第12話 罪は消えない

 息も絶え絶えに病院にたどり着く。

 あやの病室の前で一度深呼吸をしてから、扉をノックして開いた。


結梨ゆうり、今日も来てくれたのね」


「……うん」


 絢はいつも通りだった。

 いつも通りの暖かな笑顔を見せてくれて、記憶の差異に苦しんでいる様子はない。

 取り越し苦労ということか。


「急いで来たの? 息上がってるけど」


「うん、絢に早く会いたくて」


 落ち着いて、呼吸を整えてから絢のそばに寄る。椅子に座ってからもしばらくは心臓が跳ねてるみたいに落ち着かなくて、バクバクとうるさい音を立て続ける。


「絢……この前の日曜日、誰かここに来た?」


「日曜日……うん、来たよ。クラスメイトの人が来てた」


 やっぱり葉波は来てたのか……。

 私は、葉波だけには会わせたくなかった。名前を口にするのも、連想させるようなものも排除してきた。

 なのに葉波が直接来て全てを台無しにしやがった……、と思ったけれど、絢はいつも通りだったのを見るに記憶は戻っていないのか?


「絢……記憶はどう?」


「ううん。クラスメイトの人と少し話したけど、やっぱりダメみたい」


 それを聞いてひとまず安心する。

 葉波を見て記憶が快復するという最悪な展開にはならなかったようだ。


「ねぇ、結梨」


「なに?」


「キスして」


「え?」


「私から頼むのすごく恥ずかしい……けど、お願い、キスして、私をめちゃくちゃにして」


 炎のように顔を赤くさせながら、絢は初めて自分からキスをねだってきた。

 嬉しいと思う前に、疑問が生まれた。


「どうしたの急に。何かあったの?」


「ううん。何もない。でもお願い。何も考えられなくなるくらい、私を好きにして」


 潤んだ瞳が早くとせがんでくる。

 喉が急激にからからに乾いて、体が火で炙られてるみたいに熱い。


 私は、絢の望み通りにしてあげた。体はまだ怪我があるから無茶はさせられない。それでも、出来るだけ要望に応えられるように、絢の唇に舌を滑り込ませた。


「んん…………」


 体を乗り出して、半ば押し倒した状態になって絢の舌を貪り始めた。

 舌を絡ませて、吸って、水音をわざと立てて、舌の裏も上顎も歯も、いつも以上に激しくねぶり続ける。

 絢は体をびくびくと震わせて、必死に私の体を掴んでくる。


「……ぷぁっ。ハァ、絢、可愛いよ」


「あっ、結梨……っ」


 嬌声をあげる絢の首筋や耳にも舌を這わせる。絢は鎖骨の辺りが弱いのか、口づけをするだけで甘い吐息が漏れていた。

 首筋、鎖骨、そして更に下へと指が辿っていく。服の上から乳房を指でなぞる。小柄な体躯の絢だけれど、胸は私から見て大きめの部類だと思う。


「ふっ……ん」


 乳房に触れると絢から声が漏れる。手のひらで優しく包むように触ってあげると、柔らかな弾力を服の上からでも感じられた。


「ゆ、結梨……っ」


「大丈夫。痛くしないから」


 服を軽くはだけさせて、胸部を晒す。下着をずらして乳房を露わにする。淡い桜色が視界に入って、私は生唾を飲んだ。


「絢……」


「結梨……んんっ!」


 口づけをして、優しく舐める。

 舐めて、吸って、軽く歯を当てる。


 ……病室の防音機能ってあるのかしら。

 私はそんな事を考えるけれど、考えるだけで行為をやめようとはしなかった。

 幸福の瞬間を、自分から止める人間なんていない。私は今、幸せだった。



 乳房から顔を離して、絢の顔を見つめる。

 頬はしゅを引いたように真っ赤で、目には涙を浮かべて私を見上げている。

 涙が絢の目元から溢れて薄い川のような線を引く。そんなに乱れるほど感じてくれることが嬉しくて、私は絢の涙を拭ってあげた。


 時間の許す限り、日が没するまでのわずかな時間のうちに、私は絢を愛してあげた。

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