第37話 引け目と負い目と

今までの彼女と何かが違う。

いや、している。


喫茶店の前に座る奏さんは、補聴器をつけていることを隠すのをやめた。

それはつまり、耳の病気のことを隠すのをやめたのと同じで。


障害者として気をつかわせることにを感じるし、後天性だから余計に自分の耳が不自由なことにも感じていたはずだ。


───何でそんな風に笑えるの?


全部すっ飛ばして、聞いてしまいたい。

同じ境遇なら俺にもあんな風に笑えるか?なんて、考えるだけ無駄だ。

無理だ、間違いなく無理だ。

きっと悲劇の主人公を演じる毎日だ。


『…あんまり見ないで下さい。まだ髪の短いのも、耳も慣れてないから』


ガン見していた自分を誤魔化すように、コーヒーを飲むも感情が渋滞していてもう味なんかわからない。


「ごっ、ごめん」


クスクス笑う彼女は可愛かった。

そして、彼女はそのままの流れで言った。


『あの日、大勢の前で自分の耳のことを言われて嫌だった。惨めで、惨めで、惨めで…』

「………」

『隠してるのになんで?って思った』

「……あの時はそこまで考えられなくて」


そして遮るように続けた。


『同じくらい、ううん、それ以上に私の障害のことを考えてくれてたのが申し訳なくて』

「そんなこと………」

『そのくせ嬉しい部分もあって。めんどくさいな私って』


彼女の言葉が本心だと思えた。


『なのに、あんな封筒くれるから…』


今、改めて思う。


『全部、諦められなくなっちゃいました』


────俺は、恋をしている。


『……今から行きたいところがあるんです』


うん…断る選択肢ないわな!


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