第5話『悪夢、再び』
葉月の失踪事件が記憶から薄れ始める程経ったある日のこと。『
「――危ない!」
上から聞こえてきたその声に、葉月はすぐさまその方を見上げる。すると、なんとそこには確実に自分の方へと向かって落ちてくる植木鉢が。身の危険を感じ、すぐさまその場から離れようと走り出すその瞬間――
「え……? 嘘……でしょ……?」
その信じられない絶望的な光景に、どんどんと顔が青ざめていく風花。なんとその場にいたはずの葉月が、まるでマジックでも使ったかのように
『いや……イヤッ! いやああああああああああああ――――!』
またしても死にも等しい状況に立たされた事実を徐々に認識し始めた風花は、ゆっくりと何度も首を振りながら今目の前で起こった事実を必死で否定しようとしていた。だが現実は非情で、またしても葉月はこの世界からいなくなってしまったのであった。またあの地獄のような日々が戻ってくるのかと、絶望に打ちひしがれる風花。この最悪の現実に、足の力も抜けてその場に座り込んでしまう。
「ふ、風花……」
その全てを失ったかのように絶望している風花に、
そして何より風花の生を失ったかのような状態に、かける言葉が見つからなかったのだ。『この世界にいない』ということはそれは『死』と同等の意味を成す。自分の大切に想っている人が死んだとあれば、その悲しみは計り知れないものであろう。
「と、とりあえずさ! ここにいてもしょうがないし、保健室にでも行ってちょっと休ませてもらおうよ」
和彩は必死になって言葉を捻り出して、そんな提案をする。ここに留まるのは、周りの視線もあるし得策ではないだろう。その提案に風花は小さく頷き、そこから立とうとするが絶望からか足に力が入らないようだった。それを見た和彩はすぐさま自身の肩を貸して、風花を立たせてあげることにした。『葉月を失う』ということが、こんなふうに立てなくるほどに風花に影響を及ぼすとは。和彩は風花にとって、葉月がどれほど大きな存在なのかを実感しつつ、2人はとりあえず保健室へと向かうこととなった。
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保健室、とりあえず先生に事情を説明するが、状況があまりにも非現実的すぎて先生もどこか混乱しているようだった。でも風花のボロボロの姿を見て、余程のことが起きたのだというのは先生もわかった。なので先生は保健室で休憩することを許可し、風花は中のベッドで横たわるととなった。
「でも、あれって結局何だったんだろうね?」
突然と
「わからない……でも葉月がもうこの世界にいないのは事実」
「……ねえ、風花。私思うんだけどさ……」
「何?」
「あの謎の現象について調べてみない? このまま何もしないで葉月が帰ってくるのをただ祈って待つっていうのはちょっと時間のムダだと思う」
「でもあんな、とてもこの世の理屈で説明できなそうなアレを、私たちで解き明かすことができるかな?」
自分の理解の範囲外の現象に、風花はどこか怯えているようだった。これはもはや警察すらもアテにならない、解決なんてできやしないだろう。そんなものと今、風花たちは戦おうとしているのだ。
「全てを解き明かす必要はないよ。せめて葉月が戻ってくる糸口でもいい、何かしらの情報を掴めれば――やらないで後悔するより、やって後悔した方がいいでしょ?」
でも対して和彩はそんな考えを示す。その敵に怯えて何もしないで後悔してしまうより、何かしらの行動を起こすことは大事だろう。あまりにも希望的観測すぎるかもしれないが、その行動でもし何か希望が掴めたなら事態は変わるかもしれない。
「……そうだね。葉月のためだもの、やれるだけのことはやってみたい」
その考えに納得した風花は、そう決意を下す。全ては葉月と再会するため。風花は自分の心にそう言って、自身を奮い立たせる。
「うん、その意気だ! じゃあさ、まず最初の失踪事件について調べてみよっか。たぶんあれも今回のそれみたいにどこかで姿を消してるはずだもの」
「うん、校内だし誰か見てる人がいるかもね」
「よしっ! 決まりだ! じゃあ、調査は放課後。今は風花は休んでおきな。私は授業に戻るから」
「ありがと、和彩ちゃん」
それに軽く微笑み、和彩は保健室を後にした。再び起こってしまった悪夢のような事件。はたして、この事件の原因は見つけることができるのだろうか。また、葉月は今回も帰ってこれるのだろうか。
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