第35話
※
日が傾き山の裾野に黒い影が伸びる。
からからに乾いた大地に砂塵が舞い、地上世界にぽつんと残された小さな空港には、滑走路と、半壊した小さな建物だけが残っていた。
しかも滑走路の長さは、小さな民間用航空機がぎりぎり使える程度の長さしかなかった。
ハヤミの旧式戦闘機はとにかく降りるのでせいいっぱいであとは止まることができず、パラシュートを開き、エアブレーキを駆使してそれでも足りず、滑走路を逸脱し車輪が外れ機体の先端が地面にのめり込み、大破して、なんとか空港に着陸できたのだった。
とうぜん滑走路には多くの散乱物が残り、続いて降りたカズマのデュアルファングは滑走路に着陸できずにそのまま近くの建物に突っ込んだ。
黒雲が立ちこめ砂埃が舞い、ハヤミはなんとか機内から少女を脱出させると地面に降りた。
「くそ、まるでいつかみたいじゃないか」
視界がまったく見通せない。ブーツの底からは堅い感触が、砕けたガラス片と死の大地の感触が伝わる。
遠くで燃えるデュアルファング、静かに呼吸を繰り返す少女、ハヤミは少女を担ぎ直すと、漂う黒雲と僅かに聞こえる炎の音を目安にしてカズマを助けに向かった。
不時着したデュアルファングは、ハヤミが予想していたとおり大破していた。
ただその大破状況はそこまで悲惨ではなくて、翼が建物の柱にとられて折れ本体の一部が損傷している。ただしパイロットの乗るコアフレームの部分だけは無事のようで、解放された風防とコクピットの隙間からはカズマの腕が飛び出していた。
「カズマ! 大丈夫か!?」
ハヤミは少女を床に寝かせ、急いでデュアルファングの下に駆け寄った。
惰性で回転を続けるエンジンのファンブレードがからからと音を鳴らし、高圧ガスがエンジンカウルの隙間から異臭とともに吹き出ている。
「カズマ大丈夫か!」
声掛けをしながらハヤミはデュアルファングのノーズの近くに歩み寄り、危険箇所をすり抜け、慎重にスライドドアを引き開けた。
ドアは足場になっており、折れた柱の隙間も利用してなんとか機体上部の足場まで体を持ち上げる。カズマはぴくりとも反応しなかった。
「カズマぁ! おい!」
ハヤミは懸命にカズマの体を抱きかかえると、ショルダーハーネスを外しゆっくりと体を引き上げた。
「今助けてやるからな!」
「は、ハヤミか……」
「しゃべるなカズマ!」
カズマの腕を肩に引き込んでかつぎ、ゆっくりと大破した機体を降りる。
「てめえには……い、言ってやりたいことが山ほどあるんだ」
「静かにしてろ! いいか、今治療してやるからそれまで動くんじゃないぞ」
「足が、痛てえ、チクショウ」
「かすり傷だ、大丈夫だ」
ハヤミはカズマの体を支え、ゆっくりと床の上に寝転がせた。
さいわい、カズマの体は確かに折れてはいなさそうだった。詳しく見てみても、これといった重傷は見あたらない。さすがデュアルファングと言ったところか。
その隣には例の翼の少女を寝かせ、ハヤミは一息つく。だがこれからのことを考えてハヤミはため息をついた。
二人の機体はどちらも全損。修理はおそらくできない。エンジンもおそらく使い物にならないだろうし、精密機械が多すぎて直すのは不可能。
デュアルファングも自分が乗ってきたあの機体も使えないとなると。
「ここまで、か」
くすぶるデュアルファングと屋根に穴の開いた建物を見上げ、ハヤミはその大穴から空を見上げた。
「夜、なんだろうか」
空には相変わらず厚い雲が広がっており、雨は降っていなかったが暗い影が世界を覆い尽くしていた。
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