明日に進むためには

 間宮君にフラれた次の日から、私は何度も昨日を繰り返している。信じられない事だけど、これは紛れも無い事実だ。

 カレンダーの日付も、授業の内容も、何日経っても変わることは無くて。最初は、フラれた事を無かった事に出来るのだから、やり直せてよかったなんて思っていたけど、何度も繰り返していくうちに、だんだんと考えが変わってきた。


 だって考えても見てよ。フラれようがフラれまいが、その日一日何をしようが、一晩経ったら全部無かった事になっているんだよ。そんな不毛な事を繰り返す事に、いったい何の意味があるって言うの?

 そうしてこんな日々を何度も繰り返しているうちに、本当に何も変わらない毎日に、少しずつ嫌気がさしてきた。


 そう言えば昔、この状況とよく似たSFドラマを、見た事がある。とてもショックな出来事があった主人公が、何度も同じ一日を繰り返すと言うもので。そのドラマではその、ショックな出来事を回避する事で繰り返しは無くなり、明日へを進むことができたという内容だったっけ。


 もしかして、今の私もそれと同じなのかも?

 そうなると心当たりとなるのは、間宮君にフラれた事。あの日起きたショックな出来事と言えば、やはりそれだろう。と言う事は、間宮君にフラれたショックで、何らかの力が働いて、私はずっと、昨日を繰り返していると言う事なのだろうか?


 なんてことを言うと、テレビと現実がごっちゃになっているみたいだって自分でも思うけど、事実そんな状況が続いているのだから仕方がない。

 うーん、ここはひとつドラマと同じことをしてみようかなあ。そうすればもしかしたら、明日に進めるかもしれないし。


 もしもドラマの通りなら、ショックな出来事を回避出来たら、つまり間宮君にフラれなければ、この繰り返しが終わることになる。

 けど、よく考えたら回避はもうできているよね。最初のあの日以来、告白はしていないのだから、それからはフラれていない。にも拘らず、昨日を繰り返すのは止まらない。と言う事は……


「まさか、告白を成功させないと、明日に進めないって事なんじゃ?」


 ただの仮説ではあるけれど、案外バカには出来ないかもしれない。

 だってそうでしょ。今まで生きてきた中で、こんな奇妙な出来事が実際に起きたなんて話は、聞いたことすらなかったんだもの。それなのに急にこんな事になった原因は何かって考えたら。いつもと違った事と言えば、フラれた事だけなんだもの。


 どうしてフラれたからって、一日がループするのかは知らないけど、本当にいつもと違うのはこれだけ。だったらやっぱりここに、何か原因があるんじゃないかって思ってしまう。例えば私が、やっぱり間宮君と付き合いたい、告白をやり直ししたいって強く想ったから、神様が願いを叶えたとか。普段良い子にしてたから、神様が融通を聞かせてくれたのかな? ははは。


 って、冗談を言っている場合じゃないか。もし本当に、告白を成功させるのが、この無限ループからの脱出方法だとしたら、いったいどうすればいいのだろう? 普通に告白しても、フラれちゃうのは目に見言えているしなあ。


 だけどしばらく考えた後、やっぱりもう一度告白してみようと言う事になった。

 だってもしこの仮説が当たっていたら、そうしなきゃ明日に進めないじゃない。そりゃ、一度フラれているから、怖いって思うよ。またフラれるのは、嫌だし。だけどこのままじゃ、一生この変わらない日々に閉じ込められたままなんだもの


 それに……それにね。図々しい考えなんだけど、もしかしたら勇気を出してもう一度告白すれば、その時はOKを貰えるんじゃないかって。そんな期待が、僅かにあった。

 だって間宮君、私の事を嫌いなわけじゃないって言っていたから。もう少し押しが強ければ、あるいは、もう少しおしとやかに振る舞っていれば、もしかしたらいい返事をもらえていたかもしれない。そんな気持ちが、ほんのりと浮かび上がってくる。それにもし今度もダメでも、それだって無かった事になるのだ。だったら当たって砕けろの精神で、チャレンジしてみたい。


「決めた。もう一度告白しよう」


 そうして次の放課後になって、訪れた校舎裏。そこには前と同じように、間宮君が一人佇んでいた。私はそんな間宮君に近づいて……


「間宮君好きです! 私と付き合ってください!」

「……ごめん」


 ううっ、淡い期待を粉々に砕く、キツイ一言。

 返ってきたのはあの日と同じ、謝罪の言葉。覚悟はしていたけど、やっぱり本人の口からこう言われると、ショックだ。だけど。


「ふ、ふふふ……」


 もう一度フラれたのはショックだったけど、それでも私は、笑みを浮かべる。負けるものか、こっちだってこれくらいは想定内なんだから。だけど明日になれば、またすべて無かった事になっているはず。だったら成功するまで、何度だって繰り返したらいいじゃないの!


「間宮君。私明日も、また来るから」

「えっ?」


 驚いた顔の間宮君。私はそれ以上何も言わずに、踵を返して去っていく。今日はダメだったけど、明日だ。明日また告白して、成功させればいいのだ!

 勝算があるわけじゃないけど、こうなったらもう意地だ。間宮君が「良いよ」って言ってくれるまで、何度だって告白してやるんだから!


 告白を成功させることが、この繰り返しを脱出する方法だという根拠は無いのだけれど。今はただこの仮説を信じて、決意を固めるのだった。

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