四
「ふーん」
土方が話し終えると、正太郎はそう相槌を打った。
「あんまり驚いちゃいねえって風だな、旦那」
「まあな。むしろ納得っていうか」
平気で刃物を人に突き付け、脅す。
あの男ならやりかねない。
正太郎はそう思った。
「で、その男はどうなったんだ」
「それが、次の日にはいなくなっちまってよ。だが、金も何も店から持ち出されてなかったもんだから、特に問題にはならなかったんだ」
「へえ…そいつは一体何だったんだ?」
「分からねえが、タカのやつ、お頭がどうのこうのって言ってたから」
「ヤクザか盗賊か、まあその辺りが絡んでるな」
とすると、どうなるのだろう。
何かしらの悪事が起こるのを事前に察知し、それを食い止めようとしたのか。
はたまた彼もどこぞの悪党集団に属しており、縄張りを荒らすなと釘を刺したのか。
分からない。
「タカは?その後亀店は辞めたんだろ」
「ああ、あいつもその後すぐ辞めた。確か、一月とかそんなもんじゃなかったかな」
ますます分からない。
もしタカも悪事の下調べに来ていたのだとすれば、その後に盗みや何やらと騒ぎがあったはずなのだが、亀店で何か事件が起こったなど、聞いたことがない。
小男を脅した後すぐ辞めたのは、ただの偶然なのだろうか。
「ところで、八年前ってえとタカはいくつだ」
「十七だよ」
「じゅっ…」
思わず土方を二度見してしまう。
「十七?」
「ああ。ったく、恐ろしいやつだぜ」
しみじみと言う彼に、正太郎も頷くしかなかった。
「十七か…僕も負けていられませんねえ」
なぜか悩ましげにため息をつく総司。
それがまた、やけに様になっているものだからどうしようもない。
「おい、何か間違ってるぞ」
「土方さん、間違ってるも何も、同じ刃物を使う者として、こう、むくむくと血が熱くなりませんか?」
「刃物違いだろうが。根本から間違ってらあな」
「はあ…分かってないなあ。そんなんだからタカになめられるんですよ」
「んだと」
土方の目元がぴくりと引きつる。
そんな二人を見て、正太郎はふふんと鼻で笑った。
「ま、タカのことは暇な時に調べといてやるよ」
「なんでそんなに上から目線なんだよ」
「俺を誰だと思っていやがる。八丁堀の旦那だぜ」
威張る正太郎に、総司は「不浄役人なんて呼ばれてるくせに」と小さく反論した。
しかし、正太郎は無視をする。
「そんなことより、ちょいと総司を借りてもいいか?いいよな、土方さんよ」
「まあ…近藤さんの許しももらってるしな」
口ではそう言うものの、やはり顔は不満げである。
しかし正太郎は、それさえも無視した。
「よし。そんじゃ、行こうか」
「えっ、どこに行くんです?」
「決まってらあな。たかの屋さ」
正太郎はにやりと笑った。
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