。もうどうしたらいいのかなって。」


「…うーん、難しいね。冷たい言い回しになっちゃうけどらそれはやっぱり俺が儚日ちゃんにどうこう言う話でもないし。」


少しだけいつもより悲しげな言い方だった。わかっている、これを輝也に話したとして困らせてしまうだけだ。ラフテルの時から彼は聞き上手でもあるから、ついつい話してしまう。


「まあ俺としては、儚日ちゃんが遠くにいっちゃうのは寂しいかな。」


私の横に一緒に座り込む。安心する匂いが近くにやってくる。


「出会ったのはこの前なのに?」


「ははは、痛いとこつかれるな。」


少しの間、静寂が訪れる。何か輝也は考え事をしているようだった。


「ねえ、儚日ちゃんはその子のこと好きなの?」


「…わからない。」


「それか他に好きな人とかいるの?」


「…っ。」


その時ふと、前世の最後の記憶を思い出した。


〝貴女を傍でお守りいたします〟


それを言った人が、こっちの世界にいるかなんてわからない。いやそもそも好きな人でもないな。てか傍どころか守ってもくれてないよ?


私の顔がコロコロ変わっていたのか輝也はくすくすと笑っていた。


「儚日ちゃんは相変わらずだなあもう。その感じだといるのかな?」


「ち、ちがっ。」


「やだなあ、俺も狙ってたのに。そいつは幸せ者だな。」


私の顔を覗き込むその顔がどうにもいたたまれなくて。


「もうだから違うって!帰ってよー!」


そう言ってどんどん私の部屋から輝也を押し出す。輝也は思ったよりもがっちりしていた。それが尚更、今日の茗荷谷を思い出してしまう。


「あわわ、はいはい。わかりましたよ。邪魔者は退散するからね。ご飯は早めに来るんだよ。」


バタン。途端に部屋に静寂が訪れる。


あーあ、私なんでこんな色々翻弄されてるんだろ。こんななら前世の時のがまだましだったのになあ。茗荷谷も輝也もほかの人物たちだってあの頃の立場じゃきっとこんなことにはなっていない。


ピコン、と携帯が光る。携帯を開くともう一人の学校のリーダーから微笑ましい連絡が送られてきていた。




ーーーーーーーー




…そうか、彼女もそんな歳になったというわけか。


静かに、深く深く抉られていた古傷が疼く。当たり前のことなのに、受け入れられない自分が嫌になる。敵に塩を送っているのはわかりきっていることだ。だが、案外それは彼女の幸せに繋がるのかもしれない。


先程追い出された部屋の主が廊下を歩く俺を追い越す。そして振り返り携帯を見せてきた。ほら、こんなに可愛らしい彼女だ。だったらそれでもいいじゃないか。彼女が幸せならば。


「遊里先輩付き合うことになったって!」


…それが自分へ言い聞かせるための体のいい理由づけだと知っていながら、今日も俺は彼女の都合のいいお兄さんになる。それだけじゃ嫌だといつもいつも思っている。でも、それでも俺がお兄さんであり続けるのは


「輝也さんのおかげだよ。本当によかった。」


ーー他でもない彼女の帰る場所を守るためだ。




ーーーーーーーー




「いやはや、ありがとう。儚日のおかげで無事に彼女と付き合えることになった。」


本当に嬉しそうに遊里は笑った。なんだかその表情を見ると自分に起こったドタバタがなんだか小さく思えてくる。すっかり学校の遊里の秘密部屋に私も慣れたもんだ。


「ふふーん。ピクニックで落としたんですか?」


「うん、まあそんなところだ。」


頬を微かに赤く染めながら話す。それが恋してるって感じかあ。思ってみれば前世から恋だの愛だのに自分は無頓着だった気がする。初恋のこの人には殺されているし。


「…儚日の話も、色々聞いている。誰とは言わないが。…儚日はどうするつもりだ?」


「えー、どうせまた茗荷谷先輩でしょ。どうもこうも、ないない。」


「儚日は好きなやつがいるのか?」


まるで輝也みたいなことを聞く。


「いや別にいないですけど。ていうか、好きな人とかできても、上手くいかないんです…私。」


すると遊里は驚く顔をする。あんただよ、原因あんた。


「儚日の好きになる人だなんて…羨ましいな、なんだか。」


いやあんただったんだよ。


「だが、俺から見れば茗荷谷はとても可愛くていい後輩だ。仕事もできるし、面倒見もいい。正直君への態度は失礼ではあるが、あいつを知ってる者たちからしてみれば、あれはただの緊張だ。」


「それは前、知り合いにも言われました。」


忠野の客観的な意見はやはり間違ってなかったのか。それならば、やはりガブリエルの時のような性格が茗荷谷本来の性格であるのだろう。


「どうか、考えてやってほしい。…あ、違うからな。あいつは何も俺に話していない。恋愛相談相手が勝手に色々口走ってるだけだ。」


遊里がユーリではない可能性、生まれ変わりか怪しいところではあるが、ここまで腹を割って話せる時が来ようとは思わなかった。


「…まあ私も少しばかり、自分で動かないとってことなんですかね。」


?とよくわからない顔をしている遊里に私は笑う。


「それよりもー!彼女さんのお話してくださいよ!!」


途端に嫌な顔になるのやめてくれ。そうだ、本日のメインディッシュは明らかにそちら。こちとら死亡フラグへし折るためとはいえ、かなり尽力したんだ。それ相応の対価はもらおうじゃないか。


「ほら、まずどんなタイミングで付き合ったんですか!」


いれてもらったコーヒーが冷めるくらいに今日は話させてやろうと思った。

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