命を絶てば
……と言うわけで、この永遠に繰り返される日々から逃れるため、成功するまで間宮君に告白する事を決意したのだけど。それからがまた長かった。
思った通り、二度目の告白から一晩明けても、また昨日と同じ一日が繰り返されていた。
これでいい。成功するまで、何度だって繰り返してやるんだから。そう意気込んでいたのだけど。
「好きです!」
「ごめん」
「付き合ってください!」
「ごめんなさい!」
「そこを何とか!」
「ごめんなさいっ‼‼」
あれからいったい、こんなやり取りがあっただろう? 最初は、成功するまであきらめないって息巻いていたけど、フラれる日々がこう何度も続いたら、さすがに気が滅入ってくる。
可愛く言ってみた時もあった。強く押してみた時もあった。色仕掛けで迫って……は、止めておいたけど。
とにかく、結果はことごとく失敗。だいたい告白をやり直すにしても、繰り返されるのが一日だけって言うのが問題だよね。これがもし、一カ月くらい前からやり直せるのなら、アプローチして好感度を上げるなり、好みの髪型にするなりして、色々準備ができるのに、当日の朝からじゃあ出来る事なんて限られてるもの。
ねえ、いったいあの日から、どれだけ経ったの? 同じ日を繰り返しているのなら、時間は経っていないのだろうけど、いい加減疲れてきたよ。
こんなに何度も好きって言ってるのに、間宮君は一度だって、『ごめん』以外の返事をくれないんだよ。私って、そんなにダメなのかなあ? 何度告白したって、結局は無駄なのかなあ?
そんな日々が、もう何日も続いて、私は疲れ果てていた。本当にもう、疲れたのだ。
この日私は授業が終わった後、いつもの校舎裏では無くて、屋上へと足を運んでいた。この日々を終わらせるために。
何度告白しても無駄。そう思った私は、他の解決方法は無いものかと考えた。そして、バカげているかもしれないけど、たどり着いた答えと言うのは……自らの命を絶つ事だった。
自分でもおかしくなっていると言う自覚はある。でもこのままじゃ、永遠に明日には進めないじゃない。だけどもし、もしも私が命を落としたら、その時はどうなるの? 死んじゃうんだから、もう繰り返される事だってなくなるよね。
生きていく限り、同じことを繰り返すだけなら、いっそ死んでしまった方がいい。そうすんなりと思うことができたのは、やっぱりこの毎日に疲れていたからだろう。
以前の私だったら、絶対にこうは思わなかったはず。だけどもう、限界なの。もう疲れたの。何度も何度も告白して、その度にフラれて。そしてそのフラれた事すら、無かったことになって。こんな日々に、いったい何の意味があるって言うのさ⁉
命を絶てば、きっとこの不毛な時間から抜け出すことができる。だったら……
屋上へとやってきた私は、フェンスに近づいて下を見る。そこには授業が終わった生徒が帰っていて。きっと皆、今から誰かが飛び降りて来るなんて思っていないんだろうね。
これも一種の、失恋したショックで自殺って事になるのかななんて、どうでもいい事を考える。
ふふ、今から死ぬって言うのに、我ながらのんきな事を考えている。
お父さん、お母さん、こんな娘でごめんね。そして間宮君、フラれちゃったのは悲しいけれど、それでも私は、ずっと間宮君の事が好きだったよ。それはきっと、これからも……
「さあ、もう逝かなくちゃ」
回想を終えた私は、フェンスへと足をかけ、そして……
「止めておきなさい。そんな事をしたって無駄ですよ」
とつぜん耳に届いた声に、動きを止めた。今の、いったい誰の声?
驚いて振り返ってみると、そこにはさっきまでは確かにいなかったはずの、スーツ姿の男の人が立っていた。
見た目は、二十代半ばくらい。一瞬先生かと思ったけど、こんな先生見た事ないし。でももしかしたら、新任の先生だったりする? 整った顔立ちで笑みを浮かべていて、一見すると女子に人気が出そうなタイプ。だけど私にはその笑顔が、なぜか怖く思えた。
フェンスから足を外して向き合うと、その人はゆっくりと口を開く。
「ようやく私の声が届いてくれましたね。藤塚美和さん」
その人は仮面のような笑みを浮かべながら、私の名前を呼んだ。
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