第25話
※
地下通路を抜けると、そこは紛れもない地獄そのものだった。
今まで自分が立っていた、ゴミと、瓦礫と、雨の降る綺麗な闇と奈落の底という場所は消え失せかつて見たこともない紫色の豪雨と、大量の落下物であふれかえっていた。
それから断続的に聞こえてくる爆発と、途切れ途切れに聞こえてくる誰かの悲鳴。
足下にはさきほどの地下からあふれ出てきている、冷たい水が迫ってきていた。
「なんだよこれ……」
少女を背負いとにかく上を目指す。すると先ほど自分たちを殺しに来た少女の片割れが、ハヤミの前に破裂音を伴って上から降ってきた。
落ちてきた少女の姿は闇にまぐれて見えなくなる。
「なんだよこれ!」
明かりの伴わない地獄のような闇を、うっすらと赤い光が照らした。
肩に担ぐ少女の光だ。少女は、まだ意識が元に戻らない。だがそれと比例して胸にあるクリスタルは、弾けそうなほどに眩しく、煌々と灯って周囲を照らす。
膝下まで迫る地下水に足を濡らして、ハヤミは全身を濡らしなりながら上に上れそうな段差を探した。
世界は混沌に包まれていた。それは、いつか訪れるであろうとは誰もが予測していた近未来だ。だが自分たちは目の前に訪れつつある滅びの未来から目をそらし、地下に隠れその場だけの快楽を楽しんで生きてきた。
「もう少しだからな! 死ぬなよ!」
少女を肩に担いでも、その重さはまったく分からずまるで羽のように軽く感じた。
それが良いことなのか、悪いことなのか分からない。ただ薄暗く町中が燃えている中でもわかる程度に、顔は病的に白くなっていた。
息も浅く呼吸数だけが多い。それと相対して胸に埋め込まれた謎の発光物だけが、燃えるように闇の中を照らしている。
「もう少しだからな!」
懸命に瓦礫の山に足をかけ上を目指していると、どこかで誰かが叫んでいるのが聞こえた。
「助、けてくれッ」
闇のなか、上に抜けようとしている中で誰かの声がする。消え入りそうな声で、自分に助けを求めているようだった。
ハヤミは一瞬迷った。今ここで誰かを助ければ、今度は自分が助からなくなるかもしれない。
頭上では自分の知らない誰かと、自分の仲間たちがなぜか襲われ戦っている。
頭上のフロアが大きく陥没し、建材が崩れ土砂となって自分たちのすぐ近くを落ちていく。
その落ちていく瓦礫の中で、誰かが自分を見て笑顔で落ちていくのを見た。
なぜ笑っている? そんな死体のような市民たちが、まるでぼろ雑巾のようにわらわらとさらに降り注ぐ。
ハヤミは、自分に助けを求める誰かを、助けることにした。
生き延びたいのなら、助けるべきだと。そう思い少女を担いで声に駆け寄った。
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