「ふーん」


土方が話し終えると、正太郎はそう相槌を打った。


「あんまり驚いちゃいねえって風だな、旦那」

「まあな。むしろ納得っていうか」


平気で刃物を人に突き付け、脅す。

あの男ならやりかねない。

正太郎はそう思った。


「で、その男はどうなったんだ」

「それが、次の日にはいなくなっちまってよ。だが、金も何も店から持ち出されてなかったもんだから、特に問題にはならなかったんだ」

「へえ…そいつは一体何だったんだ?」

「分からねえが、タカのやつ、お頭がどうのこうのって言ってたから」

「ヤクザか盗賊か、まあその辺りが絡んでるな」


とすると、どうなるのだろう。

何かしらの悪事が起こるのを事前に察知し、それを食い止めようとしたのか。

はたまた彼もどこぞの悪党集団に属しており、縄張りを荒らすなと釘を刺したのか。


分からない。


「タカは?その後亀店は辞めたんだろ」

「ああ、あいつもその後すぐ辞めた。確か、一月とかそんなもんじゃなかったかな」


ますます分からない。

もしタカも悪事の下調べに来ていたのだとすれば、その後に盗みや何やらと騒ぎがあったはずなのだが、亀店で何か事件が起こったなど、聞いたことがない。

小男を脅した後すぐ辞めたのは、ただの偶然なのだろうか。


「ところで、八年前ってえとタカはいくつだ」

「十七だよ」

「じゅっ…」


思わず土方を二度見してしまう。


「十七?」

「ああ。ったく、恐ろしいやつだぜ」


しみじみと言う彼に、正太郎も頷くしかなかった。


「十七か…僕も負けていられませんねえ」


なぜか悩ましげにため息をつく総司。

それがまた、やけに様になっているものだからどうしようもない。


「おい、何か間違ってるぞ」

「土方さん、間違ってるも何も、同じ刃物を使う者として、こう、むくむくと血が熱くなりませんか?」

「刃物違いだろうが。根本から間違ってらあな」

「はあ…分かってないなあ。そんなんだからタカになめられるんですよ」

「んだと」


土方の目元がぴくりと引きつる。

そんな二人を見て、正太郎はふふんと鼻で笑った。


「ま、タカのことは暇な時に調べといてやるよ」

「なんでそんなに上から目線なんだよ」

「俺を誰だと思っていやがる。八丁堀の旦那だぜ」


威張る正太郎に、総司は「不浄役人なんて呼ばれてるくせに」と小さく反論した。

しかし、正太郎は無視をする。


「そんなことより、ちょいと総司を借りてもいいか?いいよな、土方さんよ」

「まあ…近藤さんの許しももらってるしな」


口ではそう言うものの、やはり顔は不満げである。

しかし正太郎は、それさえも無視した。


「よし。そんじゃ、行こうか」

「えっ、どこに行くんです?」

「決まってらあな。たかの屋さ」


正太郎はにやりと笑った。

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