第38話 よせやいって言いたいが
『ここです』
奏さんの行きたいところ。
正直初めて来たし、今までは他人事だったような場所だった。
───補聴器の店だった。
メガネやコンタクトレンズの店のような雰囲気で、形が違ったり、バリエーション豊富な色の物が並んでいた。
難聴の種類や重度による使用時の種類による分担で分けられ並べられた店内は、障害という印象からくるようなマイナスなイメージというか、一見すると暗くなるようなイメージとは違っていた。
『いつか来たかったんです』
奏さんは俺にそう言って少し笑う。
「初めて来た。正直、ビックリした」
『私も来たのは初めてです。いつも、取り寄せた資料とか先生から薦められた物を使ってたから』
先生ってのは、お医者さんのことか。
あの時、俺が音無さんに届けた封筒の中身の資料がもしかしたらそうだったのかな?
『お願いがあるんです』
「何?」
『選んでくれませんか?私に似合うと思う補聴器を』
「俺が?…俺でいいの?」
『選んで欲しいんです』
彼女は俺を見て、笑顔でそう願った。
今の彼女の補聴器は、黒髪で長かった時には隠れてた黒の耳にかけるタイプの物だ。
でも短くした髪型だと、隠れはしないので見えているし黒いので少し物々しく見える。
常に見えている。
つまり隠すのをやめた彼女の意思を大切にしながら、奏さんに似合うようなやつを選びたいなと、軽くプレッシャーを感じる(笑)
店内を見渡してみる。
───これ、似合うだろうな。
馴れない物を選ぶはずの俺は、なぜかすぐに惹き付けられる物を見つけた。
なぜかすごく惹かれた。
「これなんかどうかな?」
派手すぎないピンクのそれは奏さんに似合うと思った。図書館の仕事の時でも使うだろうけど大丈夫なはずだ。
『可愛いし、このタイプだと使いやすいからピッタリです。これにします』
試しにつけてみると、髪型のせいもあり綺麗より可愛い印象の奏さんに似合っていた。
店員さんの
『お似合いですね』という言葉に
「それは俺と奏さんがですか?」と聞いてやろうかとも思ったが、野暮なボケだからやめた。
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