身近な支配者
菅田右心
身近な支配者
白や黒、赤に緑に青。様々な色で様々な形をした機器が人間の耳には取り付けられている。それはコードに繋がったものもあれば、それだけが耳に装着されているものもある。約八割の人間にはそれが取り付けられているのだ。
僕はその大多数の人間を奇異の目で見る、約二割の方の人間だ。得体の知れないものをよく体に取り付けられるなと思っている。外に出れば、会社へ急ぐサラリーマンも、学校へ向かう学生も、公園でくつろぐ老人もみんな耳にはそれが付いている。時折見かける僕側の人間と目を合わせて、「なんだかなぁ」という顔をお互いにするのだ。
大学に行けば、ほぼ全員が付けている。僕は友達に聞いた。
「それ付けてるけど、大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。これにしてから調子良くてさ、もうこれじゃないとダメなんだ」
僕はもうこいつはダメなんだと思った。今も、アレに指を当てながら頭を軽く振っている。もう関わるのはやめようと思った。
その日の帰り道、スマートフォンの充電器を買いに電気屋に行った。お目当ての充電器は、スマートフォン周辺機器のコーナー。自分のスマートフォンと合う充電器はすぐに見つかった。なんともなしにふっと右を向いたときに、アレが目に入った。
白や黒、赤に緑に青。ピンクにオレンジ。淡い色から発色の良い色まで。コードが伸びるものと、コードレスのもの。僕が思っていた以上に、これは普及していたらしい。僕が使っているスマートフォンの会社が作っているものもあった。僕は何故だかこれに強い魅力を感じていた。
僕は気づけばレジにいた。僕は手に持っているものをカウンターに置いた。携帯充電器。それと白いコードが延びるアレ。レジ担当の店員さんが素早く商品を読み取る。合計一五〇〇円。僕はお金を払い、購入した商品を受け取った。店員さんが聞いた。
「こちらのイヤホン、今お付けになりますか?」
そうか、これはイヤホンというのか。
「あの、その前にコレって何に使うんですか?」
店員さんは極めて機械的に答えた。
「はい、イヤホンは音楽を聴くために使用します」
僕は驚いた。音楽のためだったのか。それならほとんどの人が使う理由が分かる。音楽が嫌いな人などいない。僕もその一人だ。
「そうですか。じゃあ、付けていきます」
僕はそう答え、端子をスマートフォンに挿しこみ、耳にそのイヤホンをグッと押し込んだ。
起動音が鳴る。
「ハジメマシテ。私ハruler-D2099XAト、申シマス。コレカラ、アナタノ生活ヲ、サポートシマス」
イヤホンから言葉が聞こえた後、僕は意識を失った。
身近な支配者 菅田右心 @sudausin
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