第22話
※
道なりに進み瓦礫の山を迂回し、どこから現れたか分からないパトロボットたちの目をかいくぐると、そこはもう明らかに怪しい地下世界の人工施設の中だった。
真っ暗な周囲の中に、赤い光点がゆっくりと浮かんでまた消えていく。いくつもの小さな無人機が、周りを浮遊して侵入者を捜しているといった様子だ。
じゃあここは、誰かが侵入してはまずい重要機密施設、あるいは何かがあるところだ。
そして目の前にはなぜか人の出入りできるゲートがあり、監視カメラもある。
ハヤミはそれ以上前に進むことができなくなった。
「困ったな。こんな所まで来ちまって、どうすれば戻れる?」
電話か何かでもしてカズマに助けでも求めようとも思ったが、いや走れば一人でも帰れるかなと思いもう一度今来た道を振り返る。
すると、暗い道の向こうから何かが近づいているのを見つけた。
普通の車両より一回り大きな特殊車両がヘッドライトの光量を控えめにしながら、道なりをゆっくり走ってきていた。
ハヤミはとっさに近くの物陰に飛び込み様子をうかがった。
走ってきたのは年代物の内燃機関式のトラックで、縦列隊形で前後併せて三台ほど。中から兵士たちが飛び出してくると周りをぐるっと取り囲み、用意周到といった様子で銃を周りに突きつけた。
兵士たちは人の格好をしていたが、ハヤミの知っている中で陸戦兵士に普通の人間は使っていない。いるのはハヤミと同じか、純度の高いクローンを使っているはず。
詳細は分からないがたぶんこの兵士たちもそうだろう。
輸送トラックの縦列隊形の真ん中一台だけは最新式の装甲車で、そこからは一向に人が出てこなかった。
代わりに後部ハッチが開いて、中から台座に縛り付けられたかなり大きい冷凍カプセルと白衣の人間が二名だけ出てきて、手押し車のようにしてカプセルを押していく。
ゲートだと思っていた場所が音を立ててゆっくりと開くと、白衣の男たち二人は少し立ち止まって腕時計を確認し、手押し車のようなものを押してゲートの中に入っていった。
周りの兵士たちはその場から動かず、厳戒体制を一切解かない。
それどころか建物ゲートの内側から大きな機動歩兵がゆっくりと出てきて、人を撃つにはあまりにも大きすぎる銃口をゲートの外に向け始める。
その瞬間だ。白衣の男たちが押す手押し車がわずかにバランスを崩し冷凍カプセルの内側が一瞬だけ見えた気がしたのだ。
ハヤミは、一瞬だけ目をこらした。何か見た気がしたから。それもなにか古い知り合いを見たような、単純に何か見ただけというより、見逃してはいけない何かを見たといった妙な感じ。
心拍数が上がりハヤミは自分の手のひらに汗がにじんだのを実感した。
ハヤミは声を出せない。もの凄い違和感を感じて息を飲み込んだ。
白衣の男たちは車のバランスを立て直し、ふたたび建物の中に入っていった。
外には、この暗闇には似合わない兵士たちと軍用機動歩兵たちが並んで立っている。
ハヤミは暗闇の中で壁にもたれかかり、ずるずるとその場に座り込んだ。
「進めねえ。これ以上どうしろってんだよ」
帰るかと思った。
『この先に、お前が追っていたものがあるんだぞ』
唐突に隣から声が聞こえ、オヤジが自分と同じ格好で座り込んでいた。
「お、オヤジ?」
『フォックスもアイツを追いかけてたんだ』
オヤジの幻影は自分の隣に座り込んでいたかと思えば、すぐに消え失せてしまいまた別の所に現れる。
これは幻覚だろうか?
「オレが何を追ってるって言うんだよ」
『見ただろう?』
白っぽい巨体のオヤジはそう言った。
『わたしも昔、あいつを追いかけていたんだ』
オヤジの幻影がまた姿を現す。オヤジは何者だと思った。でもそれはネガティブな意味ではなく、何か、理屈ではない胸の中に感じる共鳴のような物だった。
「オヤジが、何を知ってるんだ」
『何も知らんさ。お前が知らんことは、わたしも知らない。でもあれを見たとき、何か感じただろう?』
目で促され、ハヤミはそっと自分のもたれかかっている瓦礫の影から向こう側を覗いた。
向こう側では相変わらず、完全装備の兵士たちが厳重にゲート前を守っている。
彼らの隙を突いてゲートに入るなんてのはもってのほかだし、そもそもそこまでして中に入らなきゃいけないなんて動機もこちら側にはない。
けど僅かながら、さっき自分が見た何かの片鱗が気になるのだ。
心の中が妙にざわつく。
『その気持ちは正しい』
「だから、なんの話しだ」
ハヤミはオヤジの幻影に問い詰めた。
「オレが何を追っていて、オレは何を探してるんだ」
ハヤミが言うと、男は顔の見えないままハヤミを見て笑ったような顔をした。
「オレはフォックスを追っていたつもりだった。けれどもオレは、フォックスじゃない何かを追っている、でもそれは一体何なんだ」
『知らんのか』
男の顔は見えない。けれどもなぜか、なんだか、鏡の向こう側にいる自分ではない自分を見ているような不思議な感覚に襲われた。
『あのときのフォックスも、そんなだったのかもしれないな』
男はそう言うと、少し悲しそうな顔でうつむきながら消えていった。
男の顔は最後まで見えなかったが、そのうちどこかで悲鳴と派手なブレーキ音が響いてきて誰かが派手に転んだ。
それと同時に、何か手のひらの中に何かを持っている違和感を感じる。
それは、どこかで見たことのあるような、二つの綺麗なダイスだった。
ハヤミは変な顔をした。
「なんだよ、これ」
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